そばにいるから
「えっと······僕達はどこに行くのかな······?」
「······」
「か、鹿島君······?」
結城は託斗の問いかけには応じず、ただ黙々と歩みを進める。気まずい雰囲気が漂う中で男子組とは打って変わって、女子組は早々に打ち解けており、和気藹々と会話を楽しんでいる。
「楓ちゃん同い年なんだ! これって運命的確率だよー!」
「それは大げさですよ。メイさんは面白い方ですね」
名前呼びをする程に仲は進展しており、女子の驚異的なコミュニケーション能力に託斗は関心を覚えると同時に混ぜて欲しいとさえ感じていた。とはいえ、結城からすれば託斗は重要参考人的立場の人間であり、気安く話し掛けることも不可能なのであろう。
そんな歪な雰囲気を漂わせながら下水道を進んでいくと、目的地へと到着する。そこは街の最北に位置する現在廃墟となった下水処理場の跡地であった。ここならば一般人の出入りもないことからここは最適な隠れ家だ。
「望月です。これから帰投します」
耳元のデバイスに触れ、楓は何処かと連絡を行うと、数分もしないうちに処理場の天井が開き、上空から小型オスプレイが着陸する。
オスプレイを確認した後に託斗とメイは結城たちに聞こえないように耳打ちを始める。
「ねぇ、託斗君。今から帰るのって無しかな」
「······多分無理だよ。何というか、二人とも僕たちに背を向けてるはずなのに視線を感じるというか······」
「え!? 頭の後ろに目がついてるってこと! 緑色の戦闘員みたいな?」
「あのーそろそろ離陸するのですが」
楓の呼びかけに思わず託斗たちは体を震わせ、苦笑を浮かべながらオスプレイへと搭乗する。メイの願いは叶うことなく、託斗たちを乗せたオスプレイは離陸するのであった。
「うわぁ! 高い高い! 託斗君、私たちの家見えるよ!」
切り替えが早いのか、能天気と言うべきなのか、メイは既にこの状況を楽しんでおり、その肝が据わった性格を託斗は羨ましく思う。
「でも、これって見つかったら大騒ぎになるんじゃないかな?」
「その点は心配いりませんよ。このオスプレイは光学迷彩を搭載した特注の機体なので一般の方々には普段は視認できないようになってます」
メイはその話に目を輝かせる。無論、託斗も男たるものそういった科学じみた話は嫌いではないので頷きながらオスプレイの特徴に耳を傾けた。
しかし、それと同時に疑問が生じる。
こうした最新技術を導入した機体は日本どころか世界中を探しても未だに存在しないであろう。それほどまでの機体を極秘裏に開発するということは、その裏には想像し難い組織がいるのは明白だ。託斗は思考を巡らせるも見当がつくはずがない。
一度、この問題は保留とし、託斗は本題を切り出すために楓に問いかける。
「えっと、望月さんでしたよね。さっき鹿島君が言ってた愚者? 運命の輪? とかって一体何なんですか?」
「その件については本部で詳細をお話しますが、簡潔に言えばーー人智を超越した力、ですね」
その一言に機内の空気が一変する。背中にじんわりと冷や汗が垂れ、息が詰まるほどの緊張が託斗を襲う。自身が巻き込まれた現状を改めて理解すると同時に、フィクションと切り捨てたい説明に何も反応することが出来なかった。
体が震え始め、緊張から恐怖へと変貌した感情を前に視界が歪み、気絶しそうになってしまう。しかし、そんな託斗をみかねたのか、メイは託斗の頭に手を置き、優しく撫ではじめた。
「大丈夫だよ。私がそばにいるから」
「······ありがとう」
次第に恐怖が鳴りを潜め、メイのケアもあったおかげか多少の覚悟を決めた託斗は現実と向き合うのであった。