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王と姫


 エレシェフィール。この世界の名前。そして、私の名前。


 世界を簡単に滅ぼす事のできる人達がいるの。二十と双子が二人いるから二十二人。炎、水、風とか、得意なもので、簡単に世界を滅ぼせるらしいんだ。


 その人達の事を、人々は終焉の王達って呼んでいる。

 終焉の炎の王とか。ちょっと長い気がするけど。


 それで、私は、人々からこう呼ばれている。


 愛姫って。


 愛なんて理解できないのに。理解しちゃだめって言われているのに、どうしてなんだろう。


 って事は今は良いとして、私は、その王達が世界を滅ぼさないようにさせないといけないの。


 ずっとずっと遠い未来で、終焉の王達に愛される姫。人々はみんなそう言っている。でも、そうなった経緯も、そこにある苦悩も、知っているのは、私達だけ。


      **********


 夜になってやっとお家に帰った。


 私は毎日、終焉の王達に会いに行っているの。終焉の王達を止めろなんて言うけど、私、一度も会った事ない人達ばかりなんだよ。それでそう止めろってなんてちょっとだけ思ってる。


 だからまずは、顔見知りになるところから始める。そう思って、毎日毎日、王達の誰かのところへ行くんだけど、毎回門前払い。話すら聞いてもらえない。


 今日も、隠魔法を得意とするフーネレオ様に会いに行ったの。でも、貴様みたいな女と会うわけがないって言われた。


 何度もお願いしたのにだめだった。


 これで、十八回目の門前払い。もう慣れたよ。


「りゅりゅ、生命の王のところ行きたくない」


 でも、失敗ばかりでちょっと挫け気味。私の眷属の碧色の小龍りゅりゅに弱音を吐く。


「エレシェフィール様が会いに行かなければ、世界が滅んじゃうかもしれませんよ」


「そうは言っても、誰も会ってくれないと、やになるよ。しかも、生命の王って危険とか怖いとかって言われてるから余計に」


「エレシェフィール様ならできますよ。というか、この世界のためにやってください」


「うぅ、りゅりゅが冷たい。りゅりゅ、もう遅いから戻ってて良いよ。明日、会うための格好とか色々と考えてから寝るから」


「……わかりました」


 明日は会えた時の事も考えて、きれいでお淑やかな格好を目指した方が良いのかな?でも、ちょっと遠いから、歩きやすいお洋服を選んだ方が良いかもしれない。


「ふぁぁぁ」


 眠くなっちゃった。もうここで良いから寝よっと。机を枕がわりにして、おやすみなさい。


「……」


      **********


「……れ……エレシェフィール!おい、起きろ!もう朝だぞ!」


 私、朝苦手。


 重い瞼を開けると、目に映るのは、青黒髪。先端の銀髪がとてもきれいで、その隙間から見える碧瞳が、まるで氷のよう。


 いつも起こしに来てくれる、ゼーシェミロアール様。氷の王。


 氷の王と生命の王は双子なんだ。


 私に唯一優しくしてくれるのが氷の王。ゼーシェミロアール様は、こうして私のお世話をしてくれる。兄のゼムレーグ様は私が住む場所をくれたの。忙しいみたいで中々会いに来てはくれないけど、私の事を大事にしてくれているのは、知っている。


「おはよ。ゼーシェミロアール様」


「ああ、おはよ。とっとと支度しろ」


 悩んでたの知ってたのかな?お洋服を用意してくれてある。しかも、ちゃんと肌が隠れるお洋服。


「ありがと」


「見られたくねぇんだろ」


「うん」


 中々消えてくれないアザ。


 私がここに来たのは、二十日くらい前。このアザは、ここに来る前に教育でできたアザ。愛姫になるには、どんな事でも耐えろって言われて。


 でも、ゼーシェミロアール様は、我慢しなくて良いって言ってくれたの。


「エレシェフィール、今日は冷えるから、あったかくしていろよ」


「うん。いってきます」


 身支度を済ませて、生命の王のところへ向かった。不安はあるけど、でも、行かないとだから。


      **********


 冷えるって言っていたけど、想像以上に寒い。なんだか、背中がゾクゾクする。


 ……ここ、門番さんいないんだ。


「あの、けほっ、エレシェフィールです。けほっ、お話だけでも」


「入って。ここにいて風邪引かれると困る」


 わぁ、ゼーシェミロアール様も美人だと思っていたけど、王達ってみんなこんなに美人なのかな。顔整っていて、ってそんな事良いから。ちゃんと仲を深めないと。


「ありがとうございます」


「寒そう。暖かいもの持ってくる」


 えっと、闇色髪の方は、フィージェティンルゼア様だよね。双子の兄の。


 面倒見が良くて優しそう。危険とかって言われてたけど、きっと何かの間違いだよね。


「そんなの用意しなくて良い。それより、寝せる方が先だ」


 青緑髪って事は、生命の王の双子の弟の方。フォーリレアシェルス様。


「こっちきて」


「はい」


 強引でちょっと怖そう。


 どこへ連れてかれるんだろう。


      **********


 フォーリレアシェルス様のお部屋で、強制的に寝かせられた。しかも、おでこに冷たいタオル置かれた。


「風邪か?」


「過労。何日も朝から晩まで王に会いに行ってたんだって。さっきゼロから連絡きた。自分が言っても聞かないだろうからって」


 かろう?なんだろうそれ?


