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アイスコーヒー
行きつけの喫茶店で僕は、ほぼ氷だけになった、アイスコーヒーの最後のひと口を喉に流し込んだ。
……ああ、なくなってしまった。
そのうちまた、店員が注文を聞きに来るだろう。そしたら四杯目だ。
さすがにもう、飲みたくない。
けれど、帰るわけにもいかない。
だって、今日はまだ。
からん、とドアベルが鳴って、誰かが店に入って来た。
──彼女だ!
僕はテーブルに置いたままだった文庫本に手を伸ばし、さも読書中ですよ、という体を取り繕う。
文字を追うふりをしながら、横目で彼女の姿を追う。
ああ。ここで彼女を見かけてから、何ヶ月が経ったのだろう。
未だに声をかけるどころか、名前すら聞けていない。
──よし。決めた。今日こそ、声を掛けてみよう!
と、決心した瞬間。店員が注文を聞きにやってきた。
思わず溜息をつく。
結局、今日も、四杯目のアイスコーヒーを飲むことになりそうだ。