44話 翌日
「ヴァルが恐がるのがわかったわ」
「だろ?」
エリザベスもお茶会でのヒラヌルの言動には恐怖を感じたようだ
最初はいつものようにヴァレンタインに懸想している令嬢程度に考えていたが、人の話しを全く聞かず、自分の妄想こそが真実と思い込んでいるヒラヌルの言動
「ジュリアよりたちが悪いじゃない」
「だろ!?」
ヴァレンタインはようやくエリザベスがわかってくれた事が嬉しかったようだ
「ヴァルとクリスが屋敷に帰りたがる気持ちがわかったわ」
「そーだろ!?」
「何だよ!
俺はその王女を押し付けられたんだよ!?」
テッドはウルウルしながら訴えた
「皆にあの恐怖を味わってもらいたかったんだ
良かったよ」
ヴァレンタインは清々した気分だ
「良くないよ!
俺は全く関係ないじゃないか!」
「あら、ここで世話になってるんだからクリスを助けるのは当然でしょ」
「うっ」
エリザベスの正論にテッドは言い返す事が出来なかった
そもそも口でエリザベスに勝てる訳がない
魔法の勝負でもエリザベスに勝てないが…
「でもヒラヌル王女の謹慎が解かれたなら、これからまたヴァルに構ってくるんじゃない?」
クリスの意見にその場にいた全員が黙ってしまった
重い空気の中、口を開いたのはエリザベスだった
「屋敷に帰る準備をしましょうか」
♪♫♬ ♬♫♪
王妃は国王の部屋を訪れていた
昼間のオルドリッジ家のお茶会でのヒラヌルの言動を相談しに来ていた
王妃から事の顛末を聞いた国王はため息をついてしまった
「困ったものだ
どうしてわかってくれないのか」
「乳母が幼い頃よりヒラヌルに『王女が微笑み掛ければ皆、幸せなのです』や『王女が仰られる事は全て正しくなくてはなりません。皆がそのお言葉に従います』などと言い続けていたからでしょう」
「それは王族として当然の事だろう」
「ですがヒラヌルは少々、間違った捉え方をしたのでしょう
自分の意志が間違っていようが関係なく、皆が自分に従うと考えているようです」
「…困ったな」
国王と王妃はしばらくの沈黙の後、王妃が口を開いた
「国王陛下、ヒラヌルの婚約者を決めてしまいましょう」
「婚約者か」
「はい、ヒラヌルももう15歳です
内親王に婚約者がいない事もよろしくないかと」
王妃の進言に国王は少し考えた
「だがレイメント伯爵以外を婚約者に選ぶと、また大変だぞ?」
「ですがレイメント伯爵とは結婚できません
クリスティーナ嬢の婚約者ですし、何よりも彼は魔法使いです」
いや、魔法使いではなく魔獣なのだ
国王はヴァレンタインが魔獣である事は知っているが、この事は自分とオルドリッジ家以外の人間には知られてはいけない
ヴァレンタインが魔獣と明かす事が出来れば手っ取り早いのに…
だがそれも出来ないか
国王はそう考えて、王妃の進言を受け入れる事にした
「よろしい
それではヒラヌルの婚約者を決めなくては
年齢や地位、爵位も相応の爵位の令息だ
候補者のリストを作成し、早急に決定しよう」
「英断と存じます」
王妃は恭しく一礼をした
♪♫♬ ♬♫♪
お茶会の翌日、クリスの元には多くの手紙が届いていた
「こんなに?」
手紙の載ったトレイを怪訝に見つめながらクリスは聞いた
「はい、お嬢様
昨日のお茶会が大成功でしたので、多くの令嬢からお嬢様ともっと親しくなりたいと、このようにお手紙や招待状が届いたようです」
侍女はそう言うとクリスの目の前の机にトレイを置いた
マジですか
選別はするけど、全部を無視する事は出来ないわよね
昨日エリザベス達の屋敷に帰ろうと話しをしていたのに、これじゃあ帰れないじゃない
ベスに相談しなきゃ
「ベスは今どこにいるの?」
クリスの問いに侍女はすぐに答えてくれた
「エリザベス様でしたら、先程ヴァレンタイン様と3階のテラスにいらっしゃいましたよ」
「そう、ありがとう」
「向かわれますか?」
「ええ」
「それではテラスにお茶をお持ちしますね」
出来た侍女だ
「ありがとう」
クリスは嬉しそうに言うと席を立った
「あ、その手紙は招待状と手紙と別けておいて」
「畏まりました」
侍女の返事を聞くと、クリスは部屋を後にするのだった
クリスの部屋は2階で、3階のテラスまではそれ程離れてはいない
階段を上りがならクリスは別の事を考えていた
数年後には宮殿の神殿でヴァレンタインと結婚式を執り行う事になるだろう
それはいい
だがヴァレンタインは魔獣だ
自分より遥かに長生きなのだ
結婚をして自分は年を取り、そして死んでしまう
だがヴァレンタインは恐らく何も変わらないのだろう
…いや、少しくらい年を取ってもらいたいが
ヴァレンタインを残して逝ってしまう悲しさ
一人取り残されたヴァレンタインの淋しさ
そう考えるとこの結婚は良いのだろうか、と不安になっていた
そんな事を考えているうちに3階のテラスに着いてしまった
テラスに出るとエリザベスとヴァレンタインが椅子に座り、景色を眺めているようだ
「お邪魔してもいい?」
「あらクリス、構わないわよ」
エリザベスにそう言われ、クリスはニッコリ微笑んだ
たとえ自分がいなくなっても、ヴァレンタインにはエリザベスがいる
きっと淋しくはないよね
そう考えると少し安心した
小さな丸テーブルに4脚の椅子があり、クリスは空いている椅子に座った
「ベス、令嬢達から招待状がいっぱい届いちゃったの」
「いっぱい?」
「そう、いっぱい」
「あら、まあ」
エリザベスは手で口を押えている
「昨日のお茶会が余程お気に召したのね」
「そうみたい」
「良かったじゃないか」
ヴァレンタインはヒラヌル恐さに隠れていたが、概ねお茶会は成功したと聞いていた
その結果がこれなら昨日のお茶会は大成功と言えるだろう
「でもヴァル達の屋敷に帰れなくなっちゃう」
「「あ」」
エリザベスもヴァレンタインもそれは考えていなかったようだ
「ほっとけばいいじゃないか」
「そうはいかないわよ
選別はするけど、いくつかは出席しなきゃ」
「そうよ、ヴァル
貴方だって人間社会に居たことがあるんだからわかるでしょ」
エリザベスの言葉にクリスはふと考えた
エリザベスとヴァレンタインはどのくらいの期間かはわからないが、人間社会で生活していた
その時は爵位も授かり、社交もこなしていたそうだ
その時にヴァルは好きな女の子とかいなかったのかな?
今みたいに結婚とか…
考え込んでいるクリスに、エリザベスとヴァレンタインは「?」となってしまうのだった
ご精読、ありがとうございます
m(_ _)m
次話もよろしくお願いします!
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