期待と失望、希望と絶望
「アメフリを包んでいるのは……雲?」
「ちっ!」
タミがアメフリを覆っている黒い雲に触れると黒い雲の記憶が見えてくる。黒い雲は元々真っ白な雲の姿の妖モノであった。真っ黒いヘドロが層のように溜まっていき、本来の姿はその中に閉じ込められてしまったのだ。アメフリは黒いヘドロを取ろうと毎日のように雨をかけるが固まったヘドロを流すことが出来なかった。軈て雲は目が見えなくなり、耳が聞こえなくなった。それでも朽ち果てることもなく生き続けた。感情だけ残った雲はこの原因を作った人間を恨むようになり、それが呪いとなり体を乗っ取られてしまう。更に自身が大きくなるためにアメフリの悲しみに付けこんだのだ。
「呪いは……祓う必要があるの。呪いの色よ、この者から消えなさい」
タミの目の色が金色から銀色に変化し、金色と白金色の翼が生えてくる。タミはヨナから離れ一人で飛べるようになる。
そして雲の魂色から黒色を抜き取る。すると魂色は元の色、天色に変化する。
「ふぎゃああああああああああ」と言う声と共に雲に憑りついていた呪いの元凶は消え去っていく。
タミは“ココロの世界の色を変える”という力も持っている。全ての生き物が持つ“心の魂”魂色というもう一つの魂の色を変化させことができる能力である。この力は天女の中でも一部の者、ハノイの家系にのみ使用可能な能力である。
黒い雲は白い雲に変化しアメフリから剥がれ落ちる。
「ああ。モクモクくん。元に戻ったんだね。よかった、よかった」とアメフリは大粒の涙を流して、白い雲を抱きしめる。
空に一面に雷光が眩しく光り、雲の中心から円が広がるように雨雲と雨が一瞬にして消え去り、積乱雲は跡形もなくなっていく。空には大きな二重の虹が描かれ、雲ひとつ無い天色になり、目が開けられないほどの太陽が眩しく輝く。
タミはニコッと笑ったかと思うとそのまま気を失ってしまう。全ての妖力を使い果たしてしまったのだ。
「タミ!」とヨナとアメフリが呼ぶ。
「だ、大丈夫。まだやらないといけないことがあるから」
タミは意識が朦朧としながらもアメフリをそっと抱きしめる。治癒能力を失ったタミの皮膚は徐々に爛れていく。アメフリの体は環境汚染で生じた酸に変化しており、悲しみの涙が塩結晶の鎧となり守っている。
アメフリは雨を降らすだけの妖モノだった。環境汚染と共に体が酸性になり、妖モノたちが触れると火傷をし、歩くと植物たちが枯れていく。それを目の当たりにして洞窟に閉じこもっていたのだ。
彼自身は何も悪くないのに――。
タミはアメフリの両手をギュッと握る。
(想いよ、届け!)
“少女よ。その願いの対価は大きいぞ”
(この願いを叶えてくれるのであれば、私が差し出せるものなら何でもあげる。だから願いを叶えて!)
“承知した”
タミとアメフリは眩しい光に包まれる。タミの想いの力でアメフリの身体は汚染される前の透明な体へと変化していく。力を使い果たしたタミの体は三歳くらいの子供に退化し、別人のような姿となり意識を失ったまま真っ逆さまに落ちて行く。ヨナは急降下し、タミを抱きかかえる。
「タミ! タミ!」とヨナが何度も名前を呼ぶ。
タミは朦朧としながらも少しだけ目を開ける。
「だ……れ?」
タミは一瞬目を覚ましたかと思うと、そのままゆっくりと目を閉じる。
タミが対価に差し出したものそれはーー。
天女の力が込められた髪、黄金の片目と黄金の片翼、そして記憶と……。
* * *
それからタミは三歳の姿のまま虹色の繭に包まれ何十年も眠り続けた。目を覚ました時には両親のこと自分のことすら覚えていなかった。
タミの両親はタミを人間として育てることを決意する。三人は人間の世界に降り、妖モノの世界、桃源郷と同じ桜と桃が咲く場所に暮らしはじめる。
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