61話 休息
ヴァレンタインの足元には水色の髪の男の成れの果てが転がっていた
男の身体の中でジュリアの種の根がびっしりと張りめぐされていたのだろう
ジュリアが消え魔法の威力がなくなったのか、男の姿は人の姿ではなく木の根で人の形に形どられていた
恐らく体の中に根を張られて随分経っていたのだろう
人の皮や肉などは何も残っていない
ただ根が人の形をしているだけだ
「外見は魔法で人間にみせていたんだな」
少し離れた所には男の下半身、これも木の根で出来ている
そしてその側にはジュリアの左腕が落ちていた
ヴァレンタインはジュリアの左腕の側まで行くとクリスを呼んだ
「クリス!
これを浄化してくれ」
「あ、うん」
呼ばれたクリスはヴァレンタインへと駆け寄った
クリスの後ろからはエリザベスも一緒に付いて来ている
「クリス、念のため太古の魔法で浄化して」
「わかったわ」
クリスはエリザベスに言われたとおり太古の魔法を杖に集めると、ジュリアの腕に突き刺した
するとジュリアの腕はじゅっと音を立て、消えてしまった
ヴァレンタインはやれやれと汚れた服をパンパンと叩いた
「あのグロい奴らはどうする?」
ヴァレンタインは人の上半身の形をしている根や、両腕が枝のようになっている男達を指さした
後から出した3人はまだ人の皮や肉が残っている
比較的、最近種を飲ませて作ったのだろう
「あれも全部、浄化しておきましょ」
「全部、太古の魔法で?」
クリスがエリザベスに聞くと
「そうね、詰めを甘くして復活でもされたら面倒だわ
太古の魔法で完璧に終わらせましょう」
クリスはこくんと頷くと
「わかったわ」
と言い、まず近くにある人の下半身の形をした木の根から杖を突き刺し、浄化を始めた
クリスが次の男の方へ移動すると、ヴァレンタインも一緒に付いて行く
「坊やはお嬢ちゃんが心配なんだね」
トレイシーはエリザベスの肩にばさりと留まると楽しそうに言った
「もうジュリアはいないから種の方も動く事はないでしょうけど…
心配性ね」
エリザベスはあきれ顔で笑った
♪♫♬ ♬♫♪
翌日、宮殿は大騒ぎだった
ジュリアが姿を消したのだ
ベルナルドはジュリアがメイスン伯爵家に戻ったのだと考え、すぐに使いを出した
だがメイスン伯爵はジュリアは戻っていないと言う
ベルナルドは宮殿や城下をくまなく探すように命じたが、2日経ってもジュリアは見つからなかった
「ベルナルド皇太子がお気の毒になるわ」
クリスがため息混じりに呟いた
妹のヒラヌルは北の塔へ幽閉され、愛妾・ジュリアは姿を消したのだ
だがベルナルドは皇太子という立場上、うちひしがれる事すら許されない
ヒラヌルに刺された傷のため未だ国政に復帰できない国王に代わり、ベルナルトは国王代理という重責を務めなくてはいけないのだ
クリスとヴァレンタインとエリザベスはオルドリッジ家の庭園でお茶を飲んでいた
「あれは怨念なのよ、って教えてあげれば?」
エリザベスはお茶の入ったカップを持ち上げながら涼しい顔で話した
「だ、だめよ!ベルナルド皇太子が卒倒しちゃう!」
クリスはエリザベスの意見に驚き、両手をブンブン振って却下した
愛する女性が姿を消したのは辛いだろう
だが、ジュリアの正体を知る方が気の毒だ
リチャードはベルナルトを気遣い、ジュリアの行方については何も知らせない事にすると決めたのだ
「妹は父親を刺して幽閉され、恋人は突然姿を消す…
今回はそのベルナルトとかいう皇太子が一番の被害者かもな」
めずらしくヴァレンタインが同情している
「珍しいわね、ヴァルが人を憐れむなんて」
エリザベスもそう思ったようだ
「あ?別に憐れんでなんていないよ
すげー運のわるい奴だなぁって関心しただけだ」
やっぱり…
ヴァレンタインが人に同情するなんて想像できない
だがこっちの方がヴァレンタインらしくて、クリスは笑ってしまった
そんなクリスをヴァレンタインはジト目で睨んだ
「…何だよ」
「ふふっ、ヴァルらしいなって思っただけ」
「生意気な事言うと、喰っちまうぞ」
「やだよー」
すると庭園の池の方から二羽のカラスの魔獣が飛んできた
ルーベンとトレイシーだ
二羽は水浴びをしていたのだ
さっぱりするとトレイシーはヴァレンタインの肩に、ルーベンはエリザベスの肩に留まった
「ああ、さっぱりしたよ」
「トレイシー、今回は助かったわ
ありがとう」
エリザベスは向かい側に座っているヴァレンタインの肩に居るトレイシーにお礼を言った
「なに、いいってことさ
長く生きているあんた達より物知りだって事がよくわかっただろ?」
「ようするに野次馬根性が旺盛なんだよ」
「何だって!」
トレイシーは洗いたての翼でヴァレンタインの頭をバサッと叩くと、水しぶきが舞いヴァレンタインは顔が水浸しになってしまった
「…おい、わざとだろ」
「事故だよ」
「いや、わざとだ!」
ヴァレンタインとトレイシーはぎゃあぎゃあ言い合いを始めた
「トレイシー、私たち明日屋敷に帰るんだけど一緒に行く?」
相変わらずヴァレンタインとトレイシーのやり取りを一切気にせず、エリザベスは聞いた
トレイシーはヴァレンタイとの小競り合いを止めると
「そうだね、お前さんに乗せてもらおうかね」
と器用に翼を嘴に当てながら答えた
クリスは12歳の時にあの屋敷に連れて行かれたが、今ではあっちの方が過ごしやすい
デビュタントの為にオルドリッジ家に戻って来ただけだったのに、思いのほか長居してしまった
まさか首都で怨念退治をする事になるとは思いもよらなかった
そしてヴァレンタインとエリザベス…
この2人があまりにも美しいので、人の多い所では目立ってしまうのが嫌という程わかった
我が道を行くエリザベスとヴァレンタインだが、今回のように王族に気に入られては厄介だ
早々に屋敷に帰ろう
明日はようやく私達の屋敷に帰れるのね
クリスはそう考えると嬉しくなってしまうのだった
これにて「怨念編」はおしまいになります。
次回より「妖精編」になります。
気に入って頂けたら、評価やブックマークをしていただけると、すごくうれしいです。◕‿ ◕。
いいね(≧∇≦)bや☆も頂けると嬉しいです!
よろしくおねがいします!




