46話 月夜
どうしよう、眠れない
夜になりベットに入ったものの、昼寝が効いたのかクリスは寝付けなかった
むくりと起き上がるとベットから降り、テラスへと向かった
窓を開けると風が心地良く、月明りでとても明るい
散歩でもしようかしら
クリスはそう考えるとテラスの手摺をひょいと乗り越え、下へ飛び降りた
ここは2階だ
だがクリスは自分に重力魔法を掛けると、ふわりと地上に降り立った
どうしようかしら?
噴水まで行ってみようかしら
クリスはそう考えて歩き出した
今日は満月ではないが、月明りがとても明るいので歩くのに不便はなかった
もし闇夜でも魔法で光の球を出せば良いのだが…
今使っている魔力は自分の魔力だ
だがクリスにはもうひとつの魔力がある
最近、ようやく切り替えが出来るようになってきた
だがこの太古の魔力は扱いが難しい
とにかく魔力が膨大なので、まず調整をしなければならなった
威力がありすぎると、反対に魔法として成立せずに散ってしまうのだ
少しずつ簡単な魔法から、どれくらいの魔力で魔法が成立するか試行錯誤を繰り返していた
だが魔法として成り立つと、威力はすごい
純度100%の魔力に近いので相手に与えるダメージはかなりのものだろう
ジュリアがしばらく動けなかったのも頷ける
ぼーっとそんな事を考えながら歩いていると、すぐに噴水まで着いてしまった
なんならもう少し奥の東屋まで行こうかしら
クリスはそのまま次の目的地・東屋へ向かって歩き出した
ヴァレンタインはこの太古の魔法にマリア グアダルーペを重ねているのではないだろうか?
最近クリスはこんな風に考えるようになってしまった
だいたい出会った時にこの太古の魔法でヴァルと主従関係を結んだから、ヴァルは優しかったのよね
この太古の魔法がなかったらきっと私はヴァルの…餌よね
ヴァレンタインの「好き」はクリス自身に向けられているのではなく、太古の魔法からマリア グアダルーペを彷彿させるので「好き」と言っているのではないだろうか
それに寿命の問題もある
このまま結婚しても良いのだろうか?
クリスは最近、この無限ループにはまっていた
東屋に着くとクリスは池側に面しているベンチに座った
最近はヴァレンタインが昔、人間社会で生活していた時に好きな女の子がいたのではないだろうか?
という懸念まで出てきてしまった
どれもこれもクリス一人で悩んでも答えは出ない
ヴァレンタインに直接聞けば答えは出るが、それも恐くて聞けない
「どうしようかしら?」
クリスはぽつりと呟いてしまった
「何が?」
突然、声を掛けられて東屋の入口を見るとヴァレンタインが立っている
「ヴァル!どうしたの!?」
「それはこっちのセリフだ
クリスこそどうしたんだ?」
夜行性のヴァレンタインやエリザベスは夜の方が活発だ
たぶん散歩でもしていたのだろう
「お昼寝したら寝付けなくて
月が綺麗だったから散歩してるの」
「魔法を使ったな?」
テラスから飛び降りる時に使った魔法だろうか?
「うん
ああ、それで私に気付いたのね」
「そう」
ヴァレンタインはそう言いながらクリスの隣に座った
「何をどうしようかって困っているんだ?」
クリスはぎくりとした
先程の呟きを聞かれてしまっていた
「さ、さあ~」
クリスはヴァレンタインから視線を外し、何もない所を見た
するとヴァレンタインは両手をクリスの頬に添えるとぐいっと自分の方に向けた
「こら、とぼけるな」
「え~っと」
困ってしまった
ヴァレンタインに聞けばこの悩みのいくつかは解決するだろうが、まさか今聞く!?
急すぎて、どうしていいのか考えられない
「言わないとキスするぞ」
「えっ!それはちょっと…!」
「何だよ、嫌なのか?」
「そうじゃないけど…」
クリスはこの流れで聞いてしまえ!と腹を決めた
「ヴァルは私の事が好きなの?」
「そうだ、好きだ」
「その…私自身?
それとも私の太古の魔法からマリア グアダルーペを思い出させるから?」
ヴァレンタインは驚いた表情になった
ああ!やっぱり聞かなきゃよかった
クリスは顔が真っ赤になっていくのが自分でもわかった
「何で、そうなるんだよ?
俺が好きなのはクリスだぞ?」
「マリア グアダルーペの代わりとかじゃなくて?」
「当たり前だ
だいたいマリア グアダルーペは大昔に魔力をくれただけだ
顔も忘れたぞ」
「そ、そうなの?」
それはそれで薄情なのではないだろうか?
とクリスは考えてしまった
ヴァレンタインは不思議そうな顔をした
「そんな事が気になっていたのか?」
「そんな事って…!
だってヴァルと私は太古の魔法で主従関係が成立しているから…」
ヴァレンタインはニッコリ笑うと、クリスのおでこにキスをした
「確かにそれはきっかけだ
だがクリスと生活しているうちに好きになったと、前にも話しただろ」
「そうだけど…」
クリスはヴァレンタインにキスされたおでこを触っている
「それにヴァルは昔、人間として生活していたんでしょ?」
「ああ」
「その時にも好きな女の子はいなかったの?」
「いや」
即答だった
これには反対にクリスが驚かされてしまった
「だってヴァルって令嬢達から絶大な人気があるじゃない
それなのにお付き合いした令嬢がいなかったの?」
「出会いがなかった」
「そ、そう」
一瞬、間を開けてクリスははっと気が付いた
「いやいやいや、出会いはあったでしょ?
夜会とか舞踏会とか」
ヴァレンタインは昔の思い出を、遠い目をしながら答えた
「昔も令嬢達は群がって来ていたけど、俺は興味がなかったから」
「私には興味があったの?」
「そうさ」
ヴァレンタインは今度はクリスの手を取ってキスをした
「さっきも言っただろ?
きっかけがあった
それからクリスを知る事が出来た
他の令嬢達はそんな事がなかったからな」
「…女の子に興味がなかったの?」
クリスは心配になってしまった
「ん~あんまり興味なかった
ベスと暴れまわったりしている方が楽しかったからな」
クリスはヴァレンタインの精神年齢はいくつなんだろうと心配になってしまった
もしかしたら、今がちょうど見た目と精神年齢が合っているのかもしれない
いや、今でも多少幼さがあるかもしれない
魔獣って…
クリスは呆れてしまうのだった
ご精読、ありがとうございます
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次話もよろしくお願いします!
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