53話 冤罪
ベルナルド皇太子は見張りの騎士にドアを開けるよう命じた
騎士がドアを開くとベルナルド皇太子と宰相を案内した騎士がまず部屋に入り、続いて宰相が、そしてベルナルド、リチャードと続いた
部屋に入ると窓際の椅子にクリスが座っている
そしてなぜかヴァレンタインもいた
「「…」」
宰相とベルナルドは何故ここにヴァレンタインがいるのかわからなかった
宰相は案内してきた騎士に
「何故、レイメント伯爵がいるのだ?」
と聞くと、騎士は困ったような表情になった
「それが…レイメント伯爵はクリスティーナ嬢を連行するなら、ご自分も一緒に連行しろと仰って」
「当たり前だ
何もしていないクリスを連れて行くと言うんだ」
ヴァレンタインもリチャード同様、ひどく怒っている
「それに他の令嬢方も、ずっとトレース伯爵家で一緒だったクリスティーナ嬢を疑う我々をお責めになられ…
間違っているのは我々なのだから、引き返すかレイメント伯爵の同行を許すかしなさいと詰め寄られてしまいまして…」
若い令嬢が何人もでキーキー騎士に詰め寄ったのだ
騎士も困ってしまって、仕方なくヴァレンタインの同行を許可したようだ
「あ、お父さま」
クリスは椅子から立ち上がり、リチャードの方へとやって来た
「クリス、大変な目にあったね」
「全くです」
クリスも怒っている
クリスと一緒にリチャードの側に来たヴァレンタインは不機嫌を露わにした
「リチャード、いいかげん頭にきたぞ
あのヒラヌルって王女は頭がおかしいのか?
俺はクリスを連れて帰る」
「うん、そうだね
僕もその方がいいと思うよ」
ヴァレンタインとリチャードの会話を聞いたベルナルドは驚いた
「ちょ、ちょっと待ってくれ!」
ヴァレンタインとリチャードはギロリとベルナルドを睨んだ
「「なにか!?」」
あまりの迫力にベルナルドは一歩下がってしまった
「そ、その…クリスティーナ嬢には容疑が…」
ベルナルドの言葉にヴァレンタインの怒りが爆発した
「お前っ!!いい加減にしろよ!
俺達がどれだけあの狂った王女に迷惑していると思ってるんだ!?
さらにクリスを犯罪者に仕立てやがって!
貴様らがあの女を庇おうが俺の知った事じゃない!!
俺はクリスを連れてルガード国から出て行く!」
「い、いや…」
ベルナルドと宰相は何とかヴァレンタインを落ち着かせようとするが、恐怖で足がすくんでしまい言葉も出て来ない
魔獣であるヴァレンタインが本気で怒っているので、その気配に押されてしまっているのだ
この様子を見たリチャードは、このままではベルナルドも宰相も迫力負けして何も答えられなくなると考え、仕方なく間に入った
「ベルナルド皇太子殿下、先程から話しをしているように娘のクリスティーナには国王陛下を襲う理由もないし、ましてや国王陛下が襲われた時クリスティーナはトレース伯爵家にいたと大勢の方々が証言している
これでもまだクリスティーナをお疑いか?」
「いや…」
ベルナルドももはやクリスが犯人とは考えていない
ただそれを認めると、ベルナルドにとって最悪の結果になってしまうのだ
国王である父を襲ったのが妹のヒラヌルだという事を
それは宰相もわかっていた
この冤罪がクリスティーナでなければ、そのまま罪を被せヒラヌルを守る事も出来ただろう
だが相手がオルドリッジ家ではそうはいかない
ルガード国が他国と均衡を保っていられるのは、オルドリッジ家の存在が大きい
他国にはまだ魔法使いは大勢いるが、このルガード国ではオルドリッジ家が唯一の魔法使い一族なので見限られては国の命運にかかわる
ヒラヌルが国王を襲ったと認めたくはないが、状況証拠が全てヒラヌルが怪しいと語っている
ベルナルドは藁にも縋る思いで提案した
「国王陛下が回復なされば、賊がクリスティーナ嬢でないと確定できます
国王陛下のご容態が良くなるまで、この城に居て頂けないか?」
「こいつ!まだそんな事を!!」
ヴァレンタインは怒りのあまり、ベルナルドに詰め寄った
「国王陛下のご容態は?」
リチャードはヴァレンタインと違い、冷静に聞いた
リチャードの問いに宰相は首を横に振った
「私達もまだ医師から何も聞いていないのです
ただ腹部と背中を刺されました」
「ふむ…」
リチャードは少し考えてからベルナルドを見た
「息子のエイブラハムを呼んでもいいかな?
エイブラハムは治癒魔法が使える」
リチャードの申し出に宰相は必死になった
「それは願ってもない事です!ぜひお願いします!!」
そう叫ぶと、宰相はすぐにベルナルド皇太子を見た
「皇太子殿下もそれでよろしいですね!?」
「ああ」
2人の了解を得ると、リチャードはすっと手を伸ばした
すると何もない所から鳩が現れ、リチャードの腕に留まった
魔法を目の前で見るベルナルドと宰相は驚いている
そんな2人に構う事なくリチャードは鳩に向かって
「頼むよ」
と言うと鳩を放った
♪♫♬ ♬♫♪
国王の容態を確認する為、ベルナルド皇太子と宰相、そしてリチャードが部屋から出て行くと、クリスは再び窓際の椅子に座った
「聞いた話しだと、ヒラヌル王女の計画は穴だらけね」
「頭がおかしいんだよ」
ヴァレンタインはまだ怒っている
恐らくクリスがお茶会などに出席予定がない事くらいは調べただろうが、まさか友人達と私的なお茶会をしていたとは知らなかっただろう
それに国王が襲われた部屋は3階だ
3階のテラスに侵入して、襲った後は律儀に窓を閉めて逃走する賊がいるだろうか?
まあ移動魔法を使えるクリス達ならば出来なくはないが、移動魔法は移動先の場所が確定していないと使えない魔法だ
広大な敷地の中にある幾つもの宮殿
しかも宮殿ひとつひとつが広く、部屋数も相当だ
そのうちのどこに国王が居るかなんて、わかる訳がない
「クリス、やっぱり屋敷に帰ろう」
「うん、そうだね」
もしヒラヌルを守るためにクリスに罪を被せるならば、それこそ移動魔法を使ってここから逃げ出しヴァレンタイン達の屋敷に行けばよい
だがそれだけではヴァレンタインの気が収まらないだろう
クリスをここから連れ出すならば、ヴァレンタインはこの宮殿を破壊しそうだ
せめて怪我人が出ないようにしなきゃね
クリスはやれやれとため息をつくのだった




