第十ニ話 形勢一変
今日は一学期の終業式。
海の日が近いというのにここ数日雨が降り続いている。そして夏だというのにとても寒い。
栞や澪たちと夏休みの予定をたてていたら遅くなっちゃった。
空模様もなんか暗くなってきたし早く帰ろう。
彩は早歩きで下駄箱に急ぐが、雨の音が気になり足を止める。
誰もいない教室に雨の音、雨がモノに跳ね返る音も水溜りに落ちる音もなんとなく心地が良い。
彩は座って目を閉じ、教室の窓の下の壁に耳と頭を密着させ、雨の音と振動を楽しむ。
雨の音はまるで音楽のようで落ち着くな……。
彩はそのままウトウトと眠ってしまう。
数十分が経ち、彩は目を覚ます。
はっ! 寝ている場合じゃない! 暗くなってきちゃった。早く帰らないと……。
下駄箱で靴に履き替え外に出ようとすると、葉くんが空を見上げて立っていた。
「葉くん? 傘はどうしたの?」
「あ~忘れちゃった」
葉くんはいつもボーっとしている。授業中もほとんど寝ているし、睡眠不足? そして金平糖とワンタンがいつも一緒にいる。もちろん皆には見えていないけどね。
はぁと大きな溜め息をつき「おい、コン。お前、傘になれ」としびれを切らしたワンタンが横目で金平糖をみる。
「はあ? なんで俺がずぶ濡れになんだよ」
金平糖はワンタンを睨みつけ、プイっとそっぽを向く。
「お前、狐なんだから化けられるだろう。俺は犬だから化けれん」
「つっかえないワンコロだな」
金平糖とワンタンは取っ組み合いの喧嘩を始める。
葉は空を見上げながら「まあまあ。これくらいの雨なら走っていけるよ」と言うが、雨は会話が聞こえないくらいの激しさである。
葉くん走っていける雨じゃないよ!
「あ、あの。よければこれ」
彩は手に持っていた傘を差し出す。
「え? でも君はどうするの」
「私は折りたたみ傘も持っているから大丈夫だよ」
彩はカバンの中から折り畳み傘を取り出す。
金平糖とワンタンはピョンっと葉の肩に飛び乗る。
「そっか、君は優しいね。ありがとう」というと葉は傘を広げ歩き出すが、数歩進んで止まる。
どうしたんだろう?
「ねえ、金平糖」と葉。
「なんだ」
「金平糖が肩にいると傘がさしづらいんだけど……歩いてくれる?」
「はぁ? 雨に濡れろってのか」
「だってこのままじゃ、傘がうまくさせないし」
「妖にとって雨は天敵だぞ。それなのに濡れろとかって冗談だろう」
「あ、あの……」彩は恐る恐る、金平糖と葉の会話に割って入る。
「小娘、今は大事な話をしているんだ。少し待っていてくれ」
「あの! 金平糖さん! よければ私の肩にのっていきませんか」と彩。
「お! いいのかい? じゃ遠慮なく」と金平糖はヒョイっと彩の肩にのる。
「この前、のせてもらったんでお礼というか……お返しというか」
「ほほう、礼儀正しい子だな。気に入った」
金平糖はフワフワ尻尾で彩の頭を撫でる。
「コン、それは失礼だろう」とワンタン。
「なんだと? 俺のフワフワの尻尾が失礼だと」と金平糖はワンタンを睨みつける。
「いや、確かにお前の尻尾が綺麗かわからないから尻尾の存在も失礼だけど。そうじゃなくて、尻尾で頭を撫でる行為が失礼って話だ」
ワンタンはヤレヤレと首を左右に振りながら、小さく溜め息をつく。
「ワンタン、説明ありがとう」とクスクスと笑う葉。
「あ、そんなことないです。フワフワの尻尾さん気持ちいいです。癒されます」と気を遣う彩。
「お……俺、今日からお前んちの子になる!」金平糖は目をウルウルさせ、彩に抱き着く。
「バイバイ、金平糖」
「じゃあな、コン」
葉とワンタンはニコニコしながら手を振る。
「お前らさ、なんか冷たくない? 俺の扱いひどくない?」
「おい、クソ狐。私のご主人に馴れ馴れしく触れるにゃ」
声がする方を向くと、大福がびしょ濡れで座っている。
「大福さん、びしょ濡れじゃない。風邪ひいちゃうよ」
彩は鞄の中からジャージを出し大福にグルグルと巻き付けゴシゴシと拭く。
「い、痛いにゃ……」
ん? 痛い? 誰が?
