69話 侵入
クリス達は妖精の村を後にして、屋敷へと帰って来た
使い魔にお茶とお菓子を準備させると、ようやく一息つけた
「ベス、ハーバートにケンカを売りに行っただけになったじゃないか」
ヴァレンタインはお茶を飲んでいるエリザベスに文句を言った
「あら、そんなつもりはなかったのよ?
最初はちゃんとクリスに祝福を与えるよう頼むつもりだったわ
でもシドやハーブのクリスに対する態度を見てたら我慢出来なくなっちゃって」
「これで妖精から祝福を授かるって手はもうダメだな」
ヴァレンタインは残念そうだ
たがエリザベスはしれっとした態度だ
「まあ、何か別の方法を考えればいいわよ」
「妖精の祝福を受ける方法をダメにした罪悪感はないんだな」
「あんな態度のハーブに頼み事をするなんて、腹が立つじゃない」
「確かにそうだけどなー」
クリスとしては祝福云々より、エリザベスの手厳しい攻撃を受けたハーバートの方が気の毒に思えてしまう
きっと今頃、落ち込んでるだろうと考えると可哀想になってきた
「それで次の手はあるのか?」
ヴァレンタインの問いにエリザベスは持っていたお茶のカップを置いた
「ヴァルの言う通り、レジナルドに連絡を取ろうと思うの」
「そうだなー
レジナルドは俺達の使う魔法とは違う魔法を使うからな
聞いてみてもいいよな」
クリスはケーキを食べていた手を止めた
「そのレジナルドっていう白豹の魔獣は北の地に住んでいるんでしょ?」
「そうよ」
「北の地だとすごく遠いわよね?
どうやって行くの?」
「行かないわよ」
「え?」
エリザベスはさも当たり前のように言うと、優雅にお茶を飲んだ
「でもレジナルドっていう白豹の魔獣に会うって…?」
「こっちに来てもらうわ」
「え゛」
クリスの方からお願いをするのに、こっちに呼び寄せるのはちょっと…とクリスは考えてしまった
「私の頼み事だから、私が出向いた方がいいよ」
「クリス、ベスは寒い所が嫌いなんだ」
ヴァレンタインが苦笑いしながら教えてくれた
「あら、そういうヴァルだって寒い所は嫌いでしょ」
「まあ、好きではないな」
そっか
エリザベスとヴァレンタインは寒いのが苦手なのね
ルガード国もベイル国も温暖な地で、冬季も割と過ごしやすい
ルガード国の冬季は少々寒いが、ここベイル国の冬季は軽くショールでも羽織っていれば過ごせるくらいだ
エリザベス達の屋敷がベイル国にあるのも、寒さ対策なのかもしれない
エリザベスはお茶を飲み終えると、右腕をすっと伸ばすと真っ白な鳥の使い無が現れエリザベスの腕に留まった
昔の姿をした孔雀だ
現在の孔雀のように派手ではないので、シンプルな分美しさも際立っている
ここから北の地に住まう白豹・レジナルドの所まで何日かかるだろう
だがそこへたどり着けるくらい十分な魔力を込めた使い魔だ
エリザベスの魔力の凄さが現れていて、クリスは美しい外見と膨大な魔力の使い魔を羨望の眼差しで見つめるのだった
使い魔はバサリと飛び立つと壁をすり抜け、外へと飛び立って行った
♪♫♬ ♬♫♪
翌日、クリスは屋敷の奥の庭園を散歩していた
昼食事のまったりとした時間はエリザベスもヴァレンタインも昼寝をしている事が多い
クリスも一緒に昼寝をする時もあるが、今日は少し散歩をする事にした
池の側まで来ると、昨日行った妖精の村の事を思い出してしまった
妖精の村への入口は森の湖の側が始まりだった
妖精は何重も扉を用意して、さらにその扉は人間には見えない上に近づけないような場所に作られている
よっぽど人間が嫌いなのね
妖精とは王であるハーバートと側近のシドニーとしか会っていないが、あの2人の態度もクリスには冷たかった
この先、何があっても妖精は人間に祝福を授ける事はないだろう
だがクリスはヴァレンタインと共に生きるために何としてでも寿命を延ばさなくてはならない
今度会うレジナルドが何か知っていればいいが…
でも妖精から祝福を受ける事が出来れば一番良かっただろうなぁ
なんて考えていると、ハーバートが目に入った
ん?
クリスは目の錯覚かと思ったが、本当に目の前にハーバートがいる
「ハーバート様!?」
ハーバートはクリスに気付いていたようで、バツが悪そうな感じだ
クリスはハーバートへと駆け寄った
「どうされたのですか、ハーバート様?
まさか人間のいる空間に来られるなんて!?」
クリスの問いにハーバートもじもじしながら、ぼそっと聞いた
「エリザベスはまだ怒っていたかい?」
まさかハーバートがエリザベスの機嫌を損ねた事を気にして、わざわざやって来たとは思わなかったクリスは驚いてしまった
だがエリザベスの機嫌…と考えて、はっと気がついた
「ハーバート様!
どうやってここに入ったのですか!?」
この屋敷はエリザベスが作った結界の中にあり、エリザベスの許しがないと結界の中へは入れない
だがハーバートは結界の中にいるのだ
驚いて聞いてきたクリスにハーバートは当たり前のように答えた
「ん?
君たちが僕たちのいる空間に入ったのと同じようにして入ったんだよ」
…つまり力ずくで入って来たって事よね
クリスはさーっと血の気が引いた
「そ、そんな事したらベスが怒りますよ」
「え、怒るかな?」
「怒ります」
まあ自分達も力ずくで妖精が作った扉を開けて入ったのだ
同じように力ずくで結界の中に入って来たってハーバートに文句は言えない
普通ならば…
「ベスはプライドが高いんですよ
自分が作った結界を破って侵入なんかされたら怒ります」
「まずいかな?」
「まずいと思います」
ハーバートはクリスと同じようにさーっと青ざめてしまった
ようやく自分が更にエリザベスの機嫌を損ねるような事を仕出かしたと気付いたようだ
「ベスに気づかれる前に、早くここから出た方がいいですよ」
クリスはそう言いながらハーバートの背中をグイグイ押した
「そ、そうだね」
ハーバートも納得したが、時既に遅し
「結界に侵入されて、私が気が付かないとでも思った?」
クリスとハーバートの背後からした声に、2人は石のように固まってしまった
ご精読、ありがとうございます
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