表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/10

リア充は色々飛び越える

「昨日の夜?」

 何があっても逃げ切る自信があるので、淡々と聞き返す。

「そうよ」氷室は迷う事なく、そう答える。

「それで…、俺が怪しいと?」

「そこまでは言わない。でも、あなたが嘘をついた事は事実よ」

 まぁ、追求の方法にしては間違っていないが、根拠を示せないだろ。

「何時ごろだ?」

「え?」

「俺を見た時間だ」

「たしか、9時頃だったはず」…掛かった。が、まだ少し浅い。

「暗かったから見間違えたんじゃないか?」

「そんなはずない。大和があなただったと言っていたわ」

「そうか、で、話は変わるが校則の完全下校時刻は知っているか?」

「……7時ね」

「そうだな、で、もう一度聞くが、俺を見た時間は? 大和も一緒だったとの事だが、何の用事でそんな時間まで学校に居たんだ?」

 そこで、氷室の顔が少し曇ったのがわかった。

「……なにも」

「何も?」ない。そんなはずない。

根拠を示せない証拠は、逆に相手への疑念にもなる。

 ただ、氷室にはそんな時に、順序や論理を飛び越えてまで助けに来る仲間はいる。

「澪が見たっていうなら、見たに決まってる」

 そういったのは、澪によく絡んでいる女子だ。名前は知らん。だが、見た目の幼さとアニメ声が特徴的だとはいつも思う。

「疑うのも、決めつけるのもいいが、証拠がない」

「それなら私達が信じている事が証拠になる」

 滅茶苦茶だ。女子だが、髪の毛引っ張ってやろうかと思った。

「信じるのは勝手にしてくれ、それで、その信じていることで俺は犯人になるのか?」

「犯人…そうよ。犯人よ」

 ああ、コイツ勢いだけで反論してきているな。もう、面倒だ。

「話にならない。それで、氷室は何か言いたい事は?」

 俺も昨日あったことなど、話して周りたいわけではない。というより、俺みたいな奴がマユツバな話を触れ回ったところで、デメリットしかない。

 なら、手打ちにするのが一番だろう。

「……私は、嘘をついたわけではないの。ただ…」

「わかってる。だが、ここで説明できないなら、話は終わりでいいか」

「そうね。疑うような事して、ごめんなさい」

 そうして、氷室は頭を下げた。

 ああ、それができてしまうんだな…。俺にはできなかった事だから、少し羨ましい。

「俺も、悪いとは思っている。だが、認められないものはある」

「……わかったわ」

 そうして、氷室は自分の席に戻っていった。

 アニメ声はそれを追いかけ、一度だけ振り向くと、舌を出して「べー」と言った。

 話がどうなるか見守っていた周りの奴等も、肩透かしを喰らったような顔をしている。

 だが、佐藤さんは違うらしい。俺を射殺さんばかりに、一睨みすると教室から出ていった。

「もうすぐホームルームだろ」



 担任が、朝の件での事情聴取で手が離せないため、ホームルームを副担任が行った。

その後に、副担に名前を呼ばれた。

心当りしかない呼び出しだが、鍵を閉めていなかった事を先に謝罪しつつも、幾つかの質問は「わからない」の一点張りする事でなんとかなった。

 その後は、何人かが教室にいない事を除けば、学校の時間は強制的に過ぎていく。


 そうして、昼休みのチャイムが鳴る。朝から少しギスギスしていた教室の空気も、かなり緩和され、チャイムを皮切りにいつもの会話がチラホラ聞こえてきた。

 そんな中、俺はいつものルーティンを終わらせると、いつも見ている小説に目を落とす。

 だが、いつも通りではないことが起きた。

「ねぇ、お昼、一緒に食べない?」

いつの間にか、席の近くに来ていた氷室がそう話掛けてきていた。

「……食べない」急な事だったので、そう返事することしかできなかった。

 鏡はなかったが、鳩が豆鉄砲をくらったような、間抜けな顔だっただろう。

 それにしても、何だ。なにが目的だ? 周り奴らの奇異な目も集まっている事もあって、半分パニックになっている。

「話がしたいかな、って。それと、わだかまりは無くしておきたいの…」

 なるほど。他意はないようだ。

それに探りを入れるにも、ここまでストレートなら腹を割って話してもいいかと思える。

だが、

「飯ならもう食べた」

「え? さっきチャイム鳴ったばかりよ?」

俺は十秒チャージで有名なゼリーの空袋を見せる。

「それだけ?」

「足りて……はいないな。だけど、まぁ、これで十分だ」

そうしてから、氷室は無表情で、俺を五秒ほど見つめると、席に戻っていった。

呆れられたのだろうか? いや、朝のやり取りからして、好かれる要素など皆無だし、むしろ、嫌われているまである。逆を言えば、氷室は相当優しいのだう。

 少し溜息を付きたくなってから、自分に何を期待しているのだと、読んでいた小説に目を再度落とそうとした時、目の端にカラフルな弁当が割り込んできた。

「分けてあげる。お腹は空いているんでしょ? 食べながら少しだけ話をしましょう」

 ああ、俺なんかの予想を超えて、良いやつなんだ。コイツは。なんだろうか。こういう不意な優しさに触れた時に、その資格もないのに勝手に救われた気になってしまう。

「ありがとう。でも流石に悪い。…だけど俺も話はしておきたい。飯を食い終わったら声を掛けてくれ、場所を変えて少し話をしないか?」

 そういう奴だからだろう。俺も少しだけ、譲歩することにする。腹を割って向き会おうと思えた。

 やったことがバレるなら、それでもいいとさえ思えてしまった。

「…わかったわ」

 氷室はそれだけ言うと、取り巻きがいる席に戻っていった。

 なんだが、取り巻きの中にいた、アニメ声がこちらを睨んでいるように思えたが、視線ではどうという事はないので、放っておく。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