紺色の小型龍
エレシェフィールが、顔真っ赤にして倒れた。
「フォル、エレシェフィールは、多分耐性ないから、そういう事は控えた方が良いと思う」
控えた方が良いって何を?
ちょっとあったかいってほんとの事言っただけなんだけど。
「……僕寝るから」
納得いかずふて寝。
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夕方になってる。何時間寝てたんだろう。
エレシェフィールが隣で恥ずかしそうに、僕の手を握ってくれている。
「けーきしゃん」
寝てるみたい。ケーキの夢を見ているなんて、ほんとに甘いもの好きなんだね。
「今日一日は安静に」
「うん。フィルがずっといてくれると思うと、悪く無いかも」
こういう時くらいなんだ。フィルがずっと僕の部屋にいるのって。
仲が悪いなんて事はないけど、最近は、用がないと部屋を訪れる事なんてないんだ。だから、こうしてフィルが僕の部屋でゆっくりしているのは、久しぶりなんだ。
「もっと来るようにするから、早く良くなって。フォルが寝込んでいると、心配で何もできない」
「うん。今度から、最低でも三日に一度くらいは、一緒に寝たい」
毎日って言いたいけど、それはフィルに悪いから。これで我慢する。
「毎日で良い。もっと甘えて良いから」
「……うん」
「……ぷみゅ。エレはお邪魔だから帰るの」
「だから、帰らないで。一緒にいて」
エレシェフィールが好きだから、離したくないんだけど、エレシェフィールが、離れようとする。
もしかして、何か機嫌を損ねるような事でもしていたのかな。今のうちに謝っておいた方が良いかも。
「怒ってる?」
「普通に兄弟水入らずっていうのが良いと思っただけなの。フォルはその方が良い違うの?」
とりあえず、怒ってない事に安堵。エレシェフィールが、僕の事を考えてくれてるのに感動。
「エレシェフィールは、毎日フォルと一緒にいるべきじゃないと思う。少しずつ時間を増やした方がエレシェフィールのため」
「……みゅ。エレはちょっとずつフォルとの時間増やすの。どきどきで大変になっちゃうから、触れ合うのも控えて欲しいの」
「うん。エレシェフィールが望まない限り、我慢する」
エレシェフィールと一緒にいたい。触れたいとは思うけど、エレシェフィールが慣れていかないと、さっきみたいな事が多発するだけだと思うから。
ただ手を繋いで、ほんとの事言っただけであれだから。
「そろそろ夕食作らないと。エレシェフィールの好きなものは、事前にゼロから聞いてるから、今日はそれを参考に作る」
「ありがと」
「ありがとなの。楽しみ」
フィルが夕食作ってる間は、何をしていようか。安静にって言われてるから、部屋から出ると怒られそう。
「……フォル、エレのお話聞いて欲しいの。エレ、この前見た夢のお話なの」
「どんな夢を見たの?」
「世界様って呼ばれている人の夢。シュメアって女の子とお話したの。エレの……愛姫の役目について。エレは、小型龍を生み出さないといけないらしいの。そのために、エレは、愛を知らないとなの。だから、だから……おてて繋ぐの恥ずかしいけど、ちょこっと触るくらいはがんばりたいの」
エレシェフィールが、僕の手に触れる。頬が赤いけど、さっきみたいに倒れはしていない。
恥ずかしいのに頑張る姿が可愛らしい。
「フォル、倒れたって聞いたけど大丈夫か?」
「うん。ありがと。忙しいのに、わざわざ来てくれて」
ゼロが心配して来てくれた。今は、ゼロは試飲会の準備で忙しいはずなのに。
「日程決めてねぇから、ゆっくりできる。そんな事より、無理すんなつっただろ」
「ごめん」
「みゅにゃ。ゼロなの」
「エレシェフィールは連れ帰らないでよ。この子といると楽しいから」
ゼロが気を遣って、エレシェフィールを引き取ると言わないように先回り。
エレシェフィールとは一緒にいたいから。ゼロに引き取ってもらわない。
「ゼロ、エレも、フォルとフィルみたいが良い」
「兄弟が羨ましいのか?」
「分かんないの。でも、そう思うの」
「……お前がどう思おうが、お前は俺の妹だ。何度言えば分かってくれるんだ?俺は妹のエレシェフィールを愛してるって」
卵?
