57話 処分
国王が意識を取り戻してから3日が過ぎた
一般の貴族達にはまだその事は伝えられておらず、皆やきもきしていた
このまま国王が崩御されればベルナルド皇太子が新国王となる
貴族達にはいろいろな派閥があり、それぞれ自分達が有利になるにはどうすれば良いか模索していた
宰相とベルナルドはこの機会にベルナルドの敵と味方を判別しようと、国王の容態をあえて公表しなかったのだ
そして少しずつ、ベルナルドにとって味方の貴族がわかって来た
「国王陛下の従弟にあたる大公を担ぎ上げる派閥も見受けられます」
宰相がベルナルドに報告した
「さすがにヒラヌルを担ぎ上げるのは諦めたか」
「はい」
宰相は少し悲しそうな顔をした
ヒラヌルを利用しない事は良いが、それはヒラヌルを国王殺害の犯人として認識している為だ
緘口令は敷いてあるとはいえ、やはり噂は流れているのだろう
「あと2日程、このまま様子を見ようか」
ベルナルドがそう言うと、宰相は考えを中断した
「そうですね、まだ様子見の貴族もいますからね」
「オルドリッジ侯爵はどうかな?」
「オルドリッジ家は常に王族と一定の距離を保っています
クリスティーナ嬢の件もこちらが早々に謝罪したので、落ち着いてくれました」
「そうか、良かった」
ベルナルドは安心すると、席を立った
「そろそろ国王陛下にお会いする時間だね」
「そうですね、参りましょう」
ベルナルドと宰相はそう言うと、執務室を後にした
♪♫♬ ♬♫♪
国王の寝室に入ると、ベットの脇には王妃が椅子に座っていた
王妃はベルナルトが部屋に来た事に気が付くと
「国王陛下、ベルナルトが参りましたよ」
と声を掛けた
ベルナルトは王妃の隣まで行くと、ベットで横になっている国王に声を掛けた
「国王陛下、お加減はいかがですか?」
「ああ、ベルナルト
随分、楽になってきたよ」
「それはようございました」
王妃は椅子に座ったまま、ベルナルトを見上げた
「魔法で傷は治っているそうなので、後はその傷が再び開かないように安静していれば良いそうですよ」
「そうですか」
ベルナルトは驚いた
「さすが魔法ですね」
「本当に助かりました
ですがオルドリッジ侯爵が仰るには、あれだけの治癒魔法を施したのでご子息のエイブラハムはしばらく休息が必要らしいです
エイブラハムには本当に感謝しています」
王妃とベルナルドの会話を聞いていた国王は横になったまま、右手を王妃の方へ動かした
それに気付いた王妃は国王の手をそっと握った
「オルドリッジ侯爵とエイブラハムに褒美を与えねばな」
「左様でございますね」
「娘のクリスティーナにも迷惑を掛けた
なにか詫びの品を贈らねば…」
国王のその言葉に王妃とベルナルドは黙ってしまった
真相を聞きたくないのであえて先延ばしにしていたが、もう確認しなくてはならない
国王の口から誰に刺されたのかを聞かなくてはならなかった
「…国王陛下、陛下を刺した者は…」
ベルナルトの問いに王妃の顔が曇った
国王は悲しそうな表情を浮かべたが、それでもハッキリと言った
「ヒラヌルだ」
ベルナルトも、王妃も、覚悟はしていたとはいえ、やはり真相を国王の口から聞いてショックを隠せなかった
王妃は侍女からハンカチを受け取ると、そっと涙を拭いた
「ベルナルトよ」
「はい、国王陛下」
「ヒラヌルは生涯、宮殿の奥にある北の塔へ幽閉しろ」
「…はい」
「そして決して恩赦を与えるな」
「…陛下」
思わず王妃は呟いてしまった
「王妃もだ
決してヒラヌルを哀れと思い、手を差し伸べるな
あれと話しをしてわかったが、あれは己の考えこそが真実で、その考え以外の事はすべて偽りなのだ
何を言っても無駄なのだ
おそらく私を刺した事も、あれの中では正当な事なのだ」
「そんな事…」
王妃はいくら何でもそんな事はないだろうと思った
だが国王は厳しかった
「ベルナルト
いずれ私が崩御し、お前の治世になっても決してあれを許してはならんぞ
お前の、そしてルガード国の為だ」
「わかりました」
国王は途中から『ヒラヌル』と名では呼ばなくなった
ベルナルトはそこから国王の決意を汲み取った
もはや娘でも、王女でもなく、ただの犯罪人なのだ
「それではヒラヌルを北の塔へ幽閉する準備をします」
ベルナルトの言葉に王妃は「わっ」と泣き出した
国王はそんな王妃の太ももを慰めるようにぽんぽんと叩いている
ベルナルトの横で話しを聞いていた宰相は最後の確認をしなければならなかった
「国王陛下、陛下が賊に襲われ負傷した事はもはや周知の事実です
ヒラヌル内親王が犯人である事を公表なさいますか?」
宰相の問いにベルナルドと国王は宰相を見た
しばらくの間を置いて、国王は頷いた
「ヒラヌルの内親王としての地位を剥奪し、即刻処分せよ」
「畏まりました」
地位の剥奪は事を公けにする事を意味していた
♪♫♬ ♬♫♪
ベルナルトは一旦、自分の仮の執務室へ戻ると宰相に命令した
「北の塔の準備をしろ
準備が出来次第、ヒラヌルを移す」
「はい」
宰相はそう返事をすると、執務室から退出した
宰相の背を見送るとベルナルドは「ふー」とため息をついた
愚かな妹だが、生まれた時からずっと見ているので情がない訳はない
恐らく国王もそうなのだろう
処刑ではなく幽閉を命じたのは、せめてもの親心だったのだろう
北の塔の準備が出来れば、塔に移す前にもう一度だけ会いに行こう
きっと生きて会うのはこれが最後になる
ベルナルトは幼い頃のヒラヌルを思い出していた
国王は王妃に気を使い、妾を持たなかった
なので国王の血筋は自分とヒラヌルだけだった
自分は次期国王という事もあり幼い頃からいろいろな教育がされたが、ヒラヌルは唯一の王女という事もあり、周囲の人間にとても甘やかされて育った
今思えば、ヒラヌルの言う事は全て聞き入れていたように思う
きっと今回も同じように聞き入れらると思っていたのだろう
幼い頃にちゃんと許されない事もあるのだと、教えておくべきだったのだ
ベルナルトは悔やんでも悔やみきれなかった
ご精読、ありがとうございます
m(_ _)m
次話もよろしくお願いします!
。◕‿ ◕。




