ぼっちは一人で切り抜ける
教室で、よく一人でいる奴は真面目な奴であることが多いとされている。だが、あれは状況が、真面目な奴にさせているだけではないかと思うこともある。
どういう事か?
「やってしまった……」
少しの絶望混じりで、家の机で頭を抱えながら、呟く。
いつもより遅く学校から帰った後、少しダラダラしてから夕食を食べ、明日の古典で提出する課題をやっておくかと、鞄をひっくり返したのだが見当たらん。
これは非常にマズい。提出しなければ、単位に関わるという訳ではない。だが、担当教員の性格が悪いのだ。提出物を忘れた者は、その授業の時間中は集中的に当てられ続け、教えた数十の単語を短時間で暗記できるかなど、名指しで答えさせられる。
それは俺にとっては地獄もいいところである。
だから、俺はこう答えを出す。
「学校に取りに行くしかないか……」
本来であれば、朝の時間で友達に課題を写させて貰えばいい話なのだろう。だが、俺にそんな友達はいない。だから、特段真面目ではない俺の回答が、最も真面目な奴が出す回答になってしまう。
間違えることに人一倍敏感にならないと、一人ではいられないのだ。
スマホで時間を見ると、時計は二十時を指す手前だった。学校までは自転車を飛ばしても、片道二十分は掛かる。誰か教員が残っている可能性を考えて、ギリギリの時間だ。
一応、守衛か事務員がいる可能性も考えて、学校指定の制服には袖を通す。毎日していることなので、三十秒で支度できる。
道中ほぼ、立ち漕ぎを続けてなんとか施錠された校門前まで着いたときには、息が上がっていた。部活を今はやっていないので、日々の体力の衰えをこういう時に思い知る。
夜の学校というのは、日が出ている時とは違った顔を見せるなと思いつつ、さて、どうして中に入ったものかと、ここで思案する。
どこかしらから忍び込んでもいいような気がするが、それは最後の手段にしたい。できれば中にいる教員か事務員と連絡を取って、内側から開けて欲しい。
まず手始めに校門に設置されているインターホンを押してみる。だが、反応なし。三分ほど待ってからもう一度押してみるも反応なし。
本来ならここで帰るのも選択肢の一つであるが、あの古典の担当教員の顔がチラついてどうにも諦めきれなかった。もう少し早く気づいていればと今更ながらに思うのだが、今日は帰るのが遅くなったので仕方ないとも思える。
ふと、一年前の文化祭の事を思い出した。その時のクラスの奴が、出し物の買い出しの為に学校を抜け出した時、校舎裏のフェンスに穴が空いている所から抜け出していた。
最近の学校は監視カメラや、セキュリティがあるので、あまり気乗りはしないが、こうしてインターホンを押している姿もバッチリ映っているはず。
なら、あまり怒られない事に期待して、やってみてもいいだろう。
時間は二十時四十分、帰って課題を終わらせる事を考えると、一刻も早く課題を回収して帰りたい。
目的のフェンスの場所がうろ覚えだったので時間が少し掛かったのと、もう塞がれている可能性もあったので、少し手間取ったが、なんとか穴の前まで来られた。周りを見回しても誰もいないし、監視カメラのようなものもない。
意を決して、余り大きくない穴に、男子高校生の平均身長と平均体重の体を押し込んで学校に忍び込むとういう暴挙に出る。
フェンスを潜ると、余り見覚えない風景の場所に立っていた。まぁ、一年通った学校だし、どう移動すれば自分の教室までたどり着けるのかは、感覚でわかってしまう。誰もいないのだから、無駄に怖がる必要もないかと思いながらも、少し警戒しながら教室のある校舎まで来る。
ここまで来られれば、後は目と鼻の先に自分の机がある。しかし、外から教室の鍵を開ける事はできないので、ここでまた、強硬手段を取ることにする。
校舎一階の北に位置する教室なので、何かによじ登らずとも、窓に手を掛ける事ができる。そして、何日か前に教室の窓が割られる事件が発生していた。犯人はまだ捕まっていないらしい。
その修繕が遅れており、応急処置でダンボールがあてがわれているだけの状態なのである。それを俺は、出来るだけ綺麗に剥がして、教室に入ることに成功した。最近の学校はセキュリティがしっかりしているので、窓をスライドして開けただけでも教室から離れた所では警報が鳴り響いていることもある。念には念を入れる。
ここまで来るとスパイものの映画にテンションが似てくる。
毎日、何時間と自分の体重を預ける、自分の机を漁って、目的のプリントを回収、ミッションコンプリートと調子に乗りかけた所で、周りを見て一気に現実に戻された。
「この教室、窓と扉全部開いてやがる」