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君と僕がみている世界の色は ~あやかしと共に生きる者たちの物語~  作者: かなたつむぐ
【第一部 きみいろ】
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第十話 晴好雨奇

 今日は珍しく予定を立ててみた。

 午前中は友人宅に行きクッキーを作って来た。午後はそのクッキーを持ちメロンクリームソーダくんのところへ行こうと思っていたのだけど……生憎の土砂降り。


 予定がなければ雨は大歓迎なんだけど。

 

 私は雨の日が好きだ。雨の日の独特な匂い、土草やカビっぽい匂いも嫌いじゃない。窓や床や壁に耳をくっつけて音を聞く。外にいる時は雨粒が色んな物に跳ね返った音を聞く。どの場所にいても同じ音は一つもない。音の高さも響き方も違い、雨の日の度に新しい音楽を聴いているような感覚になる。雲と雲の間を行き交う雷はドラゴンが泳いでいるようだし、地上に落ちた雷の光で別の世界にでも行けそうで、もしかしたら雷が落ちた場所に行ってみると何か目に見えない宝物が落ちているんじゃないかと想像することもある。

 

 天気予報は晴れのち曇りだったのに、なんでこんなに土砂降りなんだろう。


 そんなことを思い部屋から外を眺めていると大福さんが庭でナニカと追いかけっこをしているのが見える。


 こんな雨の中何をしているんだろう? ネズミでもいるのかな?


 彩は大福のことが気になり、大福のもとへ向かう。



「ねぇ、大福さん。何をしているの? 雨だしお家に帰らない?」


 大福はイカ耳をし聞いている素振りを見せるが振り向くことはなくナニカを追いかけまわしている。彩は傘を差し、しゃがみこんで大福の様子をじーっと眺めている。


 大福が大ジャンプをしてナニカを口に捉えたようだが振り向かず庭の外へ走って行ってしまう。彩はそのナニカが気になり大福を追いかける。茂みに中に入っていく大福。彩も茂みの中に飛び込むと大福がナニカを押さえつけている。


「あ、ああ。助けてください」

 ナニカは助けを求めてくる。


「え? 何? 妖モノさん?」と彩がナニカに声をかける。

「はい。アメフリと言います」


「大福さん! 弱いものイジメをするのはダメです」という彩の声を聞き、大福はアメフリを放す。そして彩を睨みつけその場から立ち去っていく。


「お嬢さん、助けていただきありがとうございます」

 アメフリはペコペコと何度も頭を下げる。


「いえいえ、ウチの猫がご迷惑をかけたみたいで……すみません」と彩もペコペコと頭を下げる。


 アメフリは掌にのるくらいの可愛いサイズでスライムのようなフニャフニャした液体のような流動的な生き物で透き通った天色(あまいろ)をしている。


 彩はアメフリが濡れないようにと傘をさしてあげる。


「お嬢さん、傘はいらないよ。オイラは雨の妖モノだから、雨がないとなんだ」

「そうだったんだ。それはごめんなさい」と彩は傘を引く。


「そういえば、お嬢さんは人間ですよね?」

「あ……うん」

 彩は笑顔を取り繕いながら気まずそうに目線を逸らす。


「あ、気に障っちゃいましたか? すみません。その目の色が気になったので……どちらかと……」

「目の色?」


 彩の目の色は右目が桃色、左目が金色をしているのだが本人には両目が桃色に見えている。彩の目が左右違って見える者は妖モノたちだけである。妖モノで金色の目を持つものは多いが人間がその目を持つことはほとんどない。


「あーまたまた余計なことを! 何でもないです! とにかく助けていただきありがとうございました」

 アメフリは高速でペコペコと頭を下げる。


「あー首折れちゃうよ!」


「あ、大丈夫です! フニャフニャした体なんで!」

 アメフリはニコニコと笑いながら大きく体を揺らす。


「うふふ。なんだかスライムみたいで可愛いね」と彩がクスッと笑うとアメフリは両手を上げてピョンピョンと飛び跳ね元気アピールをする。


「えっと、アメフリくんは何でウチの庭にいたの?」

「会いたい人が帰って来たっていうから、会いに行こうとしていたんだけど……途中で迷子になっちゃって。そしたらさっきの猫に追いかけられちゃったの」


「そっか、迷子か……。ここらへんで人や妖モノの知り合いとかいない?」

「うーん」


「私の知り合いはね、人間だと葉くんと絵くん、妖モノだと金平糖さんやワンタンさんやリンさんやタルトさん、後はメロンクリームソーダくん。この人たちのところへなら多分案内できるけど」

「あーそのメンバーなら、クッキーくんがいいかな……」


「クッキーくん?」

「あ、葉くんのネーミングでいうとメロンクリームソーダくん、河童くんのことだよ」


「クッキーくんって言うんだ?」

「クッキーが大好きだから、そう呼んでいるだけだよ」


「そうなんだね。そうだ! 思い出した! 今日ね、クッキーくんにクッキーを届けようとしていたんだけど、一緒に行かない?」

「え? いいの? 行く!」


「あ、でもクッキーくんのいる場所がわからないな……葉くんに聞かないとって、葉くんの連絡先も知らないし……どうしよう」

「それなら目を閉じて、クッキーくんのことを考えてみて。そうしたらきっと見つかるから」


「そうなの?」

「まぁ、試しにやってみてよ」


「うん……。わかった」



 メロンクリームソーダくんのいる場所はどこですか?



