81話 出発
早朝、クリスは眠い目をこすりながらエントランスへと降りて来た
エントランスには既にヴァレンタインやエリザベス、レジナルドにハーバートもいた
「遅くなり申し訳ございません」
クリスが慌てて謝罪をすると、レジナルドは優しく笑った
「大丈夫だよ、まだ時間前だ
私達は夜が明ける前の時間帯に強いからね」
「ありがとうございます」
ヴァレンタインならば「遅いぞ、クリス!」と言っているところだが、レジナルドは大人というか紳士なのでそんな事は言わない
良い方だわ
クリスはレジナルドの人柄がとても尊敬出来て好感を持っていた
「では出発しようか」
レジナルドがそう言うと、使い魔の執事が玄関のドアを開けた
外にはレジナルドがこの屋敷を訪れた時に乗って来た6頭立ての大型馬車が待機している
レジナルドはエリザベスの手を取ると馬車に向って歩き出した
その後ろをヴァレンタインがクリスの手を取り歩き始めると、クリスが聞いた
「馬車で行くの?」
「ん?ああ、そうだよ」
「でもあんな森の中や湖の上や空なんて…」
妖精の村まで行くにはいくつもの扉を通らねばならない
道のない森の中、湖のど真ん中、挙句の果てには空の上にまで扉がある
この大型の馬車が行けるとは到底考えられない
「大丈夫だ、レジのこの馬車には魔法が使われているし、あの馬はユニコーンだ」
「魔法が?
えっ!ユニコーンなの!?」
ヴァレンタインとクリスの会話を聞いていたレジナルドは笑いながら振り返った
「馬車を引いている時はあの角は危ないから、魔法で普通の馬のように姿を変えているんだ
ユニコーンはとても優しい奴らだ
私が出掛けると言ったらいつも馬車を引いてくれるんだよ」
「そうなんですか」
としか返事が出来ないくらい、クリスは驚いた
人間はユニコーンを神聖な馬と考えている
そんな神聖な馬に馬車を引いてもらうなんて…
だがそれよりもクリスは興味が湧いてしまった
「レジナルド様、ユニコーンを近くで見ても良いですか?」
「構わないよ」
レジナルドの返事にクリスは「わあっ」と喜んだ
ヴァレンタインはそんなクリスを楽しそうに見ている
ヴァレンタインに手を引かれ、クリスほユニコーンの側まで来た
見た目は普通の馬だ
いや、6頭とも皆白く鬣がとても長い
「凄い!なんて美しいのかしら」
クリスは大喜びしている
レジナルドとエリザベスはクリスとヴァレンタインの後ろから、喜んでいるクリスを微笑ましく見ていた
「後で馬車から離した時にまた見るといいよ
その時はユニコーンらしく角もあるから」
レジナルドにそう言われ、クリスは両手を胸の前で握りしめた
「本当ですか!?レジナルド様!
ありがございます」
クリスは興奮が収まらない
そんなクリスをハーバートは冷たい目で見ていた
「ユニコーンに触れるなよ、穢れる」
ハーバートに叱られ、クリスはハッと我に返った
確かにユニコーンは神聖な生き物だ
穢れに触れると消滅してしまうと言われている
「あ、すいません」
クリスはユニコーンに触れないように、数歩後退りした
エリザベスはハーバートを睨みつけると
「ハーバート、失礼な事を言わないで!」
と怒りを露わにした
「クリス、ユニコーンは穢れなんかで死んだりしないわ
触っても大丈夫よ」
エリザベスはそう言ってくれたものの、ハーバートがそれを良く思っていない事もわかるクリスはどうしようかと悩んでしまった
「後でユニコーンの姿に戻ったのを見れたらそれで十分よ、ベス」
クリスはニッコリ微笑むと、エリザベスの隣に立つレジナルドへと視線を移した
「すいません、レジナルド様
早く出発しなければならないのに、お手間を取らせました
出発しましょう」
「そうだね
ではあとでユニコーンの姿をゆっくりと見るといいよ」
「はい」
レジナルドはそのままエリザベスと馬車に向かうと、御者か馬車をドアを開けた
エリザベスはレジナルドの手を借りて馬車に乗り込むと、ヴァレンタインは同じようにクリスに手を貸して馬車に乗せてくれた
大型の馬車はとても広い
向かい合っている座席は赤色のフカフカのクッションで覆われている
座席や馬車の窓の装飾は金が使われ、とても細かい細工がされていて豪華だ
「凄い馬車ね」
エリザベスの隣に座ったクリスが思わず呟いてしまった
クリスの次に馬車に乗り込んだヴァレンタインは、クリスの隣に座りながら
「この馬車は昔、レジが北の地に住む人間の王からもらった物なんだ」
と教えてくれた
「国王陛下からの賜り物なのね
どうりで素晴らしいはずだわ」
クリスは納得しながら、再び馬車の中を見渡した
ヴァレンタインの次にハーバートが乗り込み、エリザベスの向かい側に座ると最後にレジナルドが乗り込みヴァレンタインの前に座った
「では出発しようか」
レジナルドはそう言うと自分の背後の壁をコンコンと叩いた
すると馬車はガタン!と揺れるとゆっくりと進み始めた
エリザベスの結界の中はまだ道があるので、馬車は道を進んでいる
だが一歩、結界の外に出ればそこは深い森の中だ
こんな大きな馬車でどうやって森の中を進むのかしら
クリスは不思議だった
そんなクリスに気付いているのか、レジナルドは馬車のドアの窓を開けた
「もうじき結界から出るね
見てごらん」
レジナルドに言われて、クリスはヴァレンタインの方へ身体を寄せて窓の外を見た
先を行くユニコーンが2頭、また2頭と見えなくなった
結界の外に出たのだ
最後の2頭が姿を消すとクリス達の乗った馬車も結界の外に出た
結界の外は森の中だ
木々が生い茂っているいるのに、馬車は先程と変わらずに進んでいる
ヴァレンタインがクリスの腰を持ち、クリスをもっと窓に近づけた
「見えるか?」
ヴァレンタインに言われ、クリスは馬車の先頭を見た
先頭のユニコーンの前はまるでトンネルのような暗い穴がある
だがその穴は行けども行けどもユニコーンの前にあった
「あれは?」
クリスが聞くと、ヴァレンタインもクリスを支えながら窓の外を見た
「亜空間だ
ユニコーンが進む先が亜空間になって、この馬車を包みこんでいるんだ
だからほら、馬車の後ろは森だろ?」
ヴァレンタインに言われてクリスは馬車の後を見た
確かに森だ
エリザベスが亜空間を創る時は入口や出口を作り空間を繋げる
この馬車は走りながら馬車の周りだけ亜空間にしているようだ
「すごいわ」
クリスは関心した
ご精読、ありがとうございます
m(_ _)m
次話もよろしくお願いします!
。◕‿◕。




