47話 寿命
クリスとヴァレンタインはオルドリッジ家の庭園の奥の方にある池の側の東屋でベンチに座っていた
月明りが明るく、月の光が池の水面に映りゆらゆらと揺れていた
「ヴァルは本当に私と結婚してもいいの?」
「うん?もちろんだ」
クリスの問いにヴァレンタインはきょとんとしている
「何か問題でもあったか?」
「んっとね、どうしても私の方が先に死んじゃうじゃない」
「…」
この沈黙…
ヴァルは寿命の事、考えてなかったのね
「これはさ、どうしようか考えてたんだ」
「え?考えてたの?」
クリスは驚いてしまった
「何だよ、俺が何も考えてないと思ってたのか」
正解です!
とは言えないのでクリスは笑って誤魔化した
「あはは…」
ヴァレンタインには誤魔化しが通じなかったようで、ジト目で見られてしまった
「妖精を探して、妖精の祝福を受けて長寿になるという手もある」
「妖精!?
妖精っているの?」
ヴァレンタインは楽しそうに笑った
「ああ、いるよ
人間が見る事は滅多にないだろうな
妖精の奴らは人間が嫌いだからな」
「本当にいるんだ」
大昔は妖精がいたらしいが、絶滅したと言われていた
だが人間の知らない所でちゃんと存在していたのだ
「ただな~人間嫌いの妖精がクリスに祝福を与えるかもわからないし、それにクリス自身がどうしたかわからなかったから」
「私がどうしたいか?」
「そうさ
人間の寿命をはるかに超える事になる
俺やベスは傍にるが、クリスの周りの人間は誰一人いなくなるんだ
それでもいいのか決めなきゃならない」
ああ、そうなのね
クリスは気づいてしまった
ベスやヴァルはそうやって長い年月、知りありが次々に死んでいくのを見てきたのね
それが辛い事だから、私には勧めないんだ
クリスはそこまで考えていなかった
『寿命が長くていいなぁ』程度に思っていたが、当の本人は周りに誰もいなくなる淋しさをずっと味わっているのだ
まるでベスとヴァルだけが時の流れから取り残されたように思えた
クリスが黙ってしまったので、ヴァレンタインは再びクリスのおでこにキスをした
「これはすぐに決めなくてもいいぞ
クリスがどうしたいか、ゆっくり考えればいい」
「うん、そうだね」
するとヴァレンタインは意地悪な笑顔になった
「妖精達が祝福を与えてくれなくても、他にも手はある…らしい」
「らしい?」
「ベスが言うには、子供が出来ればクリスは赤子の影響で俺達のようになるかもしれないって」
「こっ、子供!?」
「そうさ」
ヴァレンタインはうろたえるクリスの顔に自分の顔を近づけた
「で、でもお父さまは種が違うから子供は出来ないって」
「一概に出来ないって訳じゃないらしい」
「そうなの?」
「そりゃ同種のようにはいかないだろうけど、それは俺達次第じゃないか?」
「お、俺達次第って…!」
クリスは真っ赤になってしまった
ヴァレンタインはくすっと笑うとクリスにキスをした
「こうやってずっと一緒にいよう
もしクリスが人間として寿命を全うしたとしても、俺はずっとクリスを想い続けるよ」
「ヴァル…」
ヴァルを一人にするなんて出来ない
ヴァレンタインはゆっくり考えればいいと言ってくれたが、クリスの気持ちはもう決まっていた
♪♫♬ ♬♫♪
ルガード国の王族が住まう宮殿の奥、後宮ではヒラヌルがいらいらと部屋の中を歩き回っていた
昨日、わざわざあの女のお茶会に行ったのにヴァレンタイン様にお会い出来なかった
本当に何て腹黒い女なのかしら
私とヴァレンタイン様を引き離して…
自分が謹慎処分を受けてうやむやになってしまっていたが、水色の髪の男に頼んだクリスの暗殺も宙に浮いた状態だ
さっさと殺してくれればいいのに
一体、どうなってるの
ヒラヌルから水色の髪の男へコンタクトは取れない
というか、あの男は一体どこの誰なのかしら?
ヒラヌルは今更、そんな事に気が付いた
でも後宮の出入りを許されているって言ってたわよね
またどこかで会う事が出来るかもしれない
だがそんな当てにならない暗殺計画より、もっと確かで確実にクリスを亡き者にしたい
少しでも早く
今、こうしている間でもヴァレンタイン様は私に会えず苦しんでいらっしゃるわ
やはりベイル国から魔法使いを借り受け、その魔法使いに始末してもらうのが一番かしら
ヒラヌルはそう考えると呼び鈴を鳴らし、侍女を呼んだ
侍女はすぐに部屋へとやって来た
「ヒラヌル王女様、お呼びでしょうか?」
「こちらに来て」
ヒラヌルがそう言うと、侍女はドアの前からヒラヌルの側まで来た
長椅子に座ったヒラヌルは侍女をギロリと睨んだ
「ベイル国から魔法使いを借りたいの
そんな伝手のある人を探して来て」
侍女はなぜそんな事を自分に言うのかわからなかった
「それでしたら外務大臣にお頼みすればよろしいかと
女官長から外務大臣へお伝え出来るかと思います」
「ダメよ、外務大臣なんて!」
侍女はヒラヌルの剣幕に驚いてしまった
「これは私個人の頼みなの」
「でしたらオルドリッジ侯爵にお頼みしたらいかがでしょう?
オルドリッジ侯爵ならば、ベイル国の魔法使いの事もご存じでしょうし」
「もう!それもダメ!!」
「は?」
侍女はどうすれば良いのかわからなくなった
「とにかく誰にも知られずに魔法使いを借りたいの」
「はあ」
「そのような事が出来る人を探して来て」
そんな事、一介の侍女には無理ではないだろうか
だいたいこのルガード国の魔法使いはオルドリッジ侯爵家だけだ
もしベイル国から魔法使いを借りるにしても、オルドリッジ侯爵が仲介役をする
それなのに、そんな正規ルートを取らずに魔法使いを借りたいなんて
「ヒラヌル王女様
そのような事をなさって、もし国王陛下や皇后陛下のお耳に入ったりしたら…」
侍女はヒラヌルを思い止まらせようと、恐る恐る進言した
「大丈夫よ
事が解決すれば、父上様も母上様も喜んでくださるわ」
「はあ」
どのような事を解決するつもりなのか
侍女は再び頭を抱えたくなってしまうのだった
ご精読、ありがとうございます
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