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争いの後は、ぼっちが有利

 ああ、朝になると睡眠が頭の中を整理してくれている可能性に賭けていたが、もっと混乱している。

 昨日、自分の遭遇した事と、自分がやった事を考えると、一気に学校に行く気が失せてきた。ただ、学校へ行かないというのは難しい。

 ずる休みをやったことがないというのも一つなのだが、俺の母を(だま)せる気がしない。俺が嘘を付くと、どんな小さな嘘でも必ずバレる。そして、必ず折檻(せっかん)が入る。

 少し憂鬱(ゆううつ)だか仕方ない。スマホに電源を入れる。どうでもいいDMなんかの通知音とLIONEの音が鳴る。

 一つ一つ確認したら、一つは友達に追加されたという通知だった。

 やはりかと、思いつつ、名前も一応は見ておく。

「MIO」となっていたので、氷室だ。おそらく、クラスのグループLIONEから俺のアカウントを探して、追加したのだろう。俺が逆の立場でもそうするしな。

 だが、この動きで、昨日の女が氷室だというのは確実になった。あの時は振り返って確認する度胸も、時間もなかった。だから、確信を得てから学校に向かえるのは、アドバンテージにはなる。

 そうしていると、階段の下から母さんが叫んでいるのが聞こえる。

「私はそろそろ寝るけど、早く出ないと学校遅れるよ」

「わかってる……すぐ行く」

 母さんは徹夜で仕事することが多いから、だいたい俺が学校に行くタイミングで寝始めることになる。

 「仕方ないか……」

  俺は制服に袖を通すと、覚悟を決める。



 そんな格好いいことを言ったとしても、何の策もなしに突撃する様なことはしない。

 今日の登校のタイミングを見誤ると、かなり面倒なことになる。

 自転車に乗ったまま、いつも通学路を少し逸れて、川沿いの道へあえて遠回りする。川の流れに沿うように植えられた桜を見上げながら、花鳥風月(かちょうふうげつ)に少しだけ浸る。

 そうすると、ちょうどいい時間だ。

 校門を閉める準備を始めようかとするギリギリで、校門を潜ることができる。教室までは遠くないので、焦る必要もない。

 教室のドアを開けると、いつもは空気のはずの俺に、今日は教室の所々から視線が突き刺さるのがわかった。

 昨日、教室に残っていた連中が見当たらない。佐藤くんもいない。

 教室の端には、少し泣きはらしたような顔をした女子が何人かいた。

あまり、意識しすぎると仕草が嘘くさくなるので、出来るだけ早く着席し、寝不足をアピールするように机に突っ伏す。

「ねぇ、昨日の日直ってさ、あなたよね」

 来た。たぶんだが、この聞き方は、クラス委員の田中さんだろう。俺に話しかけるのも彼女ぐらいだし。

 少し眠たげに顔を上げ、何事もなさげに、メガネを掛けたThe図書委員と言った彼女を正面に捉えると、昨日からシュミレーションしていた応えを答える

「うん?……ああ、そうだな。昨日は俺だ」

「じゃあさ…最後、鍵ってどうした?」

「鍵? 教室のか? 昨日は閉めようと残っていたんだが、教室を使っているようだったから、用事もあったし先に帰った」ここまでは全て事実だ。間違いもない。

「何かおかしな事はなかった?」

「おかしな事?それは?」

「例えば、変な人なんか居なかった?」

「いない……な。学校でそんな事あるか?」

「そうね。確かに、じゃあ、あなたは鍵を掛けていないのね」ここで少し批難の視線が混じった気がした。

「ああ、悪いが急いでいたんだ。で、それが?」

「いえ、それならいいの……」ただ、言葉にならない言葉は俺を責めている。

 そんな批判は少しばかり、俺に後ろめたい気持ちを思い起こさせるが、どうということもない。俺は間違った事をしている自覚はあるが、悪い事をしている自覚はない。

「あんたが、あんたがちゃんと仕事してれば…」

 唐突に大声を上げたのは、昨日、教室で財津と話しをしていたグループの中に居た女子だった。名前はたしか佐藤さんだったはず。目元が赤くなっていた女子の一人だ。

「なにかあったのか?」驚いたふりは出来たはずだ。

「それは…」田中さんが、答えようとはしたが、大声が(さえぎ)る。

「あんたが仕事しなかったから、喧嘩が起こって、財津が、」

 佐藤さんはそれだけを言った後、机に突っ伏すと、また泣き始めたようだった。

 何人かの女子が、そこに集まり俺に批難の目を向けた。半分は昨日のグループか。

「喧嘩があったのか?」

「そうね。あったわ。教室の鍵が教室に取り残されたまま、鍵が掛かっていたの、いわゆる密室。それで鍵はマスターキーで開いたのだけど、鍵のあった場所や日直の係が書き換えられていたりして、先生が関係者にそれを問い詰めたようね。戻ってきたタイミングで

財津君と成瀬君が喧嘩になったの、今は先生が再度事情を聞いているわ」

「そうか……それは、俺も悪かった」説明してくれる田中さんに配慮して、それは認めていいような気がした。

「そうよ。あんたが、」泣きはらした目で、また佐藤さんが俺を責めようとするが、それは断ち切ることにする。

「悪いが、昨日は佐藤さんも遅くまで教室に残っていたよな?」

「それは、そうだけど…」

「それに、佐藤さんが日直の時、他の奴が鍵を掛けているのを見ている」

「それは今関係ないじゃない」

「なら、この話は俺にも関係ない話になるだろ」

「でも、あんなことするの、あんたしか……」

「俺はやるべき事をやらなかったのかもしれない。だけど、原因を作ったのもそっちだ。」

 全ては伝わらないだろうが、昨日俺が学校にいることを知らないなら仕方ないだろう。

 それで、言い返すことができなくなったようで、また、机に突っ伏しだした。

 それらに触れないように、教室は絶対零度に静まりかえっている。

「それに、昨日は先に帰っている。俺が何かできるはずない」

ダメ押しと思った一言がいけなかった。



「昨日、夜の校舎であなたを見たわ」

 静まり返った教室に凛とした声が響いた。

 ああ、最悪ではないが、このタイミングなのかとは思う。氷室の性格を考えればこれが妥当なのかもしれない。


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