エレシェフィールの頭の上に卵が乗ってる。これが小型龍の卵なのかな。孵化しそう。
「そういうのじゃないの。フォルとフィルは、なんでも分かってるっていうのが、良いなぁって思うの。エレも、それが良いの」
「エレシェフィールの事ならなんでも分かってやるって俺も言いたいけど……そんな事言って、期待させて分かんないなんて言えねぇだろ」
「みゅぅ」
「けど、そうだな。エレシェフィールが喜ぶ事は知ってるって言って言いかもしれねぇな」
卵のヒビが大きくなってる。これって、エレシェフィールの感情に反応しているのかな。
「エレも、ゼロがだいすきって思うのは知ってるの。ゼロはエレにいっぱい教えてくれるから」
エレシェフィールがそう言って笑うと、卵が孵化した。
「みゅみゅぅ」
「ふにゃ⁉︎なんかでてきたの⁉︎」
紺色の小型龍。りゅりゅが碧で、この子が紺色。他の小型龍がどんな色か分からないと、何で決まっているのか分かんないか。
それにしても、エレシェフィールはなんでそんなに驚いているんだろう。頭に乗ってたの気づいてなかったのかな。
「名前つけるの」
なんかエレシェフィールみたい。
「にゅにゅ」
「ふにゅなの」
ゼロに似てるんじゃなくて、エレシェフィールに似てるんだけど。
「みゅ?なんでゼロに似てないの?」
「それはりゅりゅが説明します。小型龍は、まだ自我がないんです。ゼーシェミロアール様と一緒にいる事で、自我が生まれるんです」
「ふぇ?でも」
「そういうものなんです。りゅりゅは生まれつきだったので最近知りましたが」
エレシェフィールに似てるのは、自我形成前で、今は、エレシェフィールの分身のような存在だからかな。
これから、外の世界を知って、ゼロと過ごして、この子は、エレシェフィールの分身じゃない、にゅにゅという一匹の小型龍になるのかな。
「……いつか、フォルの……ぷみゅぅにゃぁ」
「なんでそれで恥ずかしがるんだよ」
「だって、だって、フォルとエレの子供?だよ!どきどきなの。恥ずかしいの」
僕だけ特別視してくれてるって喜べば良いんだろうけど、その言い方されると、こっちまで恥ずかしくなってくる。
「他は良いのかよ」
「ふみゅ?フォルだけ恥ずかしいの。なんでだろ?分かんないの」
「……とりあえず、他のみんなの小型龍?も生まれると良いな」
「ふみゅ。いっぱい生まれて、りゅりゅが楽しくなるの。お友達いっぱい作ってあげるの。それで……フォルの子供を」
「子供じゃなくて小型龍だろう」
エレシェフィール、僕のだけ、子供って思ってるみたい。
「……なんだか、恥ずかしいのにぎゅぅしたくなってきた。だめ?」
「君が良いなら良いけど」
「……ぎゅぅ」
エレシェフィールが、僕に抱きついた。さっきまで恥ずかしいとか言ってたのに。気まぐれな小動物みたい。
そういうとこも全部好きなんだけど。
「フォルって、エレのどこがすきなの?じゃなくて、どうしてすきになったの?」
「どうしてなんだろうね?君が魅力的だから?」
薄らと覚えている。僕がエレシェフィールを好きになった時の事。
でも、それは今は言えない。エレシェフィールが思い出さない限りは、言わない方が良い事だと思うから。
創世記に載っているような話だから、エレシェフィールなら思い出せると思うんだ。その時、教える事にするよ。
「……気になるのに教えてくれないの」
「いつか教えてあげる」
「みゅぅ。約束なの」
「うん」
こんな事言うくらいだから、エレシェフィールが、僕に恋愛感情を抱いているって知るのは、時間の問題だろうね。
早く、そうなってくれると良いけど、そうなったらそうなったで、大変そう。




