42話 戯言
オルドリッジ家で行われているお茶会は楽し気に進んでいた
今は令嬢達も席を立ち庭園を散策したり、ベイル国のお茶やお菓子を堪能するなど思い思いに過ごしていた
ヒラヌルはヴァレンタインの姿がないので明らかに不機嫌だった
令嬢達はそんなヒラヌルに近づく危険を避けているので、ヒラヌルはひとりで庭園をぶらぶら散歩した
久しぶりに外に出た
この1か月間ずっと私室での謹慎だったので、太陽の光や風が気持ち良かった
ここにヴァレンタイン様がいてくだされば…
ヒラヌルはヴァレンタインを想った
今日、ヴァレンタインに会ったら一緒に宮殿に帰ろうと決めていたのに
ベイル国の国王に呼び戻されているなんて、なんてタイミングが悪かったのでしょう
でも、もしかするとヴァレンタイン様はあの女から逃げたくて国王に呼ばれていると嘘をついたのではないかしら?
ヒラヌルは突然、思い付いた事に納得した
ああ、そうなのだわ
ヴァレンタイン様はお逃げになったのね
お気の毒に
今日、私がここに来ると知っていればお逃げになる必要もなく、助けてあげれたのに…
ヒラヌルがそう考えていると、ちょうどエリザベスが目に入った
ヒラヌルはエリザベスに近づくと声を掛けた
「初めまして、エリザベス嬢」
「ようこそお越し下さいました、ヒラヌル内親王殿下」
初めましてじゃないでしょ
貴女とはこの前のベルトレ侯爵夫人の夜会で会ってるじゃない
あの時のヒラヌル王女はヴァル以外、目に入っていなかったのね
エリザベスはやれやれと思ってしまった
だがヒラヌルはそんな事に気付いてはいない
「ヴァレンタイン様はベイル国にお戻りになられたのですか?」
「はい、国王陛下のご命令で」
するとヒラヌルは扇を広げると口もとを隠した
「嘘は仰らなくてもよろしいですわよ」
「え?」
エリザベスは驚いた
確かにヴァレンタインがベイル国の国王に呼び戻されたというのは嘘だ
実際はヒラヌル恐さに、この屋敷の奥に隠れている
「嘘ですか?」
エリザベスは平静を装いながら聞いた
「そうですわよ
ヴァレンタイン様はお茶会であの女に連れ回されるのが嫌でお逃げになったのでしょう?」
「………」
エリザベスは一瞬、思考が追いつかなかった
何を言っているのかわからなかったかのだ
「…いえ、弟はクリスティーナとそれはそれは仲睦まじく、そのような事はありません」
だがヒラヌルはくすっと笑った
「まあ、そのような戯言を仰らなくてもよろしくてよ?
私はヴァレンタイン様のお気持ちは理解しておりますから」
エリザベスは困惑してしまった
「…いえ、本当に弟とクリスティーナは仲が良いです」
するとヒラヌルは怪訝な顔つきに変わった
「ああ、貴女もあの女に魔法を掛けられているのですね
お可哀そうに」
「いえ、魔法など掛けられておりません」
「お気の毒ですわ、そのような戯言を言わされて
あの女はどこまで腹黒いのかしら」
何、この王女は?
自分の作り話しを真実にしたいの?
「ヒラヌル王女様、私も弟も魔法使いで腕前も確かです
クリスティーナはまだ駆け出しで、私達に魔法を掛けるなんて事は出来ませんよ」
エリザベスは威厳のある態度でヒラヌルに言い切った
ヒラヌルは扇で顔を隠したまま、少しエリザベスに近づくと小さな声で話し掛けた
「人を操る魔法に掛けられているのですね
大丈夫です、私が何とかお救いしましょう」
エリザベスは絶句してしまった
確かに人を操る魔法はある
だがこの魔法は大昔に人間達が禁忌としたため、長い年月を重ねるうちに忘れ去られた魔法だ
エリザベスは魔獣なのでそんな縛りは関係ないので、この魔法は知っている
まあ、使わないが
「ヒラヌル王女様、私の話しをお聞きください
クリスティーナは私達に魔法を掛けてはいません
なにより、私達の方が魔法使いとしては上級者です
そして弟とクリスティーナは愛し合っています」
「安心なさって、エリザベス嬢
ヴァレンタイン様が本当に愛していらっしゃるのはこの私です
あなた方を魔法で操っている悪女から必ずお救いします」
「…いえ」
なに!?この王女?
なんで人の話しを聞かないの?
自分の筋書きこそが正しいとでも思っているの?
「ベス!」
エリザベスの後ろからテッドが声を掛けた
振り返ったエリザベスの顔は困惑している
「?」
テッドは何があったのかわからないが、エリザベスの側へとやって来た
するとエリザベスの向かい側にヒラヌル王女が居る事に気が付いた
「あ、王女様とご歓談中でしたか
申し訳ございません」
テッドが謝るとヒラヌルはニッコリと微笑んだ
「構いませんわよ」
テッドはエリザベスに耳打ちすると、エリザベスはこくんと頷きヒラヌルの方へ向き直った
「ヒラヌル王女、次の準備がございますので私はこれで失礼させて頂きます」
と挨拶をした
「まあ、残念ですわ
ヴァレンタイン様の事などお伺いしたかったのに」
「申し訳ございません
それではこちらのセオドアにお相手をさせます
彼は弟とも付き合いが長いですから」
え!?
テッドは固まってしまった
テッドは第一印象でヒラヌルに警戒心を抱いてしまったので、この王女には近づかないようにしていたのだ
「それじゃテッド、お願いね」
エリザベスは意地悪な笑みをたたえると、すれ違いざまにテッドの肩をポンと叩いた
エリザベス~!
テッドは睨みつけるが、エリザベスはそそくさとその場を後にした
残されたテッドは恐る恐るヒラヌルを見た
ヒラヌルはまじまじとテッドを見ている
すると扇で口元を隠して話しかけてきた
「貴方はヴァレンタイン様と仲がよろしいの?」
「あ、はい」
さすがヴァレンタイン様ね
ご友人も見目がよろしいわ
ヒラヌルはそう納得すると扇をパチンと閉じた
「仕方ありませんね
今日はヴァレンタイン様がいらっしゃいませんから、貴方にお話しを伺おうかしら」
テッドは泣きたくなった
心の中では「クウーン、クウーン」と鳴いている
狼は群れを成して行動するため、このように単独では心細くなってしまうのだ
「それではあちらで座ってお話しを伺いましょう」
「は、はい」
テッドは仕方なくヒラヌルの手を取り、言われた席に向かうのだった
ご精読、ありがとうございます
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