50話 誘導
ルガード国の王宮では玉座に国王と王妃が座り、国王の隣にはベルナルド皇太子が立っていた
ヒラヌルは国王に呼ばれ、いま国王たちの前にいる
ヒラヌルの左右には大臣や貴族達がずらりと並んでいた
そしてその中にはジュリアの姿もあった
何かしら?
ヒラヌルは国王が公式にわざわざ呼び立てたので、不思議に思っていた
「ヒラヌル内親王、そなたの婚約者が正式に決まった」
国王の言葉にヒラヌルは驚いた
婚約者!?
父上様はようやく私とヴァレンタイン様の事をお認めになられたのね!
「ありがたき幸せにございます、国王陛下」
ヒラヌルは深々と国王に頭を下げた
するとヒラヌルの背後から人が近づいて来る気配がする
足音はヒラヌルの隣まで来ると止まった
お辞儀をしているヒラヌルには男性の足しか見えない
ああ、ヴァレンタイン様!
ようやく一緒になれますわ!!
ヒラヌルは嬉しくてヴァレンタインに抱き付きたいくらいだった
「国王・皇后両陛下、並びに皇太子殿下にご挨拶申し上げます」
ヒラヌルの隣に立った男性の挨拶の声で、ヒラヌルは固まった
ヴァレンタイン様の声では…ない?
ヒラヌルはチラリと隣の男性に視線をやった
男性もお辞儀をしているので顔は見えないが、ヴァレンタインでない事だけはハッキリとわかった
ヴァレンタインのような美しい金髪ではなく、赤い髪色だ
お辞儀をしているがヴァレンタインのようにすらりとした姿ではなく、小柄な男性だとわかる
ヒラヌルは怒りにわなわなと震えると、ばっと国王の方へ顔を上げた
と同時に国王は
「2人も面を上げよ」
と言った
男性は頭を上げると、ヒラヌルより少し背が高いくらいのまだ少年のような顔つきの男性だった
「グレボフ大公の三男、ダグラス子息だ」
国王の紹介にダグラスは軽くお辞儀をした
そしてヒラヌルの方に視線を移すと
「ダグラス・ロン・グレボフです、お見知りおきを」
と挨拶をした
ヒラヌルは怒りで震えが止まらない
ダグラスから国王へキッと視線を移すと、国王は苦笑いをして短い髭を触っている
「ダグラス小公子は大公家の血筋で年齢もそなたと同じだ
お似合いではないか」
ヒラヌルの周りの貴族たちは若い二人を温かい目で見つめている
「2人の婚約の儀は3ヶ月後に執り行う」
「ありがとうございます」
国王の決定にダグラスは深々と頭を下げるが、ヒラヌルは納得がいかず国王を睨みつけるだけだ
国王はこうなるだろうと予想はしていたので、特に怒ることもなく
「ではヒラヌル内親王とダグラス小公子の婚約を正式なものとし、婚約の儀を執り行う準備をするように」
国王の言葉にヒラヌルの近くにいた大臣達が
「畏まりました」
と返事をした
「よろしい
では2人も下がってよいぞ」
「はい」
ダグラスはもう1度深々と頭を下げると数歩下がり、頭を上げた
そしてヒラヌルをエスコートする為に手を差し出した
ヒラヌルはその手をじっと睨みつけたが、今ここでこの手を払いのける訳にはいかない
仕方なくダグラスのエスコートを受け、その場を退出した
部屋から出るとヒラヌルはすぐに手を離すと、まるで汚い物でも触ったかのように手をパンパン叩いた
「私、将来を誓った殿方がおりますので貴方と結婚は出来ません」
ダグラスはきょとんとしてしまった
「これは国王陛下のご命令ですよ?」
「そ、そうですが…国王陛下にはお考え直して頂くようにお願いします」
「ですが公けの場で国王陛下がお決めになられた事を、撤回なさるでしょうか?」
確かにそうだ
国王はあの場でくどいように「この婚約は正式なもの」と言い加えていた
だがそれで納得するヒラヌルではない
「と、とにかくこの婚約はなかった事にさせて頂きます!」
ヒラヌルはそう怒鳴りつけるとダグラスをその場に残し、一人すたすたと去って行ってしまった
ヒラヌルは怒りのあまり侍女までも置き去りにしてその場を後にしたが、後ろから声を掛ける者がいた
「ヒラヌル内親王殿下」
ヒラヌルは「ふーっ」と一息吐いてから止まり、振り返るとそこにはジュリアがいた
「貴女はお兄さまの…」
「はい、ジュリア・アバ・メイスンでございます」
「何の用でしょうか?」
「私、国王陛下の決定に納得がいかず…
ベルナルド皇太子殿下からヒラヌル内親王殿下はレイメント伯爵をとても愛していらっしゃると伺っておりましたので」
突然ヴァレンタインの名を出され、ヒラヌルは嬉しくなってしまった
「そうなのです!
私とヴァレンタイン様は将来を約束しているとあれだけ両陛下に言いましたのに!」
「ですが公けでの決定事項です
国王陛下が覆す事はありませんわね、お可哀そうに」
ジュリアは心配そうな顔をしながら、心の中では笑っていた
「そうなのです…
私、どうすれば…」
ジュリアは泣き出してしまったヒラヌルの両肩を抱きながら話しだした
「ベルナルド皇太子殿下はヒラヌル内親王殿下のその想いを叶えてあげたいと仰っておられましたよ」
「お兄さまが!?」
ヒラヌルは思わぬ援軍に驚いたが、嬉しくなった
「はい、
今の国王陛下の決定は覆す事はできませんが、ベルナルド皇太子殿下が国王とお成りあそばせば前国王の決定は無に等しいですわ」
「…お兄さまが国王にお成りあそばせば…」
「それにベルナルド皇太子殿下はヒラヌル内親王殿下とレイメント伯爵の仲をお認めです」
そう…
父上様がヴァレンタイ様との仲を反対されても、お兄さまが国王になれば何の問題もなくなる
私とヴァレンタイン様は晴れて結ばれる
あの腹黒い女は私を侮辱した罪で公開処刑にでもすれば良い
そう、父上様がいなくなれば…
黙って考え込むヒラヌルを見て、ジュリアはニヤリと笑った
この誘導に乗って、愚かな王女はどこまでするだろう
ジュリアとしては邪魔な国王がいなくなればベルナルド皇太子は国王となり、自分は王妃となる
このまま国王がいてはベルナルドはいずれ正式に妃を召すだろう
そうなる前に国王を亡き者にしてベルナルドを国王にしてしまい、そして自分は王妃の座に就く
邪魔な現皇后とこのヒラヌルは食べてしまえば良い
さあ、ヒラヌル
貴女の欲望を叶えるために動きなさい
ジュリアの笑みは更に禍々しさを増した
ご精読、ありがとうございます
m(_ _)m
次話もよろしくお願いします!
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