ぼっちは共闘しない3
悪態をつくが、大和を殴れた時点で俺も間合いに入っていた。
化け物の拳がスローモーションに見えた時には、回避も間に合わないのは悟った。走馬灯は見えないが、覚悟は決めた。
いつの間にか目は閉じていたようだ。歯もかなり食いしばった。が、一向に思ったような衝撃は感じない。いや、何かがパシパシと当たっているのは感じているが、大和が喰らったものだとは思えない。
恐る恐る目を開けてみると、怪物が何発も拳を繰り返し、俺の事を殴り続けていた。だが、巨体から繰り出される衝撃は、俺に効いている様子は無かった。
どう表現していいのかわからないが、磁石のN極とN極を無理やり近づけた結果、押し出す力は相殺されているみたいな感覚はある。
どうしようかと、一瞬躊躇ったが、今自分が攻撃されているのだから遠慮は必要ないだろうと結論付ける。
なんの戦力も戦略もない、ただ漫画で見ただけのアッパーを真似てみることにした。
どこが顎なのかもわからなかったが、顔の様なものはあったので、その突き出ている所目指して拳を突き上げた。人を全力で殴った経験はないので、力は半分も入れられてない。
だが、拳が当たった瞬間に、化け物の顔はヒビが入って、変形する。その後に下からの力に押し上げられ、化け物は四メートルは宙を舞い、五秒後ぐらいに地面に着地した。
「なんか……ごめん」
俺も面食ったが、この化け物もこうなるとは思っても見なかっただろう。
それによくよく考えたら、大和が悪人という可能性だってある。攻撃されたから攻撃仕返したが、こんな結果が欲しかったわけではない。
あまり近寄りたくは無かったが、化け物の様子が少し気になった。目を向けると、化け物は体の端の方から砂の様になっていく途中だった。
「これは俺が原因……だな」
原因と結果なら考えるまでもない、化け物退治の現場で、俺が倒してしまったのだろう。
「大和、そっちのバグは倒せた?」
不意に女の声で、後ろから話し掛けられた。どうやら周りがぼんやりと暗いので、シルエットだけで、大和だと判断して話しかけているようだ。
いきなりの事なので反応し切れずに固まりながら、上手く切り抜ける方法はないかと思案する。
「でも流石。ハイエンド級を一人で倒したのね」
特に何かいい方法は思いつかん。が、何だか後ろの女の声に少し覚えはるのに気づいた。というか、だいたい大和とセットなので、嫌でもわかる。
氷室 澪だ。大和に続いて、コイツまで出てくるのか。
完全に氷室がこちらに近づいて来る前に、俺は大和の方へ目を向ける。目に見える重症はなさそうだ。目は閉じられているが、呼吸も見た目に問題はないように見える。
これなら俺が助ける必要はないな、だったらやってみるか。
俺は氷室に後ろ姿を見せたまま、大きなモーションでわかりやすく、倒れている大和の方を指差す。
「大和、なんで…」
思った通り、氷室の叫び声のような、大和を心配する声が上がった。
それが合図だったかのように、俺は走り出した。たぶん、氷室の性格なら、俺を追いかけるよりも大和の方を心配するだろう。
一目散にフェンスの穴の前に着くと、飛び込むように学校から這いずり出た。
それからはほぼ覚えてないレベルで必死に、自転車を立ち漕ぎし続けて家へ帰る。息をするのも忘れた。止まったら追いつかれそうで怖かった。
家に帰ってからも、クラスラインで追求が来そうだったので、スマホの電源は切った。
色々と心配することが多くて本来ならば、課題なんかできる心理ではなかったが、これは意地でもやりきった。いつもよりも、きちんとした思考なんてできなかったから、間違いは多いのはわかったが、それでも全ての答えは埋めた。
そうしてから、熱めのシャワーだけを浴びて、いつもよりも早かったが就寝する。
なかなか寝付くことはできないが、何かを心配したり、考えたりはしたくなかった。
朝になったら、全部夢オチになっていて欲しい。