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紺色の小型龍


 エレシェフィールが、顔真っ赤にして倒れた。


「フォル、エレシェフィールは、多分耐性ないから、そういう事は控えた方が良いと思う」


 控えた方が良いって何を?


 ちょっとあったかいってほんとの事言っただけなんだけど。


「……僕寝るから」


 納得いかずふて寝。


      **********


 夕方になってる。何時間寝てたんだろう。


 エレシェフィールが隣で恥ずかしそうに、僕の手を握ってくれている。


「けーきしゃん」


 寝てるみたい。ケーキの夢を見ているなんて、ほんとに甘いもの好きなんだね。


「今日一日は安静に」


「うん。フィルがずっといてくれると思うと、悪く無いかも」


 こういう時くらいなんだ。フィルがずっと僕の部屋にいるのって。


 仲が悪いなんて事はないけど、最近は、用がないと部屋を訪れる事なんてないんだ。だから、こうしてフィルが僕の部屋でゆっくりしているのは、久しぶりなんだ。


「もっと来るようにするから、早く良くなって。フォルが寝込んでいると、心配で何もできない」


「うん。今度から、最低でも三日に一度くらいは、一緒に寝たい」


 毎日って言いたいけど、それはフィルに悪いから。これで我慢する。


「毎日で良い。もっと甘えて良いから」


「……うん」


「……ぷみゅ。エレはお邪魔だから帰るの」


「だから、帰らないで。一緒にいて」


 エレシェフィールが好きだから、離したくないんだけど、エレシェフィールが、離れようとする。


 もしかして、何か機嫌を損ねるような事でもしていたのかな。今のうちに謝っておいた方が良いかも。


「怒ってる?」


「普通に兄弟水入らずっていうのが良いと思っただけなの。フォルはその方が良い違うの?」


 とりあえず、怒ってない事に安堵。エレシェフィールが、僕の事を考えてくれてるのに感動。


「エレシェフィールは、毎日フォルと一緒にいるべきじゃないと思う。少しずつ時間を増やした方がエレシェフィールのため」


「……みゅ。エレはちょっとずつフォルとの時間増やすの。どきどきで大変になっちゃうから、触れ合うのも控えて欲しいの」


「うん。エレシェフィールが望まない限り、我慢する」


 エレシェフィールと一緒にいたい。触れたいとは思うけど、エレシェフィールが慣れていかないと、さっきみたいな事が多発するだけだと思うから。


 ただ手を繋いで、ほんとの事言っただけであれだから。


「そろそろ夕食作らないと。エレシェフィールの好きなものは、事前にゼロから聞いてるから、今日はそれを参考に作る」


「ありがと」


「ありがとなの。楽しみ」


 フィルが夕食作ってる間は、何をしていようか。安静にって言われてるから、部屋から出ると怒られそう。


「……フォル、エレのお話聞いて欲しいの。エレ、この前見た夢のお話なの」


「どんな夢を見たの?」


「世界様って呼ばれている人の夢。シュメアって女の子とお話したの。エレの……愛姫の役目について。エレは、小型龍を生み出さないといけないらしいの。そのために、エレは、愛を知らないとなの。だから、だから……おてて繋ぐの恥ずかしいけど、ちょこっと触るくらいはがんばりたいの」


 エレシェフィールが、僕の手に触れる。頬が赤いけど、さっきみたいに倒れはしていない。


 恥ずかしいのに頑張る姿が可愛らしい。


「フォル、倒れたって聞いたけど大丈夫か?」


「うん。ありがと。忙しいのに、わざわざ来てくれて」


 ゼロが心配して来てくれた。今は、ゼロは試飲会の準備で忙しいはずなのに。


「日程決めてねぇから、ゆっくりできる。そんな事より、無理すんなつっただろ」


「ごめん」


「みゅにゃ。ゼロなの」


「エレシェフィールは連れ帰らないでよ。この子といると楽しいから」


 ゼロが気を遣って、エレシェフィールを引き取ると言わないように先回り。


 エレシェフィールとは一緒にいたいから。ゼロに引き取ってもらわない。


「ゼロ、エレも、フォルとフィルみたいが良い」


「兄弟が羨ましいのか?」


「分かんないの。でも、そう思うの」


「……お前がどう思おうが、お前は俺の妹だ。何度言えば分かってくれるんだ?俺は妹のエレシェフィールを愛してるって」


 卵?


