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第6話 原因探し

「うーん……」


 町の図書館で書棚に挟まれながらミルカはうなっていた。

 ネリルに能力が聴かない原因を探すためにダメもとで来てみたが、やはり有用そうな本は見あたらなさそうだった。


「とりあえずこれでも読んでみるか?」


 ミルカが手に取ったのは、夢のメカニズムに関する本だった。パラパラとめくってみると、悪夢の原因という項目があった。


「なになに? 精神的なストレスや不安……身体的な疲労……PTSD……」


 ネリルがそういったものを抱えているのかどうかはミルカにはわからない。

 仮に悪夢の原因がこれらだったとしたならば、それらを取り除いてあげれば悪夢を見なくなる可能性は存在する。

 もちろんそれも解決策の一つではあるのだが、ミルカはあくまでも夢師なのだ。それ以上に、ミルカの能力がなぜ効かなかったのかの方を重要視したい。

 だが、この能力自体が一般的なものではないので、それに関する書籍自体がない。


 他に何か良い書籍はないかとあてもなくぶらぶらしていると、地下へと続く階段を見つけた。

 図書館の入り口で案内を見たときは、地下についての記載はなかった。

 なんとなく気になって、ミルカは下りてみることにする。

 一歩進むごとに少しずつ薄暗くなっていく。電気の数が少ないのだ。

 そして地下につくと、そこは狭い通路になっていた。

 ここで引き返すこともできたのだが、どうしても好奇心が勝ってしまった。怒られたら戻ればいい。


 通路には扉が左右に並んでいた。

 順番にノブを回してみるが、当然どれも鍵がかかっている。

 そう思っていたのだが、一つだけ鍵がかかっていない扉があった。

 ミルカは音が鳴らないようにゆっくりと開けて中に入った。真っ暗だがあえて電気をつけず、スマホのライトで中を照らす。

 そこは書庫のようだった。

 だが、地上の本棚とは違い、古くて分厚い本が並んでいる。


「なんだここ……」


 ミルカはその中から恐る恐る一冊を手に取る。表紙はくすんだ茶色いハードカバーで、何も書かれていなかった。

 開いてみると、それは英語で書かれているようで内容の詳細を読み取ることができない。それでも、目次を眺めていると気になる項目があった。


「特異能力を授かる原因とその解消方法について……?」


 特異能力とは、ミルカが持っているような能力のことを指すのだろうか。それとも、全く関係ないものなのだろうか。今日ほど英語の勉強をサボっていたことを後悔した日はない。

 それでも、せめて一部分だけでもなんとか読み取ろうとしていたときだった。

 ガチャリと、ドアが開く音がした。ミルカは慌てて電気を消す。


「あら、鍵が。誰かいらっしゃるんですか?」


 息をひそめて本棚の隙間から入り口を伺う。通路の電気が逆光になって、顔は見えなかった。

 女性はそのまま中に入ってくる。

 ミルカは女性の進行方向から逃れるように移動し、鉢合わせないようにしていた。

 そして、入り口がすぐそばに来たタイミングで、一気にドアを開けて駆け出した。


「あ、ちょっと!」


 後ろから呼び止める声が聞こえたが、ミルカは脇目もふらず逃げる。そのまま図書館からも出て車へと戻った。



「というわけなんだよ。なんか心当たりないか?」


 図書館から逃げてきたミルカは、その足で、ノイシュの店に訪れていた。先ほどの出来事について相談するためだ。

 図書館の地下、そこで見た書籍の内容をノイシュに話す。


「この町の図書館にそんなところがあったとは知らなかった。面白いな」

「ノイシュでも知らないか」


 ノイシュでも知らないとなると、調べるのにはなかなか骨が折れそうだ。


「悪いな。だが、その本の中身についてなら少しだけ話せるかもしれない」

「え、読んだことあるのか?」

「いや、読んだことはない。ただ、ミルカと同じように特殊な能力を持った人間に俺は一人だけ会ったことがある」

「え……」

「そいつは体の温度を自在に操ることができるやつだった。とはいっても、極端な温度は無理だがな。少なくとも、普通の人間にはできない芸当だ。たぶん周りが気づいていないだけで、そういう能力を持っている奴はもっといるんだと思う。その本はきっとそういうやつについて書かれたものじゃないだろうか」

「ちょっと待ってくれ。あの本は見た目からして結構古かったぞ。ということは、昔からそういう人間や能力が存在していて、少なくとも一部の人間にはそれが認知されていたってことか?」

「そう考えるのが妥当だろう」


 ミルカ自身、ミルカ以外の能力持ちの存在を考えたことがないわけじゃない。

 ミルカの能力は後天的なものだ。メカニズムは自分でもわかっていないが、それなら他にも同じように能力を獲得している人間がいてもおかしくはない。

 だが、今までそういった人に会ったことはなかったのだ。

 それをこういう形で突きつけられると、どう受け止めればいいのかわからない。


「それに、その目次が正しいなら能力を失う方法もあるということだ。ミルカはその能力があまり好きじゃないみたいだったからな。良かったんじゃないか?」

「それは……そうだな」


 確かに、ミルカはこの能力でいろいな経験をしてきた。良いことよりも悪いことの方が圧倒的に多かった。だから、この能力なんて無いほうがいいと思っている。

 だが、実際に能力を捨てられるなんて考えたことがなかった。

 自分の未来に光が差したのを感じながら、ミルカはノイシュの店を後にした。

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