39話 再始動
ジュリアはどうしようか考えていた
クリスから受けた一撃で右肩から腰の中心あたりまで斬られ、傷がなかなか治らないので後宮からメイスン伯爵の屋敷に帰っていた
以前エリザベスに腕を斬り落とされた時は、腕はすぐにくっついた
なのにクリスに斬られた傷はなかなか治らないのだ
斬られてから1か月近く経ち、傷は塞がったが大きな傷跡が背中にありありと残っている
その傷跡がどうやっても消えないのだ
後宮に戻ればベルナルド皇太子と身体を重ねるだろう
その時にこの傷跡を見られては面倒だ
それ以上にあんな小娘につけられた傷を消す事が出来ない事が許せなかった
何百年とこの世に存在し続けている自分が数年しか生きていない小娘につけられた傷を治しきる事が出来ない
ジュリアにとっては屈辱だった
魔法を使って傷を隠す事は出来る
だがそれはジュリアのプライドが許さず、完全に治そうとしているうちに時間が経ってしまったのだ
自分がメイスン伯爵家にいる間はヒラヌル王女を使ってクリス達をひっかき回そうかと思っていたが、ヒラヌルは国王から謹慎を命じられ未だ解かれていない
「まったく使えないわね」
ジュリアは部屋の中をぐるぐる歩き回って考えた
後宮に戻る事は出来る
ただ人の目が多すぎて傷を消す事に専念できない
だが後宮で美しいドレスや宝石を手に入れる楽しみ、そしてなにより人間達が自分に傅く姿が快感だ
ジュリアは人間が自分の機嫌を取り、ひれ伏している姿にぞくぞくした
昔はまるで虫けらのように簡単に殺したくせに
ふとジュリアは昔の事を考えた
あまりにも昔すぎて記憶が薄らいでしまったが、もとの自分は人間で、そして虫けらのように殺されたという記憶は残っている
ただただあの男が憎かった
死ぬ間際まで呪ってやった
そんな自分の身体に寄り添うように植物が絡みつき、そしてその植物は自分を養分として大きく成長した
長い月日が経とうとも憎いという感情は消える事はなく、反対に膨れ上がっていった
確かあの時は人間の男が私の怨念の浸み込んだ植物を切ろうとして、あまりの怒りでその男に絡みつき殺したのが始まりだったはず
そしてその男を養分として更に大きくなった
同じように小さな魔獣なども養分にした
魔獣は魔力を持っているので、食べれば食べるほど自分にも魔力が宿っていき、そして今のこの身体を造れるまでになった
あの男はなぜ私を殺した?
呪っても呪っても気が済まないくらいの憎しみは覚えている
だが殺した理由は忘れてしまった
ジュリアはふっと笑うと
「そんな事、もうどうでもいいわ」
と呟いた
今はその憎い人間を自分の足元に跪かせ、私の足に口づけをさせている
汚らわしいが快感でもあった
そして気に入った物を手に入れる
ドレスや宝石もそうだが、自分が気に入った物は必ず手に入れた
「ヴァレンタイン…あの美しい男、そして美しい金色の魔力も私の物にしてみせるわ」
ジュリアはそう呟くと呼び鈴を鳴らした
すぐに侍女が部屋に入って来ると
「お嬢様、ご用でしょうか?」
と聞いた
「後宮に戻る準備をして頂戴
ベルナルド皇太子にもお手紙を書くからすぐに届けて」
「畏まりました」
侍女が部屋から出て行くと、ジュリアは窓から外を眺めた
「さあ、リベンジよ」
ジュリアは楽しそうにクスクスと笑うのだった
♪♫♬ ♬♫♪
ヒラヌルは後宮の私室で謹慎を命じられていた
だが今、国王と王妃に呼ばれ会いに来ていた
謁見の間程ではないが広い部屋の上座に玉座があり、そこに国王と王妃が座っていた
国王はヒラヌルを見ると優し気な顔になり
「久しぶりだな」
と声を掛けた
「はい、国王陛下、皇后陛下」
部屋には国王と王妃の他に宰相や大臣もいる
公けの場になるため、ヒラヌルは両親に『父上様、母上様』ではなく国王と王妃として挨拶をした
「ヒラヌル、王妃の私室に許可なく侵入した罰として1か月の謹慎を命じた
謹慎は本日をもって解く」
「ありがとうございます」
国王はうんうんとニッコリ微笑んでいる
だが王妃は怪訝な顔をしていた
自分に迷惑を掛けた事に対する謝罪がないのだ
王妃の私室に無断で入った時にも言っていたが、ヒラヌルは自分が想えば相手も同じように自分を想っていると考えている
王妃の私室に侵入した事も自分がしたかったから許されるが、秩序として謹慎が言い渡されただけと考えているかもしれない
自分に非があるとは考えてもいないので謝罪がないのではないだろうか
王妃は心配になってしまった
この1か月、私室に籠り反省し考えを改めてくれたなら良いが、もしそうでなければまた同じような事を繰り返すだろう
ましてこの謹慎は王妃の私室に無断で入った為で、レイメント伯爵への横恋慕が原因ではない
再びレイメント伯爵や婚約者のクリスティーナに迷惑を掛けてしまうのではないだろうか
王妃がそんな事を考えていると、ヒラヌルはぺこりと頭を下げ
「では失礼いたします」
と言ってその場を退出した
王妃は側にいる女官に視線をやり、扇でこちらに来るように指示を出した
女官はすぐさま王妃の側まで来た
王妃は扇を広げ、顔を隠しながら女官に指示を出した
「ヒラヌルの行動を監視させなさい
ヒラヌルには知られないように」
「畏まりました」
女官は指示を受けるとすぐに王妃から離れた
先程ヒラヌルが居た場所には大臣が現れ、巻紙を広げると報告を始めた
国王と王妃はこれから次々と述べられる大臣からの報告を聞く仕事をこなすのだった
♪♫♬ ♬♫♪
ヒラヌルは私室に戻ると侍女に話しかけた
「ようやく謹慎が解かれたわ」
「良かったですね、王女様」
「ええ
謹慎中の間、全く部屋の外でどのような事があったか知らないわ
令嬢達を集めてこの1か月に何か変わった事でもなかったか話しを聞きたいわ
お茶会を開催する準備をして」
侍女は驚いてしまった
普通、お茶会は準備だけで3か月は必要だ
だがヒラヌルの今の言い方ではそんなに期間を設けるつもりはなさそうだ
「それでは事務官との打ち合わせなども必要ですね
開催日の日程を組むように女官長にお話しをしておきます」
「ダメよ、それじゃ時間が掛かってしまう
私はすぐにしたいの」
ああ、やはり…
侍女は困ってしまった
「王女様、宮殿での開催ですので日程を組まなくてはいけません
招待状の準備やお茶会でのお茶やお菓子の選別、装飾品の準備などもあり、すぐには無理だと存じます」
侍女に説明され、ヒラヌルはむっとした
「じゃあ、どこかで近々お茶会を開催する予定の貴族を調べて
それに参加します」
いや、それも困ります
突然参加するなんて相手にも迷惑だ
ましてや招待状すらないのに
侍女は頭を抱えたくなってしまった
ご精読、ありがとうございます
m(_ _)m
次話もよろしくお願いします!
。◕‿◕。




