58話 決意
ベルナルド皇太子と王妃はヒラヌルの部屋の前にいた
国王の命令でヒラヌルを北の塔に幽閉する準備をしていたのだが、その準備が出来た為いよいよ北の塔へ移す事になったのだ
北の塔に幽閉すれば、もう二度と会う事は出来ないだろう
国王はヒラヌルを生涯幽閉し、恩赦を与える事も禁止したのだ
これが最後の別れになると考えた皇太子と王妃は最後に会いに来たのだった
騎士がヒラヌルの部屋のドアのノブに巻かれていた鎖を解きドアを開け、まず騎士が二名部屋に入り、その後を騎士団長が入った
ベルナルトと王妃は部屋には入らず、廊下で様子を伺う事にした
「ヒラヌル・ヘイ・ルガード
国王陛下への襲撃の罪により、北の塔へ幽閉となった」
「何ですって!?」
騎士団長の言葉にヒラヌルは憤慨した
「国王陛下を刺したのは私の侍女だとお話ししたではないですか!?」
だが騎士団長は何も言わずに部下に手で合図を送ると、部下はヒラヌルの両脇に立った
「それでは行くぞ」
「嫌です!!」
騎士団長は困ってしまった
「なるべく乱暴にしたくないのです
どうか一緒に来て下さい」
「なぜ王女である私がそのような目に合わねばならないのですか!!
お兄さまを呼びなさい!」
廊下にいるベルナルドには、騎士団長とヒラヌルのやり取りは全て聞こえていた
ベルナルドは「ふう」と一息吐くと、部屋に向かって歩き出した
「お兄さま!」
ヒラヌルはベルナルトが現れたので駆け寄ろうとしたが、騎士達に腕を掴まれてしまった
「何をするのですか!?無礼者!!」
ヒラヌルは捕まれた腕を振りほどこう暴れるが、騎士はびくともしない
ベルナルドは部屋の入口付近で立ち止まると、ヒラヌルに語り出した
「ヒラヌル、お前は国王陛下を襲撃したのだ
当然の罰だよ」
「国王陛下を襲撃したのは侍女だと申し上げたではありませんか!
私ではありません!!」
「ヒラヌル…」
ベルナルドは最後くらい自分の罪を認めて欲しかったが無理なのか、と残念に思ってしまった
「国王陛下の意識が戻られた
国王陛下ご自身がお前に刺されたと言っておられる」
「えっ…」
まさか意識が戻るなんて…
ヒラヌルの頭の中は真っ白になってしまった
どう言い逃れしようと考えても、国王が意識を取り戻してしまっては言い逃れ出来ない
黙ってしまったヒラヌルの姿にベルナルドはため息混じりで騎士に命じた
「連れていけ」
「はい」
騎士は呆然とするヒラヌルの両腕を掴んで歩き出した
ヒラヌルは考え込んでいるのか、引っ張られるまま歩いている
部屋から出ると、そこには王妃の姿があった
ヒラヌルは王妃の姿を見ると、はっと我に返った
「母上様!」
「ヒラヌル」
王妃は泣いている
「母上様!母上様ならわかってくれるでしょう!?
私とヴァレンタイン様を引き離そうとする父上様が悪いのです!
私は父上様の間違いを正しただけです!!」
ヒラヌルの言葉にベルナルドも王妃もショックを受けた
国王の言う通り、ヒラヌルは国王を刺した事を正当化している
「何を言っても無駄なのだ」
この国王の言葉が重みを増してしまった
ベルナルドは王妃の側へ行くと、王妃の肩を抱いた
そして
「連れて行け」
と命ずると、騎士はヒラヌルをずるずると引きずるように連れて行った
「母上様!お兄さま!!」
ヒラヌルの叫び声は、姿が見えなくなっても聞こえていた
♪♫♬ ♬♫♪
クリスは父のリチャードからヒラヌルの処遇を聞いた
ヒラヌルの内親王の地位は剥奪され、その日のうちに北の塔へと幽閉されたそうだ
「これで安心だね」
「そうですね」
ヴァレンタインに執着し、多大な迷惑を蒙ったが、何とか解決した
「それで、どうするんだい?
エリザベス達の屋敷に帰るのかい?」
「はい、国王陛下襲撃が解決したならそうしようかと考えています」
「エリザベスはベルナルド皇太子殿下の愛妾・ジュリアの事を何か言っていたかい?」
「ベスは帰る前に片をつけると言ってました」
「そうかい
それじゃあ、全て片付いたら帰るといいよ」
「はい」
エリザベスは全て片付けて屋敷に帰るつもりだ
クリスは太古の魔法での浄化も出来るようになってきた
近々、決着をつけるのだろう
「お父さま」
「うん?」
ジュリアとの決着とは別にクリスにはもうひとつ問題があった
「私とヴァルの結婚ですが」
「どうしたんだい?」
「私達の寿命の違いです」
「ああ」
「私、ヴァルと共に生きたいと思います
妖精を探して祝福を受ければ寿命が延びるそうです」
リチャードは驚いた
「妖精がいるのかい?」
これはクリスもヴァレンタインから聞いた時に同じ反応をした
妖精は大昔に絶滅したと言われていたからだ
「はい、ヴァルの話しだとまだいるそうです」
「それは驚いた!」
「ただ妖精は人間嫌いなので祝福を与えてくれるかわかりませんが、私はやってみようと思っています」
「そうか」
リチャードはクリスをじっと見つめた
「僕達は先に死んでしまう
それは親なのだから当然だが、エイブや他の友人達もクリスを残して逝ってしまうよ
それでもいいのかい?」
きっと知っている人間が皆、死んでゆくのを見送るのはとても辛い事なのだろう
ヴァレンタインも心配していた
だがクリスはもう決めていた
「ヴァルを残して逝けません
ただでさえヴァルやベスは辛い別れをして来たんだから、私は2人と一緒にいます」
「そうか、決意は固いようだね」
「はい」
リチャードはニッコリ笑うとクリスの手を握った
「うん、頑張るといいよ
妖精が祝福を与えてくれるといいね」
「はい!」
リチャードが賛成してくれて、クリスは嬉しくなった
反対されても気持ちは決まっていたので変える事はないが、やはりリチャードが賛成してくれた方が心残りがない
妖精探しに出かける前にジュリアとの決着を付けよう
全てを片付けて、このルガード国を後にするのだ
クリスは近づく魔獣退治ならぬ怨念退治に意欲を燃やすのだった
ご精読、ありがとうございます
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