32話 先祖返り
「先祖返り!?」
クリスは驚いて、聞き返した
するとリチャードは笑いながらこくんと頷いた
「僕も初めて見たよ
とても莫大な魔力が次々と溢れ出ていたね」
クリスは少し考えた
確かにさっきの魔力は普段、自分が扱う魔力とは異質だった
そしてまるで無限かと思えるくらいの力量だった
「クリスがその魔力を使ったのは2度目なのよ、知ってる?」
エリザベスの問いに、クリスはまた驚いた
「2度目!?全然知らない!」
エリザベスはふふっと笑うと、長椅子の背もたれに身体を預けた
「クリスが初めてその魔力を使ったのは、私達が初めて会った時」
「え?」
あの時はヴァレンタインとエリザベスに食べられそうになり、気を失っただけのはずだ
エリザベスは話しを続けた
「あの時クリスはヴァルに食べられそうになり、暴れて杖をヴァルの頭に当ててしまったわね」
「うん」
「あの時に今と同じ魔力が使われて、ヴァルはクリスの魔力に抑えられて魔獣の姿に戻されてしまったのよ」
「…え?」
あれは私を食べようとして魔獣に姿を変えたのではなく、私の魔力に負けて姿を戻されたの?
クリスがヴァレンタインを見ると、ヴァレンタインは不機嫌そうにそっぽを向いている
「どうやらクリスは危なくなった時に無意識にあの魔力を使えるようね」
エリザベスは再びお茶を飲もうと、カップに手を伸ばした
「今回はヴァルの危機がよほど嫌だったんでしょう」
そう言いながらカップを手に取るとお茶を飲んだ
「えっ」
エリザベスに言われ、クリスは顔が赤くなってしまった
確かにジュリアがヴァルにキスしようとしてたので、夢中で飛び出してしまって…
うん、確かに嫌だったけどね
クリスは熱くなった頬を冷まそうと、両手を当てているが全然治まらない
「で、でもベスもヴァルも私を食べる為に強くするって…」
クリスの問いにエリザベスは意地悪な笑顔を浮かべ、ヴァレンタインを見た
ヴァレンタインはぶすっとしながら
「俺がまだ駆け出しの魔法使いに負けたなんて、言えないだろ」
と呟いた
え?私ってあの一撃でヴァルに勝った事になってるの?
意外すぎてクリスは目が点状態になってしまった
「厳密に言うと、クリスの魔法に抑え込まれて従うしかなかったの」
「おい、そこまで言うなよ!」
ヴァレンタインは隣に座っているエリザベスの口を塞ごうとジタバタ暴れるが、エリザベスは片手をヴァレンタインのおでこに当てて防いでいる
プライドの高いヴァレンタインだ
ちんちくりんのクリスに負けたとは言えなかったんだろう
クリスはそう考えると、ぷっと笑ってしまった
そんなクリスをヴァレンタインはジト目で見つめる
「…なんだよ」
「ううん」
そう返事するクリスだが、笑いが込み上げてきてしまう
「でもクリスのあの魔力はあの時だけ
それにヴァルはクリスに従わなくてはいけなくなったから、貴女を屋敷に連れて帰ったの」
「そうだったの」
まさかの理由だった
ずーっと自分は餌として扱われているのだと思っていたのだから
「ヴァルを従わせたのにその魔力を上手く使えていないようだったから、私達がクリスを鍛えてその魔力を引き出そうとしていたの
まあ確かに隙あらばクリスを食べても良かったけど、思いのほか私達は仲良くなったから」
「…」
エリザベスもヴァレンタインも最初から、クリスの魔力を引き出す為に鍛えてくれていた
それを説明せず「お前は俺の餌だ」と言い続けたヴァレンタインが可愛く思えてしまった
「そ、それじゃあ、さっきヴァルが私の魔力を抑えれたのは?」
クリスはヴァレンタインがいきなりキスをして来た事をおずおずと聞いた
「私が抑える事も出来たけど、ヴァルとクリスは主従関係が成立しているの
私よりヴァルの方がクリスに近い関係だから、無理せず抑え込む事が出来たのよ」
え…もしベスがあの魔力を抑え込もうとしたら、私とベスがキスしたって事かな?
クリスはしょうもない事を考えてしまったがそれは置いておいて、次の疑問を口にした
「お父さまはいつ聞いたんですか?」
クリスに聞かれたリチャードはにっこり微笑んだ
「クリスを探しに、初めて彼らの結界に近づいた時だよ」
あの時!?
あの時は結界に侵入しようとしているリチャードにヴァレンタインが一人で会いに行った
その後2人でクリスの所まで来て、助けに来たはずのリチャードが「彼らに鍛えてもらえるのはいい事だ」とか言い出したのだ
なるほど
ヴァレンタインから事情を聞いたのでリチャードはクリスを2人に預けたのか
そうなると…とクリスは考え、エリザベスをチラリと見た
「そしたら、やっぱり私はこの魔力を使えるようにしないといけない…の?」
クリスの問いにエリザベスではなく、ヴァレンタインが答えた
「当たり前だろ!
俺がそんなちんちくりんの魔力に抑え込まれているって他の奴らに思われるじゃないか
しっかり本来の魔力を出して、俺達より強いマリア グアダルーペと同等の魔法使いだって示せ!」
「えー!」
「もうクリスも自分の魔力に気付いたからね
これからは更にびしびし鍛えるわよ」
「そんなー!」
まさか更に鍛えられるとは…
こんな魔力いらない~
クリスは泣きたくなってしまった
♪♫♬ ♬♫♪
日が昇ると、ジュリアは困っていた
傷が塞がらないのだ
こんな傷をベルナルド皇太子に見られては大騒ぎになってしまう
とりあえず今は服で隠しておいた
少しずつだが傷は塞がってはいる
だが時間がかかりそうだ
傷が塞がるまで、ベルナルド皇太子の相手はしない方がいいわね
ジュリアはそう考えると侍女を呼んだ
「気分がすぐれないの
皇太子殿下にメイスン伯爵家に帰りたいとお伝えして」
「はい」
侍女は返事をして部屋から出て行った
もし皇太子が反対すれば、ベルナルド皇太子にも種を飲ませて操るだけだ
どうせこの王族はいずれ根絶やしにするつもりだったのだから、構う事はない
だがジュリアにとって予想外だったのはクリスの存在だった
「あの小娘は何なのかしら?
いろいろな魔力を持っていて、今回はその魔力に負けた?」
ジュリアは自分で言っておいて、首を横に振った
いえ、私があんなまだ数年しか生きていない魔法使いに負ける訳がない
それに魔力が変わるなんてありえない
きっとエリザベスが何かしたのだ
ジュリアはそう決めつけて、自信を納得させるのだった
ご精読、ありがとうございます
m(_ _)m
次話もよろしくお願いします!
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