92話 ウィルソン城
「さあ、どうぞ中へ
疲れただろう」
レジナルドがそう言うと両開きの大きな扉が開かれた
レジナルドの腕に手を回した時、エリザベスはレジナルドの後ろに立つ初老の男性に気が付いた
「スコット、久しぶりね
元気にしていた?」
スコットと呼ばれた初老の男性は目に涙を浮かべうんうんと頷いた
「もったいないお言葉です、奥さま
私めはこの通り相変わらずでございます」
「スコット、奥さまはやめてちょうたい」
エリザベスが苦笑いしながら言うが、スコットはきっと顔つきが険しくなった
「とんでもございません!
旦那様が伴侶としてお決めになられたお方です
当然、奥さまと呼ばせて頂きます!」
スコットの迫力にエリザベスは目をパチクリさせた
エリザベスとレジナルドの後ろにいたクリスはヴァレンタインの耳に顔を近づけると小さな声で聞いた
「ヴァル、あのスコットって人は?」
ヴァレンタインはスコットとエリザベスのやり取りを楽しそうに見ていたが、クリスに聞かれ「ああ」と気が付いた
「スコットは執事長だよ
狐の魔獣でレジにずっと仕えてるんだ」
魔獣のような気配はしていたので魔獣だとは思っていたが、あまりにも人間くさくて驚いてしまう
「ベス、ここでスコットと言いあっていても疲れるだけだよ
とりあえず中へ入って一休みしよう」
レジナルドに促され、エリザベスは諦めた
「わかったわ、行きましょう」
エリザベスがそう言うと、レジナルドとエリザベスは城の中へと入って行った
続いてヴァレンタインとクリスは腕を組み、スコットの側まで行った
「いらっしゃいませ、ヴァレンタイン様」
「世話になるよ、スコット」
ニッコリと微笑んでみせるヴァレンタインに対してスコットは険しい顔つきだ
「ヴァレンタイン様、今は夏なので大丈夫とは思いますが、以前のような騒ぎを起こさないで下さいね」
「あれはベスが寒くて怒ってたからだ」
隣で話しを聞いていたクリスは、以前ヴァレンタインが魔法でこの城を暖かくして、いろいろと溶かしてしまったと聞いていたのでその事だろうと察した
スコットはクリスへと視線を移すと深々とお辞儀をした
「初めまして、クリスティーナ様
私は執事長のスコットと申します
御用がございましたら何なりとお申し付け下さい」
「初めまして、スコット
お世話になります」
クリスがニッコリ微笑むと、スコットは「はー」っとため息を漏らした
「このようにお可愛らしくお優しいお嬢様がヴァレンタイン様のお相手とは…」
「おい、何だよそのため息は」
ヴァレンタインにつっこまれたがスコットはヴァレンタインをチラリと見て
「さ、どうぞ中へ
ご案内差し上げます」
と前を歩き出した
この城で働く使用人が勢揃いしているのか、扉までの両脇にはずらりと使用人達が並んでいる
人間の姿をした魔獣や、魔獣と人間の姿が混ざった中途半端な魔獣、それに使い魔達もいる
大勢に出迎えられてクリスは恐縮してしまった
扉付近まで来た時にクリスは「あれ?」と思った
濃い茶色の髪に美しいドレスを着た貴婦人と、薄いピンクの髪の可愛らしい令嬢が立っている
この人達は人間だわ
レジナルドの城では人間も働いているのだろうか?
クリスは不思議に思いながら2人の前を通り過ぎ、城の中へと入って行った
♪♫♬ ♬♫♪
豪華な家具や装飾品が飾られている広い部屋に案内されたクリス達がソファに座るとすぐに侍女達がお茶を運んで来た
「今日は疲れただろう
ゆっくり湯浴みをして、遅くなるが簡単に夕食を済ませて休むといいよ」
「そうさせてもらうわ」
エリザベスはお茶を受け取ると一口飲んだ
「レジナルド様、こちらのお城には人間の召使いもいるのですか?」
クリスは先程見かけた人間が気になり聞いた
レジナルドもお茶を一口飲むと、左手で持っているソーサーにカップを置いた
「彼女達は魔法使いだよ
国王陛下の依頼でここに修行に来ているんだ」
「魔法使いなんですか」
ルガード国ではクリスの生家・オルドリッジ家が唯一の魔法使いの家系だが他国にはまだ魔法使いの家系が多と聞いてた
クリスはこんなに早く魔法使いと遭遇するとは思いもよらなかったので驚いてしまった
「だが、まぁ彼女達は…」
レジナルドは少し困ったような顔つきになり、クリスは「?」となってしまった
クリスが不思議そうにしているので、レジナルドは苦笑いをしながら
「あまり関わらない方がいい
君たちの身の回りの事はスコットや侍女長に任せてあるから」
「はい」
何か事情があるのだろうか?
だがレジナルドが話さない事をこちらの興味本意で聞く訳にもいかないので、クリスは返事だけした
お茶を飲み終えると
「それではお部屋へご案内いたします
湯浴みの準備は出来ておりますので、すぐにでもお入りになれますよ」
スコットはそう言いながらドアの方へ手を延ばした
「わぁ、嬉しい!」
「それはいいわね」
クリスとエリザベスは湯浴み出来る事に喜んだ
ソファから立ち上がりドアに向って歩き始めるとスコットが前を歩きながら説明を始めた
「この城は東西南北に棟があります
各棟全てが繋がっていますのは1階と2階のみでごさいます
3階と4階は各棟それぞれ独立しています
奥さまは旦那様のプライベートフロア、東棟の4階にお部屋がございます
ヴァレンタイン様とクリスティーナ様は南棟の4階をご準備させて頂きました」
「ワンフロア全て私とヴァルで使うのてすか?」
クリスが驚いて聞くと、スコットは振り返りニッコリと微笑んだ
「左様でございます
奥さまの弟君とご婚約者様です
ご遠慮なさらずお使い下さい」
「あ、ありがとうございます」
お礼を言ったクリスの手をヴァレンタインはぎゅっと握ると、グリスを見つめて微笑んだ
「二人っきりでゆっくり出来るな」
「そうね」
クリスとヴァレンタインはお互いに見つめ微笑みあうのだった




