第31話 一蓮托生
「じゃあいくぞ、しっかり見ておけ」
そう語るミルカの肩には、袋に包まれた大きな物体が担がれている。中身は昨夜殺したルインの亡骸と、重りとして詰めた石の数々。
三人は今、ミルカの家のすぐ裏にある高い崖の上に立っていた。下では荒波が岩を打つ音が轟いている。
崖のギリギリにたち、きっちり封をしたその袋をミルカは海に向けて放り投げた。数秒の後、物体が水面を叩く音が僅かに聞こえる。そして袋は波にのまれて姿を消した。しばらく観察していたが、浮き上がってくることはなかった。
「覚えておけ。あれは俺たちの罪だ」
両隣でフレンカとネリルが無言で頷く。
「あれはネリルが生んだ悪夢で、俺が今まで目を背けてきた亡霊で、フレンカが手を下した命だ。俺たちはこれから一生それに縛られて生きていくことになる」
「……大丈夫かな」
隠しきれない不安がフレンカから溢れる。
「わからない。大丈夫かもしれないし、大丈夫じゃないかもしれない。未来のことなんて誰もわからないさ」
ミルカだって不安だ。ネリルも言わずもがなだろう。三人は誰一人として、もうまともな人生を送ることなんてできない。どれだけ許し、どれだけ許されようとも、自身の心臓に刻まれた罪の意識は死ぬまで消えることはない。
「だけど、一つだけわかっていることがある」
その言葉に、両隣のフレンカとネリルはミルカを見る。その瞳をしっかり見つめ返し、ミルカは口を開く。
「俺たちはこの先何があってもずっと一緒だということだ。俺のことは二人が一番わかっている。フレンカのことは俺とネリルがわかっている。ネリルのことは俺とフレンカがわかっている。俺たちの居場所はここにしかない。天国に行くときも地獄に行くときも、俺たちは離れない」
「そうだね。もう、離れないよ」
「はい。ずっと一緒です」
「………………行こうか」
それを合図に、三人は足元に置いておいたまとめた荷物を背負い、ミルカを先頭に歩き出した。
「お家はどうするの?」
後ろに遠ざかっていくミルカの家を振り返りながらフレンカは問う。
「どうもしないさ。ただ置いていく。あそこには思い出が多すぎる。良いものも悪いものも」
一応床に散っていた血液は丁寧に消してきた。特殊な方法を使えば検出はできるかもしれないが、仮にそうなるとしても時間がかかるだろう。そもそも、ミルカが失踪したことで誰かがそれを探すことは考えにくい。ミルカは周りとの関係構築を意図的に避けてきた。
ふと横を見ると、ネリルが浮かない表情をしていた。
「ネリル。おじいさんとおばあさんには手紙を書こう。あの二人のことさ、きっと俺たちがどこにいたってネリルのことを想ってくれている」
「……はい、そうですね!」
湿った空気を吹き飛ばすかのようにネリルは努めて笑った。
朝日が昇り始める。徐々に光が大地を照らし、ミルカたちの後を追いかけていく。
だが、その道には既に三人の姿はなかった。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
夢師ミルカはこれにて完結です。
厳密には第1章完なのですが、以降の構想がまっさらなので一旦完結とします。
気分次第で続きも書きます。
現在は別の物語を執筆中です。
そちらもまとまったら投稿します。
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よろしくお願いいたします。
改めて、ありがとうございました。




