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ぼっちは飛び越えないが、拒絶はしない。


話し掛けられてから十分ほどして、再度声を掛けられた。

「お待たせ。行きましょ」

 早食いしたんじゃないだろうか。気が急ぐのはわかるが。

「わかった。新校舎への渡り廊下にスペースがある。そこでいいか?」

「いいわ」

 一応確認してから、目的の場所へ移動する。

 俺達の学校に新築された新校舎は中学棟になっているので、高校側から人が近づくことはない。それでいて、建物自体は渡り廊下によって繋げられており、デザイン上、渡り廊下の真ん中あたりに広めのスペースがあった。誰も来ないので、聞かれたくない話をするにはここが一番だろう。

「俺に話とは?」

「そうね…」少し思案しているようである。

「昨日の夜は学校にいた」埓があかないだろうから、そこから認めることにする。

「認めるのね。」

「水掛け論にしかならないだろ……事件に関しては黙秘する」

「それは、認めているようなものだと思うけど?」

「それでいい。ただ、俺が犯人と言っても他の奴らに証拠を説明できないしな」

「そうね……。でも、なんで?」

「理由か? 俺にもわからん。ただ、愉快犯とかイタズラ目的ではない。復讐でもない気はするが、どうだろうな」

「そう。でも、他の皆を巻き込むような事はやめて」

「それは、悪かった」そこに反省はするが、後悔はない。空気は悪くなったようだが、実質的に大きな被害はなかっただろうしな。

「じゃあ、昨日のバグ…、怪物との戦いについて話をしていい?」

「興味はないが、しない訳にはいかないんだよな」

「興味がない? あれを見てそう言えるの?」

「いや、なんとなくは、わかるし」

「でも、聞きたくないの?」

 たしかに、わかった気になっている可能性はあるが、自分に関係のある話じゃないしな。

「まぁ、これから深く関わるわけじゃないし」

 そこで、氷室の顔に少し寂しさのようなものが混じった気がした。

「そうね。そうよね。でも昨日は大和と一緒に戦ったのよね?」

「うん? いや、あれは……あ、あいつは?」

「大和のこと? 大和なら、今日は大事をとったの、明日には学校に来れるわ…。って、何か隠したわね?」

「いや、隠してはない」黙っておくのが一番いいと判断しただけだ。

「そう? それじゃあ、昨日は見ていただけなの?」

「そうだな」

「嘘ね。昨日、起きた大和が「俺は倒せなかった」って言っていたわ。大和の事だし、誰かの助力があったからそう言っていたのだと推測したのだけど……、違うようね」

 そうして、氷室は俺に疑いの目を向けてきた。

 どうする? 選択肢を間違うと何か良くない事に巻き込まれるような気がしてならない。これが全く知らない奴らなら片足突っ込むぐらいなら問題ないように思えるのだが、氷室と大和は少し関係性が近すぎる。

 嘘でもつくか…。全く関係のない第三者の登場でも……、と思い掛けたところで、氷室と目が合う。まっすぐに俺を捉える目は、思わず綺麗だと思えた。

「もしかして、あなたが倒したの?」

 ああ、この目は純粋過ぎるな。嘘をつくのは俺には難しい。

「……ああ、怪物は俺が倒した」

「わかったわ」そうして、氷室は何かを取り出した。

「すんなり信じるんだな」

「あそこに居合わせて、何かできたのはあなただけだし、倒した可能性は考えていたの」

 そう言ってから氷室は、時計のようなものを俺に差し出してきた。

「これは?」

「バグへの耐性を測るものよ。これであなたの強さがわかるわ」

「着けないと駄目か?」

「結果はどうであれ、とりあえずお願いしたい」

 そう言われるとな……少しドキドキしながらも時計を着ける。

 時計には何か見える変化があるようには見えない。

「これは…」

 氷室の驚いたような声に、心拍数が少し上がる。俺の中に無意識な期待があるのを感じてしまった。

「結果が出たのか?」

「ええ。結果は出たわ」

 氷室の顔が少し曇っているようだ。

「弱かったんだな。まぁ、そんなもんだろ」

 俺は時計を返しながらも、なんにもないことだというように言う。

「いえ、そういうわけではないの。ただ、」

「確かに。それだと、俺が怪物を倒したのがおかしくなるのか」

「そうじゃない。ただ、何も変化がないの」

「変化がない?」

「それがおかしいの。誰が着けても少しは変化があるものなの」

 そう言って氷室は、自分の腕に時計を着ける。時計の文字盤が桃色になり、時間が八時を指していた。

「あなたがさっき着けたときは、無反応だったでしょ? 」

「そうだったな」

「何かがおかしいみたい。理由はわからないのだけど」

 それなら、俺にはもっとわからない。

「まぁ、これ以上考えても仕方ないんじゃないか」

「そうね。協力してくれて、ありが…」

 そう言おうとしたところで、高校側の渡り廊下の入り口から、ケバい声が聞こえてきた。

 人気がない場所であるので、珍しいとは思いつつ目を向ける。


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