 彩が心の中で問いかけると彩の周りで大きな風が巻き起こる。その瞬間、彩の頭の中にメロンクリームソーダのいる場所が浮かんでくる。



「わかった!」と言った瞬間、彩は急に目の前が暗くなりその場に倒れてしまう。


「お嬢さん! お嬢さん!」

 ポヨンポヨン。アメフリは倒れた彩の頬に何度も体当たりをする。


「あれ? 私?」

 彩は意識を取り戻し起き上がる。


「ごめんなさい。まさか、そこまで妖力を使い切るなんて思っていなくて……」

 アメフリは大粒の涙を流す。


「え? 泣かないで? 大丈夫だから。なんかちょっと眠くなっただけだから」

「ごめんね、ごめんなさい」


「大丈夫だから、ね。暗くならないうちにクッキーくんの所へ行こう?」

「は、はい」


 彩は泣いているアメフリの頭を優しく撫でる。


「一度、家に戻ってクッキーを持ってくるね。ちょっとここで待っていてね」

「はい。あ、あの……本当に具合は大丈夫ですか?」


「うん!」

 彩はニッと笑ってダブルピースをし、家に戻っていく。


 そういえば、なんでメロンクリームソーダくんの居場所がわっかんだろう?

 ま、いっか!





* * *

 彩と彩の肩に乗ったアメフリはメロンクリームソーダと最初に出会った森の奥の河原沿いを歩き、滝で水浴びをしているメロンクリームソーダを見つける。



「いた!」

「クッキーくん」

 彩の肩の上でピョンピョンと跳ねる、アメフリ。


 メロンクリームソーダはアメフリに気づき慌てて河原から上がろうとして滑って転んでしまう。


「痛いっぺ」


「大丈夫?」

 彩はバシャバシャと河原の中に入っていき、メロンクリームソーダに手を差し伸べる。


「彩っぺ! と、アメフリ?」


 アメフリは倒れている河童の背中の上に乗り、ピョンピョンと跳ねる。


「あはは、くすぐったいっぺ」

「ごめんよ、再会が嬉しくってつい」


 メロンクリームソーダくんは立ち上がり、彩たちを連れて祠がある場所へ向かう。





「やぁ! 久しぶりだね、クッキーくん」

「アメフリ、久しぶりだっぺ! また小さくなったっぺ?」

 アメフリはメロンクリームソーダの掌の上に乗って、ピョンピョンと跳ねる。


「そうかな? 縮んだかな?」とアメフリはクルクルと回転している。

「アメフリ、どうしたっぺ? こっちに来ないものだと思ってたっぺ」


「うん。そのつもりだったんだけど、どうしても会いたい人がいて来ちゃった!」

「そうだっぺね。ずっと会いたかったって言っていたっぺね」



 どうしても会いたい人か! ロマンチックというか。なんだかアメフリが会いたいと思う妖モノに会ってみたいなと思ってしまう。



「一人で来たの?」と彩。

「まさか! すごーい用心棒も一緒に来てるんだけど目立つからってちょっと離れたところにいるんだ」とアメフリは空を指差す。


「あー誰と来たかなんとなくわかっぺ。で、会いたい人には会えたんだね?」

「へへ、内緒!」

 クリームソーダくんとアメフリは満面な笑みで笑いあう。



 あれ? さっき会いたい人に会いに来たけど迷子になったっていってなかったっけ?