 ていうか、ゼーシェミロアール様、どうして、フォーリレアシェルス様にそんな事頼んでいるの……ていうか、どうして知り合いなの?連絡先知ってるの?


 って、そういえば、王達は定期的に集まっていたんだった。それは全員と知り合いが普通だよね。なんで気づかなかったんだろ。


「フィル、悪いけど、少し二人にさせて」


「分かってる。おれは部屋に戻ってる」


 待って、二人っきりにしないで。フォーリレアシェルス様が一番危険人物だって言われてんだから。


 なんて思う虚しく、行っちゃった。


「こうして話すのは何年ぶりだろうね。久しぶり、エレシェフィール」


 ……優しい。警戒してたのが馬鹿に思えるくらい優しい。


 あと、会った記憶ないんだけど。


「君は覚えてないだろうね。告白までしたのに。君を好きだって」


 記憶がないのは、消されてるから。だから、仕方がないで済ますのは失礼すぎるよね。


 ゼーシェミロアール様の事もそう。記憶がない私はきっと、ゼーシェミロアール様を傷つけてる。自分では気づかずに。


 フォーリレアシェルス様だって、記憶がない私には、そんな告白知らないとしか言えない。どれだけ気を利かせようと、きっと傷つけるだけ。


 それを仕方がないなんて言いたくない。


「……」


「君の記憶がないのは、僕らが君を守れなかったから。君が気にする必要ないよ」


「そんな事」


「気にしないで欲しい。覚えてないなら、また思い出を作れば良いだけだから。また、僕の事を好きになってくれれば良いだけだから」


 そう言った笑顔には、不安も疑いもない。フォーリレアシェルス様は、信じてるんじゃない。知っているんだと思う。私が、フォーリレアシェルス様以外を選ぶ事ができないって。


 でも、どうして他の誰かに取られるかもしれないと思わないの?それが絶対だと思えるの?


 未来なんていくらでも変わる。確定した未来なんかないはずなのに。


「どうして?そんなの分からないのに。私が愛を知らないから?誰とも愛する事がないから?」


「僕が卑怯な男だからだよ。僕は自分が君に選ばれる以外の選択肢を与えないようにしている。だから、そう言えるんだ」


 私には幼い頃の記憶なんてない。フォーリレアシェルス様が卑怯かどうかなんて知らない。私の記憶では、初めて会うんだから。


 でも、その寂しそうな、悲しそうな笑顔が、フォーリレアシェルス様の優しさなんだと思うの。きっと、フォーリレアシェルス様は、私に嘘をついている。嘘と演技で、何かを隠そうとしている。


「私は、誰かを愛する事なんてできないかもしれないのに、本当に私で良いんですか?」


「君以外は考えたくない。必ず君に愛を理解させる。でも、勘違いしないで。これは、愛姫としての力を目覚めさせるためなんかじゃない。幼い頃からずっと、僕は君が好きだったから」


 私は知らない事が多いけど、本当に卑怯な手段を使う人を良く見てきた。


 優しすぎるよ。私は、愛姫は王達の誰かから守られてないとこうして外を歩く事もできない。


 主体となって守っている相手は、ゼーシェミロアール様ともう一人いる。ゼーシェミロアール様が、私の事で定期的に連絡を取り合っていたから。


 そのもう一人は、もう気づいてる。フォーリレアシェルス様なんだって。


 フォーリレアシェルス様は創造者の子供。その相手の頼みなら、他の王達も断らないと思う。だから、こうしていられている。


 本当に卑怯な手段を使うなら、ここで自分が守っているって事を伝えて恩を感じさせておくべきだよ。なのに、それをせずにそんな事言うなんて。


「……私は、さっきも言ったように、幼い頃の記憶はなく、愛というものを知ってはならないと言われて育って、愛を理解できません。なので、愛するなんて言えません。ですが、フォーリレアシェルス様以外を選ばないと言う事くらいはできます」


 今の私が返せるのはこのくらい。これで、逆に傷つけてしまうのかもしれないけど、でも、何か返したいから。


「ですが、そんなふうに強要するのは卑怯とおっしゃるのでしょう。なので、私にまいに……定期的に会いにきて……私も会いに行きます。それで、愛を理解させてみてください。私は、ずっと信じて待ちますから」


 いつか、あなたの、あなた達の姫になれて良かった。そう思える日を、ずっと待つの。それが、私がみんなに返せる事だから。

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