第十九話 生死肉骨
「きゃっ」
彩は洞窟が崩れる瞬間に誰かに突き飛ばされる。
洞窟が崩れ出入り口が塞がれる。光が全く入らない洞窟で辺りは真っ暗になる。そして崩れた衝撃で土埃が舞ってい、空気が薄くなっていく。
「ワン……じゃない。ごほっごほっ。みんな、大丈夫か?」とワンタンが声をかけると
「コホンコホン、俺は無事だ」と金平糖。
「僕は大丈夫」と葉。
「私も無事です」とリン。
「私も無事よ」と大福がそれぞれ返事をする。
「よっと」と金平糖は尻尾の先で小さい炎を出す。
「便利な尻尾だな」
「さっきからお役に立っていないお犬様には穴掘りでもお願いしますかね」
「クソ狐!」
「っんだ! クソいぬっころ!」
金平糖は炎がついた尻尾をブンブンと振り、ワンタンを挑発する。
「あれ? 彩は?」
葉がキョロキョロと周りを探すが、彩の姿は見えない。
「私ならこっちに」と遠くから彩の声が聞こえてくる。
金平糖が彩の声の方に灯りを向けると、座ったまま手を振る彩の姿がみえる。
「なんでそんな奥にいるの」と葉は大きな声で尋ねると、彩も大きな声で「洞窟が崩れる瞬間、誰かに助けてもらったみたい」と答える。
彩はゆっくりと葉たちがいる場所に向かっていると、雪女の姿がないことに気が付く。
「あれ? ……雪女さんは?」
葉たちはハっと顔を見合わせ、辺りを探すが見つけられない。
「バニラアイス!」と葉。
「雪!」と大福。
大福がピョンヒピョンと飛び回り、雪女を探す。
「さむいにゃ! この冷気は……」
大福は洞窟が崩れた場所に雪女が埋まっているのを発見する。
「ワンタン!」と葉。
「おう」
ワンタンは大きな犬の妖モノとなり土砂を掘り雪女を救出する。
リンは動けなくなっている雪女に手を差し伸べると「す、すまないね」と照れくさそうに言い、そっと手を取る。
あの時、私を突き飛ばして助けてくれたのは……。
「雪さん! 私を助けるために……ごめんなさい」
彩は大きな声を出し、90度のお辞儀をする。
「アタシがあんたなんかを助けるわけないだろう。まあ、その呼び方は気に入ったけど」
雪女はチラチラと彩の顔を見ながら気恥ずかしそうに口元がゆるむ。
「あと、ごめんは嫌いだよ」
「雪さん、ありがとうございました」
彩は感謝の気持ちの伝え方がわからず、その気持ちが抑えられなくなり雪女の腕をそっと取り、ギュッと抱いて頭をうずめる。
「なんだい、うざったいね」
雪女は彩の頭にそっと頭をつけ、ハニカんだ笑顔を見せる。
「ツン……」
「ツンデレだな」
「ツンとしてデレったにゃ」
金平糖とワンタンと大福が突っ込みを入れると、洞窟内が一気に冷え込む。
「三匹とも氷漬けにして粉々に叩き割ってやろうか」
雪女は冷気を帯び、髪が逆なでになり、鬼の形相で不敵な笑みを浮かべる。
「俺の炎で丸焼きにしてやろうか」
「なんだ、やるのか」
戦闘態勢につく、金平糖とワンタン。
「ツンデレが怒ったにゃ」と大福がケラケラと笑う。
戦いがはじまるのかと思いきや、口喧嘩がはじまり、口喧嘩をしながら楽しそうに追いかけっこをはじめる。
妖たちが楽しそうに話しているのをみるのははじめてだな。
なんかとっても嬉しいな。
彩はクスクスと笑う。
「なんだかほのぼのだね」と葉は彩に声を掛ける。
「うん。なんだか、楽しそう」と彩はくしゃくしゃな笑顔を見せる。
「そうかい。お嬢さんはそんな可愛い笑顔が出来るんだね」
彩の頭を撫でる雪女。
「おい、雪だるま。私の彩に媚び売るにゃ。絶対にウチに入れないからにゃ」
「あら嫌だよ、それを決めるのはお嬢さんじゃない」
大福はこいつを入れないよな? というように目をウルウルさせて訴え、雪女は受け入れてくれるよね? というように横目の上目遣いで彩をそれぞれ見つめる。
「え? あ! ウチに来ます? 冷凍庫に住む感じ? 狭いよね……ブツブツブツ」と雪女の住む場所を真面目に考える彩。
「お前の入る隙間なんかどこにもないにゃ、くんにゃ、くんにゃ」
「いいじゃない。寄り添って仲良く暮らしましょうよ~モフモフ猫ちゃん」
大福は雪女に抱き着かれ、ゾワゾワ~と毛が逆立ち、狸のような太い尻尾になる。
「ああ。氷漬けにされて次の日ポイってされそうにゃ」
雪女は大福にスリスリと頬ずりをする。
「や~め~ろ~にゃ~」
一同の笑い声が響き渡る。
「お前らはのんきでいいねえ。隙だらけだ!!!」
低い声? 誰? どこから?
