94話 待ち伏せ
翌日、クリスとヴァレンタイン、そしてエリザベスとレジナルドは一緒に朝食を取っていた
「クリスはこの城に初めて来たのだからな
後で城の中を案内しよう」
「ありがとうございます」
「俺にも案内してくれよ」
ヴァレンタインも城の案内を申し出るとレジナルドが笑った
「ヴァルは来た事があるじゃないか」
レジナルドにそう言われると、ヴァレンタインはむすっとした
「前に来た時は冬だったからほとんど部屋から出なかったじゃないか」
ヴァレンタインに言われレジナルドは「ふむ」と納得した
「確かにね
ヴァルとベスは寒がって食事も部屋に運ばせていたからこの城をよく知らないか」
「だろ?」
「…と言う事は…」
そう言いながらレジナルドはちらりとエリザベスを見た
小さく切ったウインナーをフォークに刺し口に運ぼうとしていたエリザベスは、レジナルドの視線に気付いて手を止めた
「私も一緒に行くわ」
「だろうね」
レジナルドはニッコリ微笑んだ
「旦那様もご一緒されますか?」
執事のスコットがレジナルドの前にコーヒーを置きながら聞いた
レジナルドはコーヒーに手を延ばすとすぐに一口飲んだ
「もちろんだよ
ベス達が来る前に私の仕事は概ね済ませたのだから
しばらく私も休暇だよ」
「畏まりました」
レジナルドはクラーク国では将軍の地位を授かっている
その為に国政にも関与していた
国の魔獣達を従え、他国からは過剰な干渉をされないように睨みを効かせている
クラーク国ではレジナルドが魔獣達を統括しているので、人間と魔獣が共存している
魔獣と人間のカップルも珍しくない国なのだ
他国ではレジナルドのような魔獣がいないので相変わらず魔獣達は人間を襲い、魔法使いによって討伐されたりもする
ヴァレンタインやエリザベスもレジナルドに匹敵する魔獣ではあるが本人達がそのような面倒な事をしたくないので、たまに羽目を外しすぎた魔獣を討伐したり人間のいない土地に移動させたりするくらいだ
だがレジナルドはこの広大な北の地の魔獣を統べ、しかも他国にも睨みを効かせてクラーク国の安定に貢献している
魔獣といえど多忙なのだ
「ではこの後、案内するよ」
「はい、ありがとうございます」
クリスは嬉しそうに返事をした
♪♫♬ ♬♫♪
朝食を終えたエリザベスは部屋へ戻るため東棟の階段へと向かった
「奥さま、城の案内の時にどこかでお茶をご用意しますか?」
エミリーはエリザベスの後ろを歩きながら聞いてきた
「そうね…
レジにも確認した方がいいでしょうけど、温室で休憩にしようかしら」
「畏まりました
後ほど旦那様にも確認いたします」
「お願いね」
エリザベスは歩きながら後ろのエミリーに視線を送っていたので、階段の側に人が待ち構えている事に気が付かなかった
エリザベスの後ろを歩くエミリーが先に気付くと、ぱっとエリザベスの前に立ちエリザベスを守るような態勢を取った
階段の側で待ち構えていたのは、昨晩エリザベスの部屋に押し入ろうとしたドロレスともう一人の人間、こちはらまだ幼さが残る少女で薄いピンクの髪をした魔法使いだった
「ドロレス様、いかがいたしました?」
エミリーは険しい顔つきで睨んだ
ドロレスは扇を広げると顔を隠し
「おお、嫌だわ
低能な魔獣は野蛮ね」
とエミリーを蔑むような目つきで見た
「たまたまここでお会い出来ましたもの
そちらの令嬢に挨拶させて頂きますわ」
あくまでも偶然だと言うのね
エリザベスは少々呆れながら一歩前に出た
エミリーは少し振り返りエリザベスの顔を見てから、すっと横に移動してエリザベスの前をあけた
ドロレスはコツコツと靴音をたててエリザベスに近づくと、相変わらず扇で顔を隠してはいるが嫌悪感を露わにした目つきでエリザベスをジロジロと観察した
「確かにお綺麗な方ね
私はドロレス・シンプソン
クラーク国のシンプソン伯爵家の者です」
「エリザベス・エヴァ・レイメントです
ベイル国の伯爵家の者です」
ドロレスは眉毛をぴくつかせた
たかが魔獣が伯爵の位を持っているとは思ってもいなかったのだ
「…そう、伯爵家の方なのね
私も伯爵家ではありますが、曽祖母は王家の人間でした
つまり私は王族と親戚関係にあります」
「そうですか」
エリザベスにとって人間の地位や血筋には全く興味がない
だから?
と言い返したいところを、ここは堪えた
「私は国王陛下より直々にレジナルド様の身の回りのお世話を仰せつかっております
つまり私は国王陛下がお決めになられたレジナルド様の妻です」
ドロレスの言葉にエミリーが何か言い返そうとしたが、エリザベスは小さく手でエミリーを制した
それに気付いたエミリーはぐっと堪えた
「私がレジナルド様の身の回りのお世話を仰せつかってこの城に来てもう5年が過ぎましたわ
レジナルド様は見目麗しくお優しい方です
レジナルド様の逞しい胸にのぼせ上がっておられるのかもしれませんが、ここでは私が女主人である事をご理解なさって頂きたいですわね」
ドロレスはパチンと扇を閉じると、扇でエリザベスの胸を指した
「妾は妾らしく主人に挨拶をなさい」
ドロレスの言葉にエミリーの怒りが爆発した
「失礼な事を仰らないで下さい!
エリザベス様は旦那様の奥方様です!
貴方はただの居候にすぎません!!」
「なんですって!!」
睨み合っているエミリーとドロレスの間にエリザベスはすっと手を延ばした
エミリーははっとすると、少し頭を下げて数歩後に下がった
エリザベスはそんなエミリーを見てからドロレスに視線を移すと
「貴女がこの結界の中に入る事が出来るようになったら、話しを聞いてあげるわ」
そう言うと階段に向って歩き出した
「こっ、この…!」
ドロレスは怒りでエリザベスの肩を掴もうと手を延ばしたがバチン!と結界に弾かれてしまった
「痛っ!」
ドロレスは弾かれた手を庇うと、エミリーはそんなドロレスをあざ笑うように見つめてエリザベスの後に続いた
エミリーのそんな態度に再び怒ったドロレスは
「お待ちなさい!!」
と怒鳴りながら手を延ばしたが再び結界にバチン!と弾かれたのだった
ドロレスの後ろにいた少女は心配そうにドロレスに近づいた
「ドロレス様!大丈夫ですか!?」
ドロレスは2度も結界に弾かれた手を摩りながら、怒りで震えていた
「たかが魔獣の分際で!!」
「まったくですわ!
魔獣は人間によって狩られ、管理される獣です
レジナルド様のような太古からいらっしゃる魔獣は別格ですが、人間の役に立たない低能な魔獣は獣と同じですわ!」
少女も怒りを露わにしながらドロレスの腕を心配した
ドロレスは弾かれた手を摩るのを止め、胸の前で握りしめた
「これは一度、国王陛下からレジナルド様にご忠告をして頂いた方が良いですわね」
「はい」
そう決めると、ドロレスはクルリと階段に背を向け歩き出したのだった
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