ぼっちは、たまに誰かを助けることはある③
「あなたは少し残ってくれない?」
予想してはいたが、女店員は俺に声を掛けてきた。
「わかった」
そう返事だけをして、心配そうにこちらを見てくる地味子に対して、大丈夫だという事だけを伝えて、外で待っておいてもらうことにする。
女店員は椅子に座り直すと、俺に向き合い話し始める。
「それで弟くんよ。どういうつもり?」
「姉さん、説明が必要か?」
地味子の前で他人の振りをしたから、変な呼び方をされる。少し怒ってるかもな。
「当たり前でしょう」
姉さんは呆れたようにそう返す。
「経緯はアイツの話から大体わかるだろ?」
「事前連絡も、理由も説明しないで、私があの子を警察にでも突き出していたらどうしてたの?」
「そんなことしないだろ」
家族だからわかる。あの性格の奴を追い詰めるような事はしない。
「あの子の事を私が知らないかもしれないし、商売の事なんて知らないでしょうに…」
「その時は……貸し大きなの一つあっただろ?」
「あんた…あの子の為にそこまでするの?」
姉さんは苦虫を噛み潰したような顔をする。あの時の事は思い出したくもないことだから、仕方ないだろう。
「別に…気まぐれだ。それに結果的には殆どアイツが自分で解決したようなもんだろ」
「ほんと捻くれてるわね」
「…何がだよ」
「人って、ほんの些細な事で歩む人生が変わることがあるのよ」
「それには同意するが、俺は誰かの人生の左右を自分の善意ではしない。助けたように見えても、俺のエゴの方が強い」
「あんたの? 何それ?」
「一応は身内だからな。詫びは入れさせたかった。」
本当は、あのケバケバ三人組も引きずってでも来たかったが、余計面倒なことになりそうなので今回は見送りにした。それにこの店を選んだのは地味子だったしな。
「ほほう。そうか。そうか。私のためか」
そう言って姉さんは、ニヤニヤしながら俺の頭をグリグリと撫でた。
「やめてくれ」
「ありがとね。ただ、アンタに心配されるように弱くはないわ」
「わかってる」
俺以上に強いのは知っている。
ただ、本屋には万引で倒産するという事もあると聞く。
「ただ、少しでもあの子の力になりたいと思った気持ちはあったんでしょ?」
「どうだろうな?」
「それが捻くれてるっていってんの」
確かに助けたいような気持ちもあったが、俺は過去の自分が同じような立場の時に、助けられなかった事に対しての怒りがあるような気もする。
「まぁ、いいわ。それじゃ母さんに宜しく言っといて」
「あいよ…。あっ、あと、来地さんの事を入学前から知っていたのか?」
「…なんで?」
「名前を聞いたときに、驚いていただろ? 知り合いだったのかと思ったんだがな」
「うん。まぁ、昔の知り合いがね…。また、追々話すわ」
「わかった。それじゃ、またな」何かを隠したのはわかったが、それは聞かないで置いてほしい事だと判断する。だから、わかった旨だけを言い残して店を出る。
心配していたのだろう。店を出た瞬間に地味子が駆け寄ってきた。
「だ、大丈夫だった?」
「ああ、そうか……黙っててすまなかった。さっきの店員、俺の姉さんなんだよ。んで、ここは姉さんの店」誤魔化してもしかたないので、ここは素直に話しておくことにする。
「えっ、えっ?」少し混乱させたようだ。
「別に意地悪するつもりはなかったんだがな。俺がいるから許されるとは思ってほしくなかった」
「……ううん。そうだったんだ。お姉さんだったんだ。ごめんなさい」
「俺に謝罪はいらないって」
「でも、お姉さんに迷惑かけちゃったし…」
「姉さんが許したんだ。それでいい。それに、姉さんは来地さんの事を気に入っているみたいだから、また、この店に来てくれれば、それもチャラになるだろうさ」
「そうする。ううん、絶対そうしたい。」
「そうしてくれ。じゃあな。」
帰ろうと、踵を返そうとすると学生鞄の端を掴まれる感覚があった。
「でも、お礼は言わせてほしい。…ありがとう。今日一緒に来てくれて、本当に、本当によかった」
鞄を持つ手が少し震えてのがわかった。
「気にしなくていい。」
「でも、助かったのは本当だから……、」
「それじゃ、他に誰か困っている奴がいたら助けてやってくれ。じゃあな」
まだ、何か言いたげな地味子に、それだけ伝えて帰路に着く、柄にもない事をしたので疲れた。