「え?」
「な?」
「にゃ?」
黒い影のようなものが大福と雪女とリンの前を通り過ぎると、金平糖の炎が消え真っ暗になる。
ゴックン。
何かを飲み込んだような大きな音がする。
「この毛むくじゃらは低級か? 不味いな。女子たちは美味じゃのう。大事に喰おうかの……」
え? どういうこと?
「大福? バニラアイス? リン?」
葉は三人に声をかけるが三人からの返事がない。
「コン!」と葉。
「あいよ」と金平糖。
「ワンタンは彩に!」と葉。
「おう」とワンタン。
「彩、俺を受け入れろ!」
「わかった」
金平糖は葉に憑依し、ワンタンは彩に憑依する。
「おお、いたいた! この匂いは衣の匂いだ。美味そうだな……じゅるり」とぴちゃぴちゃと水滴のようなよだれが垂れる音がきこえてくる。
真っ暗闇で何も見えない。
けど何かがいて、私を狙っているのだけはわかる。
彩はキョロキョロと周りの様子を伺おとして落ち着きがない。
「お嬢ちゃん、落ち着け。暗闇の中をじっくり見てみろ」
彩は一度目を閉じ、深呼吸をしてから目をゆっくりと開ける。すると、真っ暗闇の中でも葉たちの姿がぼやっと見えてくる。
「あれ? 葉くんと……あの大きな物体が声の主?」
「そうだ。俺との憑依で暗闇でもハッキリと見えてくるはずだ」
ワンタンは犬神。犬のように水晶体が人よりも厚いため暗い場所でもみえる。また全体視野も広いため彩の目にうつる世界がいつもとかわってみえる。大福と憑依しても同じなのだが明るい場所だとその変化に気づきにくいのだ。
「うん、よく見えるよ」
声の主は縦にも横にも大きくてドロドロした異形のモノで、頭の上から泥のようなドロドロした液体のようなものを流し続けている。その異形のモノは目が見えないのかクンクンと匂いを嗅ぎ分けながらゆっくりとジグザグに歩いている。
葉は精神感応で彩に話しかける。
(彩、洞窟の奥へ)
(葉くん! うん、わかった)
彩と葉は洞窟の奥の方へ足音を立てずにゆっくりと歩いて行く。
「あいつ、ノロそうだな」と金平糖。
「だといいんだけど……。僕は陣を書くからワンタンは彩を守っていて」と葉。
「おう」とワンタン。
「ワンタンさん! よろしくお願いします!」と彩は深々と頭を下げる。
葉は腰に吊るしている小刀で指先を切り、血で陣を書き始める。
しばらくして陣を書き終える。
「よし! 陣が完成だ。これであとは奴を……」
葉の声が消えた瞬間――。
パクリ……ゴックン。という飲み込んだ音が響き渡る。
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