ぼっちは共闘しない1
窓はきちんと閉じられているものの、鍵は掛けられておらず、教室の鍵も黒板の横にある鍵掛けに掛けられたままである。その黒板には日直の名前の所に、「ちゃんと仕事しろ」と落書きがされていた。教室の戸締まりは日直の仕事だからだろう。
まず、鍵が教室に残されている時点で、教員の安全管理を真っ先に疑いたいのだが、大きな問題は今日の日直が、俺だったという点だろう。
いや、ここで少しだけ言い訳はできる。日直の仕事はやり切ろうとはしたのだ。
だが、幾ら放課後の教室で待っていても、リア充の代表みたいなグループが教室で話を続けていた。こういうときは、一言声を掛けてから帰ればいいのだが、話し掛けづらい奴らだったので、教室の隅で空気と化しながら帰るのを待っていた。
それでも、ホームルームから三十分以上が経とうとした頃になると、そのグループから変な奴を見る目を向けられていた。会話に混ざりたいとでも思われたのだろか?
そこまで来るとアホらしくなって、帰ることにした。
担任教員に話しておくべきかと一瞬頭をよぎったが、毎回、日直が鍵を掛けたりしなくても、最後に帰る奴は大概鍵を掛けている。まぁ、窓に鍵を掛けていない事などは稀にあるが、問題にされることは少ない。なので、帰りに買い物をしなくてはいけなかったこともあり、そのまま帰宅したのだ。
だから、今日は帰る時間が遅くなったのだが…。
これは少しばかり怒ってもいい気はする。俺にも落ち度はあるから子供みたいな駄々はこねない。だが、頭の芯がスッと冷えるような感覚になって、次の瞬間には行動していた。
まずは、教室の鍵を内側からすべて施錠する。学校によっては内側から鍵を掛けられない仕様の扉を採用している場合もあるが、この学校は不審者からの防衛の為なのか、内側からも鍵をかけられる。
そうして、日直の仕事として、黒板の落書きを消した後、名前の順で次の奴の名前を黒板に記載する。わざと間違って、あの落書きを書いたであろう財津と名前を書き込んだ。
当たり前だが、間違いは誰にでもある。俺にもあっていい。
「ちゃんと仕事しろ」の「ろ」が「3」に見える癖字は、誰のものかわかりやすいんだよ。
そして、見た目は子供、中身は大人もビックリの密室が出来上がったので、余った教室の鍵は落書き野郎とバチバチに仲の悪い成瀬君の机の上に置いておく。本当の名前の順でいけば、明日の日直は彼だったので、鍵を預けるのは完全に間違いという訳ではない……気はする。
明日の朝どうなるかまではわからないが、上手く行けば一悶着はありそうな気がする。落書き野郎が教室に遅くまで残っていた事を考えれば、起きる事件と、原因の整合性なんか関係なく、問題の擦り付け合いと、疑いで火に油は注がれる。
最後に窓から抜け出し、ダンボールを元に戻して貼り直す。
春の風を感じながら、ゆっくりと伸びをする。街の光にぼやけている星空を眺めながら冗談めかしながら呟く。
「明日は、密室事件が起きて、喧嘩の嵐が巻き起こるでしょう」
何をやっているのだろうとは思わない。思いたくない。