72話 夕食会
夕食はオードブル、スープ、ポワソンと進んだ
ソルベのシャーベットを食べているとハーバートが話しだした
「ヴァレンタイン、すまないけど次のアントレは僕は遠慮させてもらうよ」
ハーバートの申し出をヴァレンタインは予測していたようだ
にっこり微笑むと
「ハーブ、大丈夫だ
君が肉料理を食べない事はわかっているから
俺達は肉料理を頂くが、君にはもう一度魚料理を準備しているよ」
「それは助かるよ」
ハーバートは安心したようだ
妖精はお肉を食べないのかしら?
クリスはそんな疑問を抱きながら、黙ってシャーベットを食べ終えた
「私達はお肉が大好きよ
昔はそのまま食べていたけど、人間の調理方法を知ってから変わったわ
人間が調理するお肉がとても美味しくて、今ではこちらの方が好きだわ」
ベスったら、さらっと昔は野性的だった事を告白したわね
クリスは心の中でつっこんでいた
「クリスも肉料理は好きだよな?
特にやわらかい肉が好きだよな」
「え、うん
大好きよ」
突然ヴァレンタインに話題を振られて、クリスは驚いてしまった
ちらりとハーバートを見ると、まるで聞こえなかったかのように涼しい顔をしている
どうやらクリスにちょっかいを掛けると人間を嫌っている態度が出てしまいエリザベスの機嫌を損ねるので、無視する事にしたようだ
クリスもその方が気楽だったので、気にしない事にした
アントレが運ばれると、クリスはぱあっと明るくなった
そんなクリスをヴァレンタインは楽しそうに見ている
「今日は子牛のソテーだ」
「美味しそうね」
エリザベスも嬉しそうだ
ハーバートには魚を肉に見立てたソテーが出された
「すこいね、魚料理には見えないよ」
「ふふっ、私の使い魔は凄いでしょ」
エリザベスが上機嫌に自慢した
「味もさっきのポワソンとは違い濃いめだね
赤ワインにとても合うよ」
「良かったわ」
エリザベスも自分のお皿のお肉を小さく切って口へと運んでいる
「ベス、このお肉とっても美味しいわ
また作って」
クリスにも言われ、エリザベスは嬉しそうに微笑んだ
「ええ、いいわよクリス
使い魔にはもっと料理を勉強させて、もっともっと美味しい物を出せるようにするわよ」
「わあ!楽しみだわ」
「ベス、もっと量も増やしてもいいぞ」
「もう、ヴァルは大食いなんだから」
料理を褒められたエリザベスはとても嬉しそうだ
夕食は和やかに進み、最後のデセール、カフェ・ブティフールへと続いた
クリスはいちごのショートケーキを美味しそうに食べている
ヴァレンタインはコーヒーを飲みながら
「ハーブ、サロンへ行って少し飲むか?」
と聞いた
「そうだね
まだ時間も早いしサロンで話しをしようよ」
「よし、じゃあ行くぞ」
「ちょっと待ちなさい、ヴァル」
今にも立ち上がりそうなヴァレンタインをエリザベスが止めた
「夕食も終わったから、軽装に着替えるわ
貴方達も楽な服に着替えたら?」
エリザベスにそう言われ、ヴァレンタインは自分の礼服を見た
「そうだな、楽な服の方がいいな
ハーブ、使い魔に着替えを手伝わせてからサロンに案内させるよ」
「わかったよ、じゃあ後で」
ハーバートはそう言うと席を立った
「クリス、私達も着替えましょう」
「うん」
エリザベスに誘われ、クリスも席を立った
「ヴァル、私達は時間がかかるから、その間ハーバートの相手をよろしくね」
「おう、任せておけ」
ヴァレンタインもそう言うと席を立ち、着替えるために部屋へと向かった
♪♫♬ ♬♫♪
楽なドレスに着替えたエリザベスとクリスが一緒にサロンに来ると、ヴァレンタインとハーバートは既にシャンパンを飲んでいた
「遅くなったわね、ごめんなさい」
「そんな事ないよ、エリザベス
ヴァルと先にシャンパンを頂いたよ」
「私達にも一杯頂けるかしら?」
エリザベスがそう言うと、使用人の使い魔がシャンパンの入ったグラスを持って来て、エリザベスとクリスに渡した
「クリス、何か弾いてちょうだい」
「うん、いいわよ」
エリザベスに頼まれてクリスはテーブルにシャンパンを置くと、部屋の奥にあるピアノへと向かった
エリザベスはハーバートを見ると
「クリスはね、幼い頃からピアノが好きだったそうよ
とても上手だからたまに弾いてもらってるのよ」
と話した
「そうなんだ」
ハーバートはあまり興味はないようだ
するとヴァレンタインもクリスの後を追った
「俺も弾くよ」
ヴァレンタインの一言にハーバートは驚いた
「え!?ヴァルもピアノが弾けるのかい?」
「ピアノも弾けるけど、クリスほど上手くない
俺はヴァイオリンだ」
「ヴァイオリン!?」
ピアノも驚いたが、ヴァレンタインがヴァイオリンを弾けるとは思ってもいなかったハーバートは半信半疑だ
クリスがピアノの準備をしている間に、ヴァレンタインはピアノの横にあるガラスの棚かヴァイオリンを取り出した
クリスとヒソヒソと何か打ち合わせをすると、ヴァレンタインはピアノの横に立ち、ヴァイオリンを構えた
クリスとヴァレンタインはアイコンタクトを取り、曲を奏で始めた
エリザベスはシャンパンを片手に目を閉じて曲を聴いている
ハーバートもクリスとヴァレンタインの腕前に驚きながら2人の演奏を聴いた
とても息のあった演奏だ
エリザベスが頼むだけあって、2人の演奏はとても心地よかった
曲が終わるとハーバートは自然と拍手をした
「凄い!
2人ともとても上手いよ!」
「そうでしょ」
エリザベスも鼻高々だ
「まさかヴァルがこんなに上手くヴァイオリンを弾けるとは思わなかったよ」
「それ、褒めているのか?」
ヴァレンタインはハーバートの褒め方が少々不本意のようだ
「エリザベスは何か弾けないのかい?」
興奮冷めやらぬハーバートがエリザベスに向って聞いた
突然そんな事を聞かれたエリザベスは驚いたが
「いいわ、次の曲は私も参加するわ」
「えっ!弾いてくれるのかい!?」
「任せて」
エリザベスはそう言うと席を立ちクリスとヴァレンタインのもとまで行くと、今度は3人でヒソヒソと打ち合わせを始めた
すると部屋の奥のドアが開き使い魔がハープを運んで来た
「凄い!
エリザベスはハープが弾けるのかい!?」
ハーバートは更に興奮している
エリザベスはそんなハーバートを見て、ふふんと笑った
エリザベスの準備が出来ると3人は打ち合わせした曲を奏で始めた
エリザベスのハープの音色もとても美しい
ハーバートは3人の演奏をうっとりと聴くのだった




