83話 ユニコーン
妖精達の家は土壁で造られ、その土壁に木の蔦が絡み付いている
ハーバートの城は流石に土壁ではなく切った石を積んだ物だが、石を積み上げた外壁には蔦が絡んでいた
どうやら蔦が家の補強をしているようだ
クリスは珍しくてキョロキョロと辺りを見渡した
土壁で造られた家の他に、大きな木の中が空洞なのか、木そのものが家というのもある
窓が丸くて可愛らしい家だ
すると一人、また一人と妖精が近づいて来た
「王さま」
「ハーバート様」
妖精達は緑の髪や青の髪など、様々な色合いをしている
ハーバートは髪が長くて気が付かなかったが、妖精達の耳は尖っていた
「どちらへ行かれていたのですか、王よ
シドニー様が困っておられましたよ」
薄い緑の髪の妖精がハーバートに話し掛けた
近くで見ると瞳も緑色だ
きっとこの妖精は植物に纏わる妖精なのだろう
「さっきシドに会ったから大丈夫だよ
客人を迎えに行ってたんだ」
「客人…」
妖精達はそう呟くとヴァレンタイン達を見た
「ようこそ、外の世界の客人」
「ようこそ」
妖精達は次々と挨拶をしたが、クリスに気が付くと固まってしまった
「お…王よ、こちらの方は…人間では…?」
老人の妖精がハーバートに恐る恐る聞くと、ハーバートはため息を漏らした
「そうだよ」
ハーバートの一言でその場にいた妖精達が固まった
しばらく誰も口を聞かなかったが、突然若い女性の妖精が
「に、人間!?」
と叫ぶと、それを皮切りに他の妖精達も騒ぎ出した
「人間だ!」
「また人間が入って来た!!」
「きゃー!!」
クリスはパニック状態の妖精達に声を掛けようと手を延ばすが、それだけで
「きゃー!!」
「ひいっ!!」
と叫ばれてしまった
ハーバートがすっと手を伸ばすと、パニック状態だった妖精達がピタリと静まった
「この人間はドラゴンの呼び出しを受けたのだ
よって私がドラゴンの元へと案内する」
ハーバートが威厳に満ちた態度でそう言うと、妖精達はまた騒ぎ出した
「ドラゴンが!?」
「ドラゴンが何故、人間なんぞを呼ぶのですか!?」
「なにかの間違いでは!?」
すると再びハーバートは手を伸ばすと、妖精達はまたピタリと静まった
「僕も不本意だが、ドラゴンの要請だ
従わねばならない
大丈夫だよ、ドラゴンに会ったらすぐに出て行ってもらうから」
ハーバートの話しに妖精達は顔を見合わせた
「王がそう仰るならば…」
一人の妖精がそう言うと、他の妖精達もうんうんと頷いた
ハーバートはレジナルドの側に来ると
「今日は僕の城で休んで、明日ドラゴンの元へ向かおう」
「わかったよ」
「じゃあ、城へ行こうか」
ハーバートがそう言うとふわりと風がおき、クリス達は風に包まれた
一瞬、風が強くなり治まると見知らぬ建物の中に居た
「ここは?」
クリスが聞くと
「僕の居城だよ
一度来た事があるだろ?」
とハーバートが教えてくれた
以前訪れた部屋とは違うが、壁には見覚えがある
積み上げた石に木の蔦が絡みついていた
「部屋に案内させるよ
ドラゴンの所へは明日の朝食後、出発しよう」
「そうだね」
レジナルドが返事をすると、若い妖精が近づいて来た
「お部屋へご案内致します」
妖精の女の子はそう言うと「こちらです」と先を歩き始めた
レジナルド達は女の子の後を付いて歩き出した
「クリス、ユニコーンの所に行くか?」
「えっ、いいの?」
ヴァレンタインはニッコリ笑った
「ああ、ユニコーンを見たかったんだろ?」
「うん!」
「馬車は先程の湖の辺りで待たせてある
ユニコーン達は御者が世話をしているから、そろそろ本来の姿に戻っているだろう
行って来るといいよ」
クリスとヴァレンタインの会話を聞いていたレジナルドも勧めてくれた
「よし、クリス
部屋に案内してもらったら行くか」
「うん!」
ヴァレンタインとクリスは楽しそうに微笑みあった
♪♫♬ ♬♫♪
クリスとヴァレンタインは妖精の村を出て、湖まで戻って来た
湖の辺りまで来ると少し離れた所に馬車が停められているが馬の姿がない
「どこに行ったのかしら?」
クリスが心配そうに呟くとヴァレンタインは遠くを指さした
クリスはヴァレンタインが指さした方を見ると、馬車から更に離れた所に馬が群れている
水を飲むためか、馬は湖の中にまで入っていた
クリスとヴァレンタインはそちらの方へと向かった
近づくと馬の額から長い一本の角がハッキリと見えた
「ユニコーンだわ!」
クリスは感動した
6頭のユニコーンは湖の浅瀬まで入り水を飲んでいた
細く長い立派な角
鬣はサラサラで長く、キラキラして見えた
更にユニコーンに近づくと、ユニコーン達もクリスとヴァレンタインに気が付いた
すると6頭は一斉にクリス達に向って走って来た
「素敵…!」
長い鬣をなびかせて走る姿はとても美しい
ユニコーン達はクリスとヴァレンタインの側まで来ると2人の前で止まった
クリスはうっとりとユニコーンを眺めている
「人間だ!」
「人間よ!」
「本物だ!」
え?
クリスはキョトンとしてしまった
ユニコーン達はぎゃあぎゃあ騒いでいる
「凄い!こんな近くで人間を見たのは始めてだ」
「随分、小さいわね」
「可愛らしいよ」
ユニコーンってもっと凛とした孤高の生き物だと思ってた
クリスは想像していたユニコーンと違い、意表を突かれてしまった
「相変わらず野次馬だな」
ヴァレンタインはクスクス笑っている
「失礼ね、ヴァレンタイン!」
「好奇心旺盛と言ってよ」
「人間なんて滅多に見れないんだから」
ユニコーン達はぎゃあぎゃあ文句を言っている
「あ、あの…」
とクリスが口を開いた
するとユニコーン達はキラキラした目でクリスを見つめた
「今日はここまで連れて来てくれてありがとう
疲れたでしょ?」
クリスがユニコーンを労うと、ユニコーン達は前足を上げたり飛び跳ねて喜んだ
「凄い!人間だー」
「人間に感謝されたー!」
クリスはユニコーン達のハイテンションに押されてしまっている
クリスとしてはユニコーンの美しい姿をうっとりと眺めるつもりだったのに、想像と違い落ち着きのないユニコーンに驚いてしまった
「ヴァル、ユニコーンって元気一杯なのね」
「まあな」
ヴァレンタインはクリスが思い描いていたユニコーンと実際のユニコーンがあまりにも違い、驚いているクリスを笑いながら見つめるのだった
ご精読、ありがとうございます
m(_ _)m
次話もよろしくお願いします!
。◕‿◕。




