89話 玉砕
クリスタルの谷を抜け、再び真っ暗な道を通り終えるとクリス達は湖に出た
湖畔ではすでに大型の馬車が準備され、ユニコーン達も普通の馬の姿になり待っていた
「おかえり」
「ドラゴンは元気だった?」
ユニコーン達は明るく迎えてくれた
「相変わらずだよ
また眠りについてしまった」
レジナルドが苦笑いしながらユニコーン達に教えると
「じゃあ変わりなく元気なんだ」
「よく寝るよね~」
「ほんと、飽きないね」
などとぎゃあぎゃあ話している
ふと一頭のユニコーンがクリスの変化に気が付いた
「あれ?クリス
なんだが魔力が変わってない?」
「あ、本当だ」
「なんだかすごい魔力だよ?」
ユニコーン達は既に馬車に繋がれクリスの側に寄れないので、前足を激しく動かした
代わりにクリスがユニコーン達の側に行き、初めに変化に気付いたユニコーンの鼻をそっと触った
「ドラゴンが私の奥底にあった魔力を引き出してくれたの」
「へ~すごいや
そんな魔力があったの?」
「魔力が2種類あったってこと?」
「変わってるね」
マリア グアダルーペを知らないユニコーン達はクリスの魔力がマリア グアダルーペの物だとはわからない
ヴァレンタインやエリザベス、それにレジナルドにドラゴンのジェレマイアだけがマリア グアダルーペを知っているのだ
この4人以外にはクリスの魔力が変わったくらいにしか考えない
妖精王のハーバートも直接マリア グアダルーペと会った事がないので、クリスの魔力がドラゴンからマリア グアダルーペの物だと言われなければユニコーン達と同じように『クリスは変わっている』程度にしか考えなかっただろう
「このまま直接帰るのかい?」
ハーバートがレジナルドの側へと行き、聞いた
「ああ
妖精の村に寄ると、また妖精達が嫌がるだろう」
確かに妖精達にとって人間が再び村に戻って来るのは嫌だろう
ハーバートとしても、人間を再び村に招き入れる事は不本意だった
だがそうなるとエリザベスも帰ってしまうのだ
ハーバートはこの数日間、エリザベスと共に過ごせてとても幸せだった
出来ればもっと一緒に居たい
このままずっと…
「そうだ、ベス」
突然レジナルドがエリザベスを呼び、エリザベスの事を想い考え込んでいたハーバートはどきりとした
「なに?」
エリザベスはレジナルドとハーバートの側に来た
「ベス、君はなぜハーブを愛称で呼ばないんだい?」
レジナルドが突然エリザベスにこんな事を聞いたので、ハーバートは焦ってしまった
「レジ!」
「ん?」
だがレジナルドは涼しい顔だ
ハーバートはそーっとエリザベスを見た
自分の顔が火照って熱い
エリザベスはきょとんとしている
「だってハーバートが私を愛称で呼ばないのよ?
それなのに私から妖精王を愛称呼び出来る訳がないじゃない」
え?それだけ?
それが理由?
ハーバートはずっとエリザベスがなぜ自分を愛称で呼んでくれないのか気になっていた
愛称で呼ぶほど親しくないと思われているのか、嫌っているのか…
いろいろと悩んだのに、実際はこんな理由だったのか?
ハーバートは一歩、エリザベスに近づいた
「そ、それじゃあ僕がエリザベスを愛称で呼んだら君も僕の事を愛称で呼んでくれるのかい?」
「もちろんよ
私達は友人じゃない
ただ王がしない事を私が先にする訳にはいかないわ」
「…」
あんなに悩んだのに…
エリザベスは僕の方から呼ぶのを待っていてくれていたんだ
ハーバートはごくりと唾を飲むと、恐る恐る口を開いた
「ベ…ベス」
エリザベスはにっこり微笑むと
「なに?ハーブ」
と答えた
さながら今のハーバートは天から一筋の光が差し、その光の中で自分がキラキラと光っているような感じだ
もちろん周りでは鐘が鳴り響いている
ハーバートはその余韻に浸っているので、エリザベスは「?」となってしまった
そんなエリザベスにハーバートは更に一歩近づくと、突然エリザベスの両肩を手でガシッと掴んだ
「ベス!」
「なに?」
ハーバートはじっとエリザベスを見つめた
そして何度か口を閉じたり開いたりして、ようやく言葉を口にした
「ベス、妖精の村で暮らさないか?」
ハーバート様!いきなりプロポーズするなんて!!
クリスは思わず驚きの声をあげそうになり、両手で口を押えた
べ、ベスはどうするのかしら?
レジナルド様がいらっしゃるからハーバート様の想いには答えてあげれないわよね
クリスはどきどきしながらエリザベスがどう返事をするのか見守った
「嫌よ」
エリザベスはあっけらかんとした顔で答えた
あまりにもストレートな返事にハーバートはエリザベスの肩を掴んだまま固まってしまった
「ベ、ベス…
そんなストレートに…」
クリスはエリザベスにそう声を掛けたが、エリザベスはやはり「?」となっている
エリザベスはすっとレジナルドの方へ身体を向けると
「さあ、帰りましょう」
と声を掛けた
レジナルドはエリザベスに声を掛けられ、はっと我に返ると
「あ、ああ
そうだね」
と言いエリザベスの手を取った
「それじゃあハーブ、お元気でね」
エリザベスは笑顔でそう言うと馬車に乗り込んでしまった
ハーバートはエリザベスの肩を掴んだままの体制で固まったままだ
そんなハーバートの横を通り、クリスもヴァレンタインも馬車に向かった
「そ、それじゃあハーバート様
お世話になりました」
「じゃあな、ハーブ」
クリスとヴァレンタインはすれ違いざまにハーバートにそう声を掛け、馬車に乗り込んだ
全員が乗り込むと馬車はがたんと音を立てて動き出した
ハーバートは相変わらず固まったままだが、その横でシドニーが笑顔で手を振って見送ってくれた
馬車の中では窓の外を見ているエリザベスにクリスが声を掛けた
「ベス、何もあんな断り方をしなくても…」
「断る?」
「ハーバート様が仰った事…」
「ああ、妖精の村に住むって事?
嫌よ
妖精の村に住んだらお肉が食べれないじゃない」
「「「…」」」」
え?そこ?それが重要?
いや、重要…かな?
クリスが固まってしまった
クリスの隣ではヴァレンタインがくっくと笑いをかみ殺している
「ハーブの真意は伝わらなかったな」
レジナルドはやれやれといった感じで呟いた
つまりベスはハーバート様の言葉をそのまま受け取ったって事?
プロポーズと気づかずに移住程度にしか考えていなかったの?
クリスはしばらく開いた口が塞がらなかった
ご精読、ありがとうございました。
これにて『妖精編』は終了となります。
次回より『ノース編』を予定しておりますので
もうしばらくお付き合いください。
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