大福はジャージの中から顔を出し「彩、拭いてくれるならもっと優しく頼むにゃ」と彩の顔をじっと見つめる。
「あ、ごめんなさい……って! 猫が喋ってる?」と彩は驚く。
「今更だにゃ」と冷静にツッコむ大福。
「よう! 豚猫」
「おう! デブ豚狐。久しぶりだにゃ」
にこやかに挨拶する金平糖と大福だが、ピリピリとした緊張感が走る。
「饅頭くん! 最近見かけないと思っていたら」
「葉、お前はどうせ話を聞いていなかったんだにゃ。ってか私は大福であって、饅頭ではないと何度言えばわかるにゃ」
「話って? なんだっけ?」とすっとぼける葉にワンタンが「忘れたのか? 大福にあの家の監視を頼んだのを」と説明をはじめる。
「元々あの家の周りには異形のモノがつきやすいというか、現れやすい。それで監視を頼んだのを忘れたのか?」
「そうだった、そうだった。ごめん、ワンタン」
「え? うち? 祖父母の家?」と不思議そうに首をかしげる彩。
「そうだ。気が付かなかったのか? お嬢ちゃんの力に寄ってきそうな……。あれ、力はどうした? 弱まっているな」
ワンタンは彩の妖力が以前会った時より少ないことに気が付く。
「なんのこと?」
彩の頭にたくさんのハテナマークがつく。
「あ~彩の力なら俺が夜な夜な美味しくいただいているにゃ」
ん? いただいている???
「どうりで人間の言葉を流暢に話せるわけか」とワンタン。
「え? どういうこと?」と彩。
「大福はお嬢ちゃんの力をもらうことで話せている。通常は俺たちにしかわからない言葉で話すんだ。特にこいつは半妖だからな。人間にはニャーって聞こえてる感じだな」
「あ、普通の猫なのね」
「いや、俺様は普通の猫ではない。猫は仮の姿で本来は妖モノさ。わかりやすくいうと化け猫だな」
大福はニヤリと怪しい笑顔を見せる。
確かに普通の猫には表情筋がほとんどないため笑顔なんて芸当は出来るはずがない。
「まあ、中途半端にだけどな」とワンタンは鼻で笑う。
「うるさいにゃ」と大福がシャーと毛を逆立たる。
「なんだ? そのにゃってのは。自分で変だと思わないのか」と金平糖。
「仕方ないんだにゃ。こうなってしまうんだにゃ」と大福。
「半妖でなければそうはならんだろう」
「半妖でも妖モノにはかわりないにゃ」
本人が言うように大福さんは妖モノなんだ。
私が最近、妖モノをみなくなったのは力が弱まったからってこと?
「それで、あの家の守り猫様はどうしてここにいる?」
「お前らも気が付いているにゃ? 最近妖モノたちが少なくなっているにゃ」
「そうだね、なんだか最近は静かだね。それにとても寒いよね」と喋る葉の口からは白い息がみえる。
「私も最近寒いなって思っていたんですけど、みなさんも感じていたんですね」
よかった! 私だけが感じていることじゃなかったんだ!
「これは……まさか」
葉は目を見開き、遠くの山をみる。
「そうだ。封印していたあいつが……」と大福が話していると突然大きな風が吹き、彩は空高く舞い上がる。
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