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ぼっちは共闘しない2

 明日は少しだけ学校に遅れて来るように細工しないとな、と考えを巡らせつつ校舎裏のフェンスまで、歩を進めている。

 そうした時、グラウンドの方から男の声と、ボクシングのスパーリングの様な音が風の流れに乗って耳に運ばれてきた。

 誰か居たのかと焦る一方で、何やら普通とは違う状況なのも察する。

だが、興味だけでリスクを取る性格でもない。好奇心には蓋をし、できるだけ無視するように、声の主には気づかれないよう細心の注意をしながら通り過ぎる事にした。

 本当なら迂回したいのだが、校舎裏へ回るにはグラウウドに沿った道を通るしかないため、仕方ない。

 ただ気の所為(せい)でなければ、声と音が少しずつ近付いている。

 そうして嫌な予感は少しだけ当たる。念の為、物陰に隠れながら歩いていたのが功を奏した。

 「クッ、流石はハイエンド級…一筋縄ではいかないな…」

 急に聞き取れるレベルで声がしたので、慌てて半歩戻り、隠れられそうな校舎の窪みに体を隠す。息を殺しながら、声がしてきた方へ顔を出し、覗き込んだ。

 そこには醜悪な造形をした化物と、朝のスーパー戦隊の様な青いアクションスーツを着ている武藤 大和が居た。

 化物は、百体ぐらいのマネキンの手足と顔を集めて、無理やり2メートルぐらいの人の形を取らせたような感じだ。合成じゃないかと疑うレベルで、少し現実味はない。

しかし、実際に重みはあるようだ。戦っている中で繰り出す拳が、当たるときに音も重さも伝えてくる。コイツがもう少し安っぽかったなら、作り物だと判断して、これは映画の撮影かと思ったところだった。

 そして、その攻撃を受け流し、盛大な蹴りを何回も当て続けているのが、クラスメイトの武藤 大和だった。ヘッドガードを付けているので少しわかりにくいが、間違いない。体の方には要所要所にガードが付けられている。統一されたカラーリングも相まって、まるで、戦隊シリーズの青レンジャーの様でもある。

 まぁ、イケメンなので様に見えるのが一番なのだろうと、見当違いな事を考えるぐらいには、今現実逃避をしている。


 そうしてから、なんか腹立ってきた。


 クラスのイケメンが主人公で活躍するストーリーなら結構。ドンドンやってくれ。

どうせ、この学校の平和とか、秩序を守っているのだろう。お前にはその素質と才能を持ち合わせているのだから、文句など無い。むしろ応援はする。

だがな、目の前で起こっている事を全て理解しようとも思わない。というか、ただ迷惑だ。お前みたいな奴が、俺みたいな奴を間違っても巻き込むべきじゃない。

 被害妄想でしかないが、持てる者が、持たざる者を馬鹿にしているようにも感じてしまうほどには、理不尽な憤りは湧き上がる。

天と地ほどの差の中で、相手の努力を認め、讃えながら下を向く事ができるほど俺は大人になりきれない。それでも、やっと夢見る事は止めることができたんだ。何者かになれない可能性を飲み込んで、一人で居ることにも慣れた。

 そんな俺の前で、お前は全てを得た後に、何かの主人公にまでになったのか?

 だから…、いや、ほんの少しの反抗になればいいと俺はスマホを取り出した。

 カメラ機能を起動して、大和の顔がハッキリ写るようにピントが調整されるのを待ち、暗がりから彼奴等が街灯の下に来るタイミングを見計らう。

 写真を何に使うなんかは考えていない。ただ、少しの反抗だ。八つ当たりとも言う。

 そうしている内にベストショットのタイミングが来たので、カシャリと音を立てて決定的な瞬間が撮れた。うん、見事なカメラ目線の写真だ。

「…って、カメラ目線?」

 スマホを下げると、こちらを睨み付ける大和と目が合った。ヤバいと思った時には、こちらの方へ向かって来た。写真を撮るために待ちすぎて、距離が思ったよりも近づき過ぎていたらしい。

 だが、そこまで焦らない。俺が不利な状況ではないはずだ。毅然としていればいい。

「お前、ここで何している」と掴みかからんばかりに、大和が俺に詰め寄る。

「ひぅ、すみま……せん」と俺は、反射的に謝ってしまう。

 ……言い訳はさせて欲しい。大和の人気は侮れない。それこそ人を一人消しされるレベルだ。だから、俺の中で畏怖の対象でもあり憎悪の対象だった。ただ単に俺がチキンだとも言えるのだが。

 鬼の形相の大和が、次に何かを言いかけた時、声にならない声を上げたかと思うと、盛大に吹き飛ばされていた。

 そうして、二メートルほどアーチを描いた大和は、一メートルほど滑り動かなくなった。

 ああ、戦っている最中に俺なんかに構うから、そんな事になるんだよ…。

 吹っ飛ばされた大和を見て、そんな捻くれた反応しかできない自分は間違っているような気もする。

 ただ、そんな感慨に耽る暇はなかった。振り抜いた拳を戻して、体制を直した化け物は、次の敵を俺と認識したようだった。

「クソ、近すぎるって」



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