78話 愛称
レジナルドがハーバートの部屋を訪れると、ハーバートはテラスにテーブルと椅子を準備させ既にお茶の準備をして待っていた
「わざわざお茶の準備までしてもらって申し訳ないね」
「いや、気にしないで
僕はお茶を振る舞うのが好きなんだ」
「ではお言葉に甘えさせて頂くよ」
レジナルドはそう言うと、ハーバートの向かい側の椅子に座った
ハーバートは手際よくお茶の準備をするとレジナルドの前に置いた
「君の好きそうなお茶にしてみたよ
どうかな?」
ハーバートの勧めにレジナルドはカップを取ると一口飲んだ
「これは美味しいね
しかも私がすぐ飲めるくらいの温度だ
さすがハーブだ」
レジナルドに褒められ、ハーバートはニッコリ微笑んだ
レジナルドはお茶の入ったカップをソーサーに戻すと「さて」と切り出した
「君もわかっているとは思うけど、ドラゴンに呼ばれているんだ
扉を開いてもらえないかな?」
ハーバートはレジナルドがそう要求してくる事がわかっていたので、さして動揺も反対もしない
「ああ、わかったよ
ドラゴンが自ら君を呼んだんだ
僕が扉を閉ざす理由はないさ」
「ありがとう」
そこまで話しをすると、ハーバートは突然笑い出した
「どうしたんだい?」
レジナルドは不思議そうに聞いた
「ああ、すまない
つい先日、エリザベスとヴァルが力尽くで扉を開いてやって来たからね
君だって力尽くで扉を開ける事が出来るのに、ちゃんと僕に話しを通してくれたから
あの2人は相変わらずだなって考えたら可笑しくなってしまったんだ」
ハーバートは再び笑い出した
レジナルドは呆れた顔をしている
「やれやれ、ベスとヴァルは相変わらずのうようだな」
「シドが嘆いていたよ」
レジナルドもふふっと笑ってしまった
レジナルドは再びお茶のカップを手に取るとゆっくりと飲んだ
「ハーブ、君はなぜベスを愛称で呼ばないんだい?
ベスが許してくれないのか?」
突然エリザベスの話題を振られ、ハーバートは驚いてしまった
「いや…」
「ではなぜ愛称で呼ばないんだ?」
ハーバートはお茶のカップを取ると両手で持ち、カップの中のお茶をゆらゆらと揺らしながら考えた
「僕から先にエリザベスに愛称で呼んで欲しいと頼んだんだ」
「ほう」
「その時にエリザベスも自分を愛称で呼んでもいいと許してくれてね」
「それじゃあ、愛称で呼べばいいじゃないか」
ハーバートは寂しそうな瞳をレジナルドに向けた
「エリザベスは僕を愛称で呼んでくれないんだ」
ハーバートはそう言うと、再びお茶を眺めだした
「エリザベスが僕の事を愛称呼びしてくれないんだ
だから僕も呼べないんだ」
ベスが許してくれたんだから、呼べば良いものを…
何をそんなに気にしているのやら
レジナルドはやれやれと考えた
「ハーブ、お節介かもしれないが私がベスの真意を聞いてみようか?」
「いやっ、それは…!」
ハーバートは葛藤した
何故エリザベスが自分を愛称で呼んでくれないのか理由を知りたい
だがレジナルドとエリザベスが2人で会う事も嫌だ
この2つの思いがぐるぐるとハーバートの頭の中を駆け巡った
「レジ…その…君はエリザベスの事をどう思っているんだい?」
ハーバートの突然の質問にレジナルドは飲んでいたお茶を「ごほっ」と吹き出してしまった
「私がベスを?」
「ああ、そうだよレジ
ハッキリ言うよ
僕はエリザベスの事が好きだ
だから僕は君がエリザベスの事をどう想っているのか知りたいんだ」
ハーバートは普段大人しい妖精だ
だが一旦キレると開き直って強気になる
レジナルドは「うーん」と考えた
実のところ、レジナルドとエリザベスは恋人関係だ
短命な人間と違い魔獣は長寿なので、人間ほど激しい恋愛感情は湧かない
だが時間がある分、ゆっくりとお互いを尊重しあって愛を育んでいた
実際、かなり昔には一緒に暮らそうと考えた事もあった
だがレジナルドは北の地を離れる事は出来ない
なのでエリザベスとヴァレンタインに北の地に来てもらう事も考えた
だが2人は寒がりだ
以前、真冬を体験するためにエリザベスとヴァレンタインをレジナルドの城に招待した事があった
だがあまりの寒さにエリザベスはキレてしまい、ヴァレンタインは城中を暖かくして大騒ぎになってしまった
そしてひと悶着の末、今のようにたまに会うような形になったのだ
さて、困った
正直にベスとの関係を話すべきかな?
レジナルドは溢してしまったお茶で濡れた手をナフキンで拭きながら考えた
ハーバートは心配そうな顔でレジナルドを見ている
「…」
レジナルドは黙って考えていたが、ハッと顔を上げると上空を見上げた
すると遠くの空で黒い点のようなものがどんどん近づいて来る
レジナルドの使い魔の鷹だ
レジナルドは立ち上がると右腕をすっと伸ばした
鷹はすぐにレジナルドの真上まで来るとゆっくりと旋回しながら高度を下げ、レジナルドの腕に留まった
「ご苦労さま」
レジナルドが鷹の頭をなでると、鷹はすりっと甘えた
レジナルドは鷹をじっと見つめると、鷹も鋭い目をレジナルドに向けた
「ふむ」
レジナルドがそう言うと、鷹はぼん!と煙をたてて消えてしまった
「ドラゴンは何て言っていたんだい?」
ハーバートは椅子に座ったまま聞いて来た
レジナルドも椅子に座り直すと、ニッコリとハーバートに向かって微笑んだ
「いつでも来て欲しいそうだよ」
「だろうね
ドラゴンが呼んだんだからね」
「ただね…」
レジナルドは申し訳なさそうに話し始めた
「クリステイーナ嬢も一緒に連れて来いとの事なんだ」
「人間を!?」
ハーバートは驚きのあまり、ガタン!と立ち上がってしまった
「どうして!?」
ハーバートは驚きを通り過ぎて怒りに変わっている
「そうだね…
皆にも話しをしなくてはいけないから、今晩の夕食の後に話しをしようか」
レジナルドは苦笑いをしながらハーバートをなだめるのだった