 エレシェフィールの頭の上に卵が乗ってる。これが小型龍の卵なのかな。孵化しそう。


「そういうのじゃないの。フォルとフィルは、なんでも分かってるっていうのが、良いなぁって思うの。エレも、それが良いの」


「エレシェフィールの事ならなんでも分かってやるって俺も言いたいけど……そんな事言って、期待させて分かんないなんて言えねぇだろ」


「みゅぅ」


「けど、そうだな。エレシェフィールが喜ぶ事は知ってるって言って言いかもしれねぇな」


 卵のヒビが大きくなってる。これって、エレシェフィールの感情に反応しているのかな。


「エレも、ゼロがだいすきって思うのは知ってるの。ゼロはエレにいっぱい教えてくれるから」


 エレシェフィールがそう言って笑うと、卵が孵化した。


「みゅみゅぅ」


「ふにゃ⁉︎なんかでてきたの⁉︎」


 紺色の小型龍。りゅりゅが碧で、この子が紺色。他の小型龍がどんな色か分からないと、何で決まっているのか分かんないか。


 それにしても、エレシェフィールはなんでそんなに驚いているんだろう。頭に乗ってたの気づいてなかったのかな。


「名前つけるの」


 なんかエレシェフィールみたい。


「にゅにゅ」


「ふにゅなの」


 ゼロに似てるんじゃなくて、エレシェフィールに似てるんだけど。


「みゅ?なんでゼロに似てないの?」


「それはりゅりゅが説明します。小型龍は、まだ自我がないんです。ゼーシェミロアール様と一緒にいる事で、自我が生まれるんです」


「ふぇ?でも」


「そういうものなんです。りゅりゅは生まれつきだったので最近知りましたが」


 エレシェフィールに似てるのは、自我形成前で、今は、エレシェフィールの分身のような存在だからかな。


 これから、外の世界を知って、ゼロと過ごして、この子は、エレシェフィールの分身じゃない、にゅにゅという一匹の小型龍になるのかな。


「……いつか、フォルの……ぷみゅぅにゃぁ」


「なんでそれで恥ずかしがるんだよ」


「だって、だって、フォルとエレの子供?だよ!どきどきなの。恥ずかしいの」


 僕だけ特別視してくれてるって喜べば良いんだろうけど、その言い方されると、こっちまで恥ずかしくなってくる。


「他は良いのかよ」


「ふみゅ?フォルだけ恥ずかしいの。なんでだろ?分かんないの」


「……とりあえず、他のみんなの小型龍?も生まれると良いな」


「ふみゅ。いっぱい生まれて、りゅりゅが楽しくなるの。お友達いっぱい作ってあげるの。それで……フォルの子供を」


「子供じゃなくて小型龍だろう」


 エレシェフィール、僕のだけ、子供って思ってるみたい。


「……なんだか、恥ずかしいのにぎゅぅしたくなってきた。だめ?」


「君が良いなら良いけど」


「……ぎゅぅ」


 エレシェフィールが、僕に抱きついた。さっきまで恥ずかしいとか言ってたのに。気まぐれな小動物みたい。


 そういうとこも全部好きなんだけど。


「フォルって、エレのどこがすきなの?じゃなくて、どうしてすきになったの?」


「どうしてなんだろうね?君が魅力的だから?」


 薄らと覚えている。僕がエレシェフィールを好きになった時の事。


 でも、それは今は言えない。エレシェフィールが思い出さない限りは、言わない方が良い事だと思うから。


 創世記に載っているような話だから、エレシェフィールなら思い出せると思うんだ。その時、教える事にするよ。


「……気になるのに教えてくれないの」


「いつか教えてあげる」


「みゅぅ。約束なの」


「うん」


 こんな事言うくらいだから、エレシェフィールが、僕に恋愛感情を抱いているって知るのは、時間の問題だろうね。


 早く、そうなってくれると良いけど、そうなったらそうなったで、大変そう。

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