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ぼっちは、たまに誰かを助けを求められる②

「あそこだ」大和が指差す先には氷室がいた。だが、やはり様子がおかしい。

 運動場の真ん中で、座禅を組んでいるのはどう見てもおかしい。そして、氷室の後ろには丸形の眼球状の怪物が浮いている。触手が生えているので太陽のような形をしているようにも見えた。

 状況的にコイツが、氷室がおかしくなった原因なのだろう。

「なぁ、あの眼球のような化物が氷室を操ってるのか?」

「見えるのか?」大和は自分も見えないかと確認するように、もう一度氷室の方を見た。

「は? 氷室の後ろに浮いているだろ?」

「俺はエンカウントした最初だけ見えただけだ。その後バグの姿が透明になって、澪がおかしくなった。今はハイエンドの気配が感じられているだけだ」

「そうなのか…。少しだけ近づいても問題ないか?」

「…大丈夫だろう」

 できるだけ足音を立てず、気づかれないように息を殺して移動する。

 近付くと氷室の背中に、ボンヤリとだが眼球の化物の触手が巻き付いているように見えた。

「眼球から触手が伸びて、氷室の背中へ向かってる。はっきりとは見えない。あと、なんか眼球の(ひとみ)の部分が赤く光って点滅しているように見える」

「やはりか…瞳の光は今はいい、先に澪をどうにか出来そうか?」

「わからんが、見えてるならなんとかなるんじゃないか?」

「俺には見えない。出来そうかすら判断できない」

 ああ、このままだと(らち)が明かない。これは議論にすらならない。

「戦うしかないなら、突っ込むか…」

 数秒だけ考えて決定を下すのが早いかで、走り出した。

「おい、待て」

 大和が止めたが、それを無視する。

 俺の気配を感じたのか、氷室は薄く目を開けたかと思うと、ゆっくりと立ち上がる。ただ(まと)雰囲気(ふんいき)も立ち姿もいつもと全然違う。

「氷室、意識はあるか?」少し大きな声で呼び掛けるが返事はなかった。

 氷室はゆっくりと拳を(かま)えて臨戦態勢(りんせんたいせい)をとられた。しまったとは思ったが次の瞬間、氷室の拳が目の前に迫る。寸前の所で(かわ)すが、二発目が肩に当たった。

 氷室の拳なので我慢できる痛みだが、怪物に殴られるよりも(はる)かに痛い。

「まさか…これが狙いか?」

 この化物にそこまでの頭脳があっての事なのかは不明だが厄介だ。

 仕方ない。痛いが我慢するしかない。覚悟は決まったので、やるだけだ。

 そう思うも守ることしかできない。色々な所に攻撃が入るが、氷室相手なので反撃もできない。

「おい、見てないで手伝え」大和に声を掛けるが、動こうとしない。

「俺は近付けない」

「なんでだ?」少し苛ついているので、単語で大声になった。

「近づこうとすると、見えない何かに弾き飛ばされる」

 そうか、確かにさっきから触手みたいな物にバシバシ叩かれてはいる。ただ、全く効かないので無視しているが、大和だと効くのか。

「なら、触手をどうにかするから、氷室を抑えてくれ」

「だから近づけないんだよ」

「なんとかするって言ってるだろ」

「見えないんだ。なんとかしているかもわからないんだ」                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              

 言いたい事はわかるが、なんとかできないのか。

一つ舌打ちを打ってから、仕方がないかとなった。

氷室に一言だけ「すまない」とだけ言う。

そうしてから氷室を抱き込むようにする。必死にもがき抵抗されるが、華奢(きゃしゃ)な身体なのでホールドすれば抑え込むことはできる。

後ろにまわした手で、氷室を操っていそうな触手の二本を力いっぱい握る。目玉の怪物は痛いのか、暴れるように跳ねていた。更に手に力を入れると、太い野草の茎を手折るときのように、芯に当たる部分が折れたのがわかった。

目玉は氷室に絡みつかせていた触手の部位を離し、俺の手からも逃げ出そうとする。

 氷室は気を失ったようで、ダラリと力が抜けたように倒れた。俺が抱き込むようになっていたので、一応は身体で受け止められた。……軽すぎないか?

 氷室が開放されたので、もう片方の手を緩めかけた。しかし、大和が大声で捕まえていろと言った。

「ソイツを逃さないでくれ」

「なんで?」あまり余裕がないので簡潔(かんけつ)に頼む。

「ソイツが綾音のソウルを奪った奴だ。取り返してくれ」

「わけがわからん上に、注文が多すぎるだろ」 

「…すまない。だが、ソイツは倒してくれ」

大和の苦悶の表情が、イケメンが故に様になっているので微妙に腹が立つ。

 最初からそう言えよ…とは思うが、やることはシンプルだから大丈夫だ。

 掴んだままの方の手に力を込め直す。怪物は暴れ、逃げようとするが触手は意識的に断ち切れないらしく、目玉が無闇に跳ねているようにしか見えない。

「氷室を頼む。もう、操られてはないから介抱してくれ」

 もう片方の手で支えている氷室を、できるだけ優しく地面に寝かせる。

 ここで戦闘するわけにはいかないので、触手を引っ張りつつ走り出し、氷室から10メートルは離れる。

 十分離れたと思った時に、急ブレーキをかけ、握っている方の手首のスナップを効かせて、目玉を俺のほうに引き寄せる。目玉の怪物が迫るタイミングで空いている方の手で拳を作り叩き込む。殴られ飛んでいきそうになった目玉を、同じ要領で引き寄せ殴る。

 大きな水風船を弾くようにしながら、何発も殴り続ける。

「前に戦った奴より硬いな」

 何発目かわからないが、殴ったタイミングで目玉にヒビが入り、全体が砂のように粉々になった。

ただ目玉の怪物の赤い光は残り、瞬間、一際大きく輝くとどこかに飛んでいく。

「終わったぞ」大和へ叫ぶように伝える。静かになった学校にはそれが虚しく響き、学校という場所柄から、少し罪悪感のような感情が湧いたが、誰の迷惑にもなってないから良いとした。

 ここまで来るための自転車の全力の立ち漕ぎと、戦闘の疲れがどっと来たので、倒れ込んで仰向けになる。


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