73話 早朝
翌日ハーバートは早くに目が覚めたので、庭園を散歩していた
空は白々と明るくなり始めている
空気は澄んていてとても気持ちよかった
ふと草花を見ると濡れている
使用人の使い魔が水を撒いたのかな?と考えながらハーバートは先へと進んだ
すると少し先でクリスが魔法を使って水撒きをしている
杖を持ち、水を撒きたい所に杖を向けるとそこにパラパラと水が撒かれた
クリスは楽しそうに水を撒いている
ハーバートがクリスに近づくと、クリスもハーバートに気が付いた
「あ、ハーバート様
おはようございます」
クリスは水撒きをする手を止めて挨拶をした
「おはよう、早いね」
「はい、水撒きは私の魔法の練習ですから」
クリスは水が撒かれていない草花がいないか、キョロキョロと見渡した
「昨日は素敵な演奏をありがとう」
ハーバートにお礼を言われてクリスほ驚いたが、すぐにニッコリと微笑んだ
「妖精王にお聴かせ出来る演奏ではございませんでしたが、お気に召して頂けて嬉しく存じます」
「随分、ピアノが上手いんだね?」
「ありがとうございます
私の母はピアノの演奏家なんです
ルガード国の国王陛下の御前でも演奏を致します」
「それは素晴らしいね」
ハーバートに褒められてクリスは嬉しくなった
「私はお母さまのようにピアノが弾きたくて、子供の頃からお母さまに手ほどきを受けていたんです」
「なるほど
だからあんなに上手なんだね」
「もったいないお言葉です
でもまだまだです
お母さまのピアノは本当に素敵な音色で…
私もあんな風に弾けたら…といつも思っています」
クリスは本当に嬉しそうだ
「それにヴァルがあんなにヴァイオリンが上手いとは知らなかったよ」
クリスはハーバートにそう言われ、いたずらっぽく笑った
「意外でしたか?
ヴァルとベスは私がここに来る前から二人で演奏していたそうですよ」
「それは初耳だ
それじゃあ、エリザベス達は他の楽器も弾けるのかい?」
「はい
ヴァルはどちらかと言うと弦楽器が得意です
ベスはハープも上手ですが、ベスの奏でるフルートは最高です」
「エリザベスがフルートを?
それはぜひ聴きたいな」
「ハーバート様はしばらくご滞在なさるのですね?
それでしたらまた演奏させて頂きます」
「ああ、ぜひお願いするよ」
「畏まりました」
クリスは楽しそうに返事をした
ハーバートはクリスがとても嬉しそうに笑うので、つられて笑顔になってしまった
その時、ハーバートはふとクリスか握っている杖を見た
クリスの身長より長い杖は何か奇妙な魔力を帯びている
「その杖は変っているね」
ハーバートに言われ、クリスは自分が握っている杖を見上げた
杖の先はまるで鳥の羽のような形をしている
「この杖は一度、形を変えたのです」
「形を変える?
そんな事があるのかい?」
妖精であるハーバートや魔獣のヴァレンタインやエリザベスも魔法を使うが、杖を使うのは人間だけだ
なのでハーバートは杖に詳しくはなかった
「私もよくわからないのですが…
父が言うには魔法のレベルが変わればそのような事が起こるのかも…との事でした」
結局のところ、クリスの杖が変わった理由は誰もわからないのだ
長く生きているエリザベスやヴァレンタインなら知っていそうだが、あいにく杖を持たないのでわからないとの事だった
ハーバートと喋っていると、すっかり日が昇ってしまった
「あ、いけない!
あちら側の水撒きがまだだわ!」
クリスの視線は更に奥の草花を見ている
確かにまだ水撒きされていない
「途中で声を掛けてしまってすまなかったね
あの子たちにも水をあげてくれるかな?」
「はい、ではまた朝食の席で
それでは失礼します」
クリスは軽く会釈をすると水が撒かれていない場所へと小走りに行ってしまった
♪♫♬ ♬♫♪
「今日は天気が良いからボートを出さない?」
朝食の席でエリザベスが提案した
「いいわね!」
クリスが喜んで賛成したが、ヴァレンタインは
「クリスは魔法の修行があるだろ」
とクリスの喜びに水を差した
「え〜ダメなの?」
ふくれっ面になったクリスにヴァレンタインはニヤニヤと笑った
「それじゃあ修行も兼ねて、今日は風を操る魔法の練習をするか」
「えっ!?」
まさか遊びと修行を合わせられると思わなかった
エリザベスも意地悪な笑みをこぼすと
「いいわね、クリスいい練習になるわよ」
とヴァレンタインの案に賛成した
たがクリスは不本意だ
「え〜」
クリスは水を操る魔法は得意たが、炎と風は不得意だ
父のリチャードは炎が、そして兄のエイブラハムは風が得意だった
そしてクリスは水が得意だったので、家族で上手くバランスが取れていたのだ
なのであえて不得意分野には手を出していなかったのに、エリザベスとヴァレンタインのもとで修行するようになったらどの属性も修行させられてしまっていた
「ボートがどこに行っても知らないわよ」
クリスが口をとがらせて文句を言うと、ハーバートが不思議そうに聞いてきた
「そんなに風は苦手なのかい?」
朝の水撒きをきっかけにハーバートは普通にクリスに話し掛けるようになっていた
クリスもハーバートの変化には気づいていたので、話し掛けられるのは嬉しかった
「苦手というか、水以外の魔法はあまり使わなくて…」
「人間は魔力が弱いから、ひとつの魔法を極めるのかな?」
ハーバートほ顎に手を当てながら考えた
「それもあるでしょうけど…
ハーバート、貴方だって炎はほとんど使わないでしよ?」
「そう言われたらそうだね」
妖精は自然と共にある
全てを灰にしてしまう炎は滅多に使わないのだ
「ハーブだって苦手があるじゃないか」
ヴァレンタインは笑いながらコーヒーに手を伸ばした
ヴァレンタインに笑われてハーバートは少しムッとしたが、すぐに笑顔になった
「僕は苦手じゃなくて使わないだけだよ」
「確かに妖精が炎を使うのは見たことないなー」
「だろ?」
「それじゃあ今日はクリスの魔法の修行ついでのボート遊びね
「うっ
嬉しいような悲しいような…」
エリザベスの決定にクリスか愚痴ってしまった
「ふふっ
頑張ってね」
エリザベスの微笑みに、向かいに座っているハーバートは見惚れてしまうのだった
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