ぼっちは、たまに誰かを助けることはある
目を向けた先には三人の女子生徒がいた。校章の色からすると同学年ではあるようだ。
「アイツ、マジで持って来るかな?」
「次は何させる?」
「まずは、今回のミッションをクリアするかよね」
女子が三人寄れば、姦しいとは言うが、ただ単に喧しいだけのような女子三人組が話をしながら、こちらに向かってくる。
これだけ離れているのに、声が聞こえるのって相当うるさいんじゃないだろうか。
こういう奴らって、なんで声が無駄に大きいのだろうか。生存競争が激しいのか?
「…丁度いいわ」
何が?と聞く前に、氷室は俺の腕を掴んで、三人組から見えない所まで俺を引っ張る。
渡り廊下に幾つかある、身長ほどの大きな窓にある薄い窪みに身体を押し込んで、三人組の方へ向き直る。窓の広めのサンに乗っかる形だが仕方ない。
「で、説明を頼む」
一応、流されたが、何がなんだかわからん。
「ごめんなさい。でも、百聞は一見にしかずってことで」
そうしてから、氷室はまた何かを取り出そうとしている。また、秘密道具か?
ただ、俺たちが、隠れている間に誰か来たみたいだった。さっきまで、俺たちがいた場所に四人の人影がいた。
三人組と下を向いたままの女子生徒が話をしている。
「…物は持ってきた?」ケバ子Aがニヤニヤしながら尋ねている。
ケバ子B、Cも気味の悪いニヤニヤが張り付いている。
「う、うん…」
下を向いた女子生徒は近くの本屋の紙袋を持ち上げた。
「…やるじゃん。じゃ、続きもよろしくね」
「待って、これは…やっぱり返したい。」
そうして、女子生徒は紙袋を抱え直して、へたり込む。
あの紙袋は……、そして、この流れだ。
ああ、これは面倒だが、見逃せないのだろう。
どうしたものかと思案していると、氷室に肩を叩かれた。一応スマホを取り出して、録画の操作をする。
「……なんだ?」
「これ掛けてみて」
縁が少し太めのメガネが差し出される。まぁ、何でもいいのだが、この状況で必要なことなのだろうか?
メガネを掛けたことがないので、一瞬戸惑うが、見様見真似で掛ける。
風景は何も変わらなかったが、ケバ子達の方に目をやると、何か小さな虫のようなものが、羽ばたいているのがわかった。メガネを外してみると見えなくなったので、やはりこのメガネを通して見えるものらしい。
「今、見えているのは、レッサーバグよ。学校の中で起こる問題の中で、生まれる歪のようなものなの」
「……ああ」
「それらが、集まって大きなものになったのが、昨日あなたが倒した……」
「……なんで見ているだけなんだ?」
「え?」
俺は隠れていた窪みから抜け出し、四人の方へ歩く。
傍から見ると突然現れた奴が近づいて来るのだ。四人は全員こちらに目を向けてきた。
「ちょっといいか?」センスはないが、無難な声掛けだろう。
「何? てか、誰?」ケバ子A が少し威圧的に答える。
「一応、関係がありそうだから首を突っ込むだけだ」
「は? わけわかんない。もういいや、行こ」
ケバ子Aは、BとCに声掛けする。BとCは面白くなさそうにしながらも、同意したようだ。俺を一睨みすると動き出す。
ケバ子Aは、下を向いたままの女子生徒……地味子でいいか…酷いかな? 地味子の紙袋へ手を掛けて、引き離そうとする。
地味子は抱えたまま動かないので、引っ張り合いのようになる。
「離せよ」
ケバ子の言葉に地味子の肩がビクッとなったのがわかった。
「これはダメ、ダメなの…」地味子の頬に一筋の涙が通った。
少し溜息をついてから、間に割り込むように話し出す。
「一応だが、さっきからのお前達の話している内容なんかは録画している。」
俺は胸ポケットからカメラ部分だけを出したスマホを指差す。
「……だから何?」
怖いものなしか。俺が出てきている時点で少し考えればわかりそうなものだが。
「教師に見せたらどうなるかわかるだろ。SNSに晒してもいい」
そう言うと、BとCはあからさまに動揺していた。だが、A 子だけは俺を射殺さんばかりに睨みつけてきた。
「特別なことは言わない。このまま手を引いてくれ」
それだけ伝えると、三人組は、もう一睨みしてから舌打ちを一つして、去って行く。
「それで、だ。これからどうしたい?」
「わ、私?」
地味子は以外だったのか、涙は引っ込んで、少し声が裏返っていた。
「ああ、それ、近くの本屋の紙袋だろ? 返すって言ってたな」
俺は紙袋を指差しながら、反応を待つ。
「……返したい。でも…」
「わかった。その気持があるなら、着いていく。だから、な?」
「ほんと? 今日初めて会ったのに? 何で?」
下を向いたままだった目線が、俺を見上げる。
「まぁ、何だ。色々とな…、逆に俺でも良いのか?」
地味子は少し思案するような顔をしたものの、ゆっくりと頷く。
「お、お願いします」
「じゃあ、放課後に校門前で」
それだけ言って、氷室のいる所まで戻る。
これ以上の約束や、やり取りなんかは必要ないだろう。来なければ、来ない時だ。