37話 招かざる客
「違う、クリス!その魔力じゃない!!」
「え~わからないよ」
オルドリッジ家の裏側にある庭園で、クリスはヴァレンタインとエリザベスに太古の魔法を使えるように特訓を受けていた
だが肝心の『太古の魔法』がどうやっても出て来ない
あの時は出すぎて大変だったのに、使おうとしたら出ないのだ
「この魔力、捻くれてるんじゃない?」
「魔力が捻くれるか!」
ヴァレンタインは太古の魔法と対峙してみたいので、その魔法が使えないクリスにイライラしていた
ヴァレンタインとクリスのやり取りを見ていたエリザベスは顎に手を当てて考えていた
「きっとクリスが危機を感じないと使えないのね」
「よし、じゃあクリスを喰おう」
「本気じゃないから、危機感ないよ」
ヴァレンタインの「喰う」が本気でない事を知られてしまっているので、ヴァレンタインは「あ」と呟いてしまった
「どうやって危機感を出す?」
ヴァレンタインがエリザベスに聞いた
エリザベスは「うーん」と考えて
「いえ、そんなあやふやな使い方じゃだめよ
ちゃんと自分の意志で太古の魔法を使えるようにならなきゃ」
「でもその魔法が使えないじゃないか」
エリザベスはクリスの前まで来ると、クリスの両肩に手を乗せた
「クリス、この前の湧き出るような感覚は覚えているわね?」
「うん」
「じゃあ、ちょっと荒療法よ」
エリザベスはそう言うと、自分のおでこをクリスのおでこに当てた
「ベス?」
「いいから集中して」
「う、うん」
クリスは目を閉じると、エリザベスの魔力がおでこから伝って来る感じがした
その魔力は奥へ、さらに奥へと向かっているようだ
「…いくわよ」
エリザベスがそう言うと、まるで蓋を開けられたかのような感じがすると、そこから魔力が溢れて来た
「わっ!」
「お、来たな」
大量の魔力にクリスは驚き、ヴァレンタインは喜んでいる
エリザベスはまだおでこを合わせている
「クリス、自分で蓋を閉めてみて」
「えっ!?」
「大丈夫、私が側で見ているから」
エリザベスにそう言われ、クリスは先程エリザベスが蓋を開けた感じの逆をやってみた
溢れ出て来る魔力に反発されなかなか蓋を閉めれないが、エリザベスのサポートが入るとようよく蓋を閉めれた
「閉まったぁ」
クリスは一仕事終えたくらい疲れてしまった
エリザベスはおでこを離すと
「これで少しは出し方がわかったでしょ?」
「うん、なんとなく」
「まずは太古の魔力と自分の魔力を自在に切り替える事からね」
エリザベスの教えにヴァレンタインが不満を言った
「なんだよ、そんな事から始めなきゃいけないのか?」
「そうよ
本来の自分の魔力とは違う魔力を使うのよ
まずは魔力を切り替える練習からよ」
「ちぇー」
ヴァレンタインは太古の魔法を使うクリスを訓練したかったので残念そうだ
だがクリスはこれだけでかなり疲れてしまった
エリザベスはクリスの両肩に手を乗せたまま、自分の左側の空をじっと見つめている
「ベス、どうしたの?」
「嫌な奴が来たわね」
「嫌なやつ?」
クリスはエリザベスが見ている方を見るが、何も見えない
だがヴァレンタインも気付いているようで
「なんで俺達がここにいるって、わかったんだ?」
と不思議がっている
クリスはエリザベスが見つめる方をじっと見ると、真っ白な雲の中で何かが動いているように見えた
「あの白いの?」
「そう」
雲に紛れていた白い物はどんどん近づいて来る
近づいてくると、それが魔獣だとわかった
どうやら狼の魔獣のようだ
狼の魔獣はその姿がハッキリとわかる程、近づいて来ていた
「知り合い?」
「そんな訳ないでしょ!」
どうやら招かざる客のようだ
狼の魔獣はクリス達の側まで来るとフワリと地上に降り立った
白い毛並みに少し水色がまじっているような色合いの毛皮で、瞳はスカイブルーだ
大きさはエリザベス達が魔獣の姿に変わった時とほとんどかわらない
「やあエリザベス、ヴァレンタイン」
狼は爽やかに挨拶をした
エリザベスは怪訝な顔をしながら
「よくここがわかったわね」
と聞いた
狼はぼん!と煙を出すと20代くらいの青年の姿に変わった
「ルーベンがあちこちで情報収集をしていたから、君たちがどこにいるか聞き出したんだよ」
「喰ってないだろうな?」
ヴァレンタインが狼の青年をギロリと睨みながら聞いた
「まさか!ルーベンは情報屋として重宝しているから食べる訳ないよ」
青年はそう言いながらクリスに視線を移した
「君がヴァレンタインの想い人?」
クリスはすすすとヴァレンタインの後ろに隠れた
エリザベスとヴァレンタインの態度から察するにあまりかかわらない方がよさそうだ、とクリスは判断した
だがそんな事はお構いなしに、男はヴァレンタインの正面まで来た
「ふーん、なかなか美味しそうじゃないか」
男はそう言うとヴァレンタインに視線を変えた
「なんで食べないの?」
「俺のだからな」
それはどういう意味?
餌として?婚約者として?
聞きたいクリスだが、ここは堪えた
男はさらに一歩前に出て、クリスの右腕をそっと取った
「俺はテッド
見ての通り狼だよ」
「は、初めまして」
クリスは美しいスカイブルーの瞳に驚いた
テッドはクリスの手に顔を近づけると
「うん、いい匂い」
そう言うとテッドはべろん!とクリスの手を舐めた
「ぎゃあぁぁぁ!!」
口づけされると思っていたのに、まさか思いっきり舐められるとは思ってもみなかったクリスは絶叫した
絶叫と同時にテッドが握っている手に太古の魔力が出てしまった
ドン!
とクリスの手から衝撃波のようなものが出ると、テッドは吹き飛ばされた
まさか衝撃波をくらうとは思ってもみなかったテッドは20mほどぶっ飛んで、地面に叩きつけられた
「あ」
そんなつもりはなかったので、クリスは言葉を失った
「あ、出た」
「出たわね」
ヴァレンタインとエリザベスにはテッドの事より、太古の魔法が出た事の方が重要だ
「やっぱり身の危険に反応しやすいのね」
エリザベスはやれやれといった表情だ
「ご、ごめんなさい!」
初対面の人(?)をぶっ飛ばしてしまった
クリスはただひらすら謝るのだった
ご精読、ありがとうございます
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