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さめない熱
少しだけ、涼しくなった風が頬を撫でる。
ようやく日中の灼熱の熱さも、なりを潜めたころだ。
けれど、私の心は熱いまま。
それは今年初の浴衣に身を包んだことで、そこにこもる熱のせいだけじゃないんだろう。
「ごめん、待った?」
そう。この声だ。
私の心に熱を帯びさせ、涼やかな、夕涼みの風を吹き飛ばすのは。
「ううん。今、来たところ」
これまた浴衣姿の彼が、私に向かって手を伸ばしてくる。
その手を取って、腰掛けていた縁台から立ち上がると、また涼やかな風が私たちの間を通り抜けた。
「夕涼みには、いい時間だね。夏祭りには、まだ早い季節だけど……これくらいの時期のほうが、いいのかもね」
彼は笑顔で言うが、私はそうは思わない。時期なんか、関係ないんだ。
だって繋いだ手が、心が、熱い。
──あなたがいるから。
そうね、とだけ答え、私たちは手を繋いだまま歩き出す。
涼しい風が吹き抜ける、初夏の夕刻。
それでも、私たちの間には冷めることのない、熱がこもっていた。