「それで、彩っぺはどうしてここに来たっぺ?」

「あ、忘れてた! 午前中にクッキーを作ったから渡そうと思って」

 彩はポシェットからクッキーを出し、手渡す。


「わぁ! オイラのために作ってくれたっぺ?」

「うん、はじめて作ったから、美味しくないかもだけど……よければ」

 彩は自信がなく笑顔を取り繕ってみせる。メロンクリームソーダは満面な笑みで彩の頭をポンポンと優しく撫で、彩の両手を握りブンブンと振りまわす。


「ありがとうだっぺ! 嬉しっぺ!」

 メロンクリームソーダは早速、クッキーの袋を開け食べ始める。


「美味しいっぺ! ホッペが落ちちゃうくらい美味しいっぺ!」

 メロンクリームソーダは美味しくて嬉しくて、ピョンピョンと踊りだす。


「喜んでもらえてよかったよ! もっと美味しくできるように頑張る! また作ったら持って来てもいい?」


「もちろんだっぺ! 嬉しいっぺ」





 ザーザーという雨音がゴーと滝の近くにいるような音に変わったかと思うと、けぶるような雨になり辺りは真っ白な世界へと変化していく。



「それにしてもどんどん雨が強くなっていくね」

「霧がすごくて何も見えないっぺ」


 彩とメロンクリームソーダは辺りを見回し、空を見上げる。


「二人とも雨……嫌い?」

 アメフリは少し悲しげな顔を浮かべながら、か細い声で問う。


 彩はニコッと微笑み「私は雨が好きだよ。だって、雨がないと生き物は生きていけないし、雨が降るから晴れて、雨が降るから虹が出来るでしょ。それに雨の時のお空の色も、滴が跳ねる音も、匂いも大好きよ」と言う。


「オイラも雨が大好きだっぺ」

 メロンクリームソーダは掌にアメフリを乗せて頬をグリグリとくっつける。


「それに、今日は雨が降ったからアメフリくんに出会えたわけだし、そう考えたら今日という雨っていう奇跡に感謝しないとね」


「うん、うん、うん」とアメフリは満面の笑顔を見せる。


 パチン。と指を鳴らす音が聞こえる。その音がした瞬間、土砂降りの雨はピタッと止み空から太陽が顔を出す。


「あ、晴れた!」

 彩は木と木の間の空が広がってみえる場所に走っていき、両手を上げ背伸びをする。


「お天気になったっぺ」とメロンクリームソーダも両手を上げる。

「……」


「アメフリ?」

「帰る合図だ……」


「そっか、この音はヨナ様っぺね……。またあっちに会いにいくっぺ」とメロンクリームソーダはアメフリにぴとっと寄り添う。

「うん。待ってる」


「会いたい人に会えてよかったっぺ」

「うん。本当は遠くからみるって話だったんだけど、実際に会えて元気そうで安心した」とアメフリは大粒の嬉し涙を流す。


「そうだね、よかったっぺ」

「最高の日になったよ」とアメフリは太陽に負けない眩しい笑顔を見せる。





「ねぇ、二人とも! こっちに来て! 虹が見えるよ!」

 彩がアメフリたちを手招きをして呼ぶ。

 

「じゃあ、行くね」とアメフリ。

「彩にお別れを言っていかないっぺ?」

 アメフリは滝のような涙を流しながらも笑って見せる。





「わぁ! 大きな虹だっぺ」とメロンクリームソーダは彩の横に並ぶ。

「ね、しかもダブルレインボーだよ! 私、はじめてみた」

 彩は二重の虹が嬉しく、大きな声を発しキラキラと目を輝かせている。


「あれ? アメフリくんは?」

「あー。彼なら、連れが迎えに来たみたいでいっちゃったっぺ」


「そっか、もっとお話ししたかったな。また会えるよね?」

「きっと会えるっぺ。オイラは思うっぺ。会いたいと思えばいつかきっと会えるって、そう信じているっぺ」


「うん、そうだね」

 彩とメロンクリームソーダは顔を見合わせ微笑む。


 金色の一枚の羽根がゆらゆらと落ちてくる。




 雨の日も好きだけど、晴れの日も好き。

 じゃあ曇りの日が嫌いかっていうと曇りの日も好き。

 要するにどんなお天気の空も好き。

 だって、どのお天気もそれぞれの香りを運んでくれたり、ステキな音や色の世界をみせてくれるから。


 でも、一番好きな空はって言われたら……。

 雨が降った後の晴れた空が一番好き。


 雨から晴れた空に気分屋のように現れる虹も、雨で空の汚れが洗われたような色鮮やかな空色も、雲が忙しそうに猛スピードで駆け抜けていくのも、生暖かい風がビュービュー吹くのも、水たまりが鏡のようになって写し出す景色も、木々や花に残った水滴が宝石のようにキラキラと輝くのも、みんな好き。


 虹が現れるのは雨があるからだし、それぞれの天気の良さがわかるのもそれぞれの個性的な天気があるからだし。


 そう考えると、この世界にはお互いがいるからこそ、お互いがあるからこそ、成り得ているんだなと思う。正面から見たらマイナスにみえるものでも、後ろからみると本当はプラスのことだったり、一方からしかみないものには決してみることが出来ない世界があったりする。


 この世界は本当にたくさんの色があり、人やモノに自分にしかない個性というそれぞれの持つカラーがあって、みんな輝いているんだなと思う。

お読みいただきありがとうございました!

次回もよろしくお願い致します!

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