4話 役割
クリスの生家であるオルドリッジ侯爵家には奥に広々とした庭園があり、そのまま山へと続いている
エリザベスとヴァレンタインは人目に付かないように山側からオルドリッジ家を訪れた
庭園の真ん中辺りに着地するとクリスはヴァレンタインから降り、2匹はボン!と煙を上げ人型に変わった
3人で屋敷の方に向かって歩くと、クリスの母親のエレンが屋敷近くでお茶をしていた
「あら!クリスちゃん」
クリスに気づいたエレンはお茶を置くと立ち上り、クリスに向って歩いて来た
「ただいま戻りました、お母さま」
「おかえりなさい、クリスティーナ
エリザベスちゃんとヴァレンタインくん、いらっしゃい」
エレンはニッコリと2人を迎えた
今でこそ良好な関係を築いているが、最初の頃エレンは魔獣であるエリザベスとヴァレンタインが恐かった
3年前…
クリスは兄のエイブラハムと魔獣討伐に出掛けてエリザベスとヴァレンタインに出会い、餌としてこの2人の屋敷に持って帰えられてしまった
2人で分けて食べるにはクリスはまだ12歳で身体が小さかったので、大きくしてから食べる事にしたそうだ
そして彼らにとって魔法使いはご馳走らしい
魔力が大きければ大きい程、美味しくなるそうなので、2人はクリスの身体と魔力を育てる事にしたそうだ
クリスはヴァレンタインの後ろに付いて屋敷の中を案内してもらっている
「屋敷の中は自由にしていいぞ
俺達の身の回りを世話する下僕がいるが、あまり気にするな
あとこの屋敷はエリザベスが張った結界の中にあるから、屋敷の外に出ても結界からは出られないし、外からも侵入は出来ないから」
屋敷はかなり広い
屋敷の後方には庭園もあった
「庭園には出てもいいの?」
「構わない」
ヴァレンタインは身長も高く、足も長いので歩くのが早い
クリスも魔法使いとして魔獣討伐をする為に身体は鍛えていたが、屋敷も広いのでヴァレンタインに付いて行くだけで息がきれた
そんなクリスに気付いたヴァレンタインは
「人間は本当に弱いな」
と呆れている
「貴方の足が早すぎるのよ」
クリスは自分との身長差…足の長さの違いを考えてよ!と言いたいのを我慢した
それを言うと、自分の足の短さを認めてしまうと思ったからだ
ヴァレンタインはジト目でクリスを見ると、フワリと魔法を使った
「?」
クリスはヴァレンタインが何をしたのかわからなかったが、ヴァレンタインは構うことなく歩き出した
次は屋敷の後方の庭園を眺める事が出来る3階の広々としたテラスに案内された
テラスの中央にはテーブルと椅子があり、テーブルにはお菓子やケーキが準備されている
「わぁ!」
クリスはまさかここでお菓子を食べられるとは思ってもみなかった
ヴァレンタインはさっさと椅子に座ったので、クリスもヴァレンタインの向かい側に座る
するとヴァレンタインが下僕と呼ぶ召使が温かいお茶を運んで来た
召使が側まで来てわかったが、これはヴァレンタインが創り出している物だ
人の形をしているが魔力の塊なのがわかった
しかも魔力はヴァレンタインのものだ
あ、さっき魔法を使ったのはこの召使達にここの準備をさせたんだ
クリスはそう気づくとヴァレンタインを見た
ヴァレンタインは何事も無かったようにお茶を飲んでいる
このネコ科のイケメンはツンツンしているが密かに親切だ
そんな事を考えているうちに召使がお菓子やケーキをお皿に取り分けてくれている
…食べたい
でも食べて大きくなったらヴァレンタインとエリザベスに食べられてしまう
クリスは葛藤した
そんなクリスに気付いたヴァレンタインは
「お前がガリガリでも骨ごと喰うぞ
せっかく手に入れた魔法使いだ
太っていようが痩せていようが絶対に喰う」
ハッキリ言い切られてしまった
要するに気にせず食べろと言っているんだな、とクリスは考えて
「じゃあ頂きます」
と言うとケーキを一口食べた
「美味しい!」
クリスは驚いた
こんな美味しいケーキは初めて食べた
パクパク食べてお茶も飲むとお茶も美味しい
「何これ!?何もかも美味しいんだけど!?」
「人間は普段、そんなにまずい物を食っているのか?
美味しい物を食べて美味しくなれよ」
とヴァレンタインは楽しそうに言った
複雑だけど、美味しくて止められない
まぁ逃げるにしてもまずはお腹を満たしておかなければ
クリスはそう考えると他のお菓子にも手を伸ばした
♪♫♬ ♬♫♪
ヴァレンタインの姉のエリザベスはとても美しい
クリスは同じ女性だが、あまりの美しさに見惚れてしまう
今はエリザベスの衣装部屋に来ていた
「私の服よ
好きな物を使っていいわ」
ざっと見てもかなりの量だ
華やかなドレスや動きやすい服、普段用のドレスなど様々ある
「でもサイズが…」
クリスがそう言うと、エリザベスはキョトンとした
「魔法で直せばいいでしょ」
「魔法でそんな事も出きるの?」
「やった事ないの?」
「はい」
エリザベスは呆れたようだ
「いいわ、後で教えてあげるわよ」
「ありがとうございます」
きっとこれも美味しくてする為なんだろうな
ヴァレンタインは身体を、エリザベスは魔力を育てる担当かな?
とりあえず大きくなるまでは安全みたいたし、この2人は意外と親切だ
しばらく大人しくして、逃げ出せるチャンスを待とう
♪♫♬ ♬♫♪
しばらくは何事もなく過ぎていた
「ここにいたのか」
庭園を散歩していたクリスにヴァレンタインが後ろから声を掛けた
ヴァレンタインはクリスの側へと来た
「どうしたの?」
「何度か人間を襲う魔獣が現れたから、今日どんな奴か見に行くぞ」
「見に行く?」
「場合によっては殺す
人間を襲いすぎると、人間は討伐に出るからな」
確かに
私達は人間を襲う魔獣を退治する
ひとつの村や町を集中的に襲う魔獣が現れると、すぐに王宮から討伐命令が下る
「ヴァレンタイン達も討伐するって事?」
「人間を喰うと味を占めてまた襲いたくなる
頭のいい奴は場所を変えたりしてしばらく食べなかったりするが、知能の低い奴らは一度食べると病みつきになって、同じ場所で何度も襲うようになるんだ
俺達はそんな奴らをしばらく亜空間に放り込んだり、場合によっては殺す」
「それが貴方達の仕事なの?」
ヴァレンタインはうーんと考えた
「仕事ってのはお前達、人間の社会の事だろ?
俺達のは役割だ」
「役割…」
12歳の私には仕事と役割の違いがハッキリわからなかった
「ま、とりあえず出かけるぞ
準備しろ」
「うん」
私とヴァレンタインは急いで屋敷へと戻った
ご精読、ありがとうございます
m(_ _)m
次話もよろしくお願いします!
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