第十一話 傾蓋知己
学校の授業が終わると――。
オレンジから紺色のグラデーションが広がる空、山々の間に太陽が沈んでいく。水溜まりに夕日がキラキラと反射して風に揺れては形を変える、まるでアートの様に。そんな幻想的な光景を毎日見ることができ、少し幸せを感じている。
黒髪のサラサラロングヘアの栞は太陽に負けないくらいの眩しい笑顔で夕日を背に仁王立ちして、バッと両手を大きく広げる。
「彩! 田舎も悪くないでしょ?」
まるでこの町の長のように偉そうな態度で自慢げに言う。
「うん。こんな景色をみたのは初めてだよ」
「な~んもないけど、自然の映え写真ならいくらでも撮れちゃうんです」
茶髪のショートカットの澪はスマホを取り出し、太陽に向けてカメラを向ける。
パシャ!
「ほら! みてみて! すごく映えるでしょ?」
澪的には満足がいった写真を撮れたらしく、まるで甘えん坊の犬のように目を大きくクリクリっとさせ、褒められるのを待っている。
「う~ん。これはただの逆光写真にみえるけど、どう思う? 彩」
それに対し栞は、猫のように目を細め傲慢な態度をとってみせる。
うん。犬も猫もどっちも可愛いし、好き!
ってことで私の答えは。
「そうだね、背景は綺麗に撮れているけど……人物が真っ黒すぎるかな」
多分、これが無難な答えのはず?
「しょうがないな! 私が撮ってみせようじゃない」
栞はお得意の仁王立ちをして、ニヤリと口角を上げる。
「ほほお、栞様はなんか偉そうですね。お手並み拝見しましょう」
帰り道、三人で歩きながらたくさんの写真を撮る。
当たり前のような二度とない当たり前ではない放課後。
「ってかさ。今日もクッキー作りするんでしょう?」
栞はふと思い出したかのように喋り出す。
「あ! そうでした! きょっおはおっいしっくでっきるっかな~」
澪は歌いながらルンルンとスキップをする。
ああ! そうだった! メロンソーダくんにあげるクッキー作りをするんだった!
「栞、澪! 何度も付き合わせてごめん!」
彩は目をギュッと閉じ、手を合わせ、深々とお辞儀をする。
ここ数日、二人にクッキー作りを教わっている。今まで教えてくれる人も一緒に作ってくれる人もいなかったから。って、自分一人でやってもよかったんだけどね。やっぱり、あげる人がいるから作ろうって思ったんだろうな。
誰かの存在って大きいなってここに来てからよく思うようになった気がする。
栞は彩の頭をポンと軽く叩きながら「もう! 彩はすぐ謝る~」と言うと、すかさず澪が「そう! こういう時は?」と言う。最初からセリフが決まっていたかのように二人の息がピッタリと合っている。
彩は大きな声で「二人とも! ありがと!」と言う。
「はい、それでよし」
栞はニッと笑い、ピースをする。
「はい、よくできました~」
澪は彩の髪の毛がグシャグシャになるくらい撫でまくる。
栞はスマホを取り出し「はい! 撮りますよ~、3、2、1」と言うが、カメラを向けるだけで写真を撮らない。
「あれ? 撮らないの?」
澪と彩が気を緩ませて顔を見合わせていると栞はカメラのシャッターボタンを押す。
写真を確認すると澪が半目で口をポカンと開けているのが映っている。
「ちょっと! 変な顔になっちゃったじゃない」
澪は頬を膨らましてプンプンと怒り出す。
栞は栞の顔を指さしながら「変な顔はもとからでしょう」と大笑いをする。
「もう一度取り直しなさいよ」
「はい! はい! じゃ、撮りますよ~、3、2、1」
決めポーズと決め顔をする三人だが栞はまたカメラを向けるだけでまた写真を撮らない。彩はそのままカメラ目線で笑顔を作っている。
「またかよ~」
澪が気を緩ませている隙に栞はカメラのシャッターボタンを押す。
「お! いい感じ」
「えへへ、髪型ボサボサだけどね」
澪は半目でタコのような口をして映り、栞と彩はカメラ目線で可愛く映っている写真となる。
「顔は私たち決まってるね」
「ね」
キャッキャと満足そうにしている栞と彩。それに対して澪は鬼の形相で二人を睨みつける。
「おいこら! 私も可愛いく映りたい! もう一回!」と澪。
「え~どうする?」
「どうしようかな?」
彩と栞はニヤニヤしながら顔を合わせる。
「ね、お願い」
澪は高い声を出し、上目遣いでお願いをする。
「しょうがないな~。次はいい笑顔でいくぞ! 10‐8は?」
栞はカメラを向けシャッターを押す。
彩は元気よく「にー」と答え、澪は「え~なにそれ~」と叫ぶ。
「澪はこんな簡単な引き算もできないんですか~」
「バカにす~る~な」
栞と澪が追いかけっこをはじめる。
栞も澪も面白くて一緒にいて本当に楽しい。
毎日、こんな日が続けばいいのにと心から思う。
転校してから一週間が経つ。
特に何もない日々。
全くではないけれどほとんど異形のモノが視覚に入ることがなく人が纏うオーラも見えない日常。友達が出来て友達と話すという日常。家に帰れば祖父母が居て、「おかえり」と笑顔で出迎えてくれ、一緒に夕食を食べる。そんな普通の日常が続いている。
一週間前までは世界に絶望していたなんて信じられない。
私は当たり前の日常を手に入れた。
これからも……こんな日が続くと思っていた。
いや……信じていた。
お読みいただきありがとうございました!
次回もよろしくお願い致します!




