26話 それぞれ
「王女じゃなかったら一発、ぶん殴ってやるところだ」
物騒な事を言っているのはヴァレンタインだ
青いバラをヒラヌル王女に献上しに行ったのだが、事あるごとにヴァレンタインに言い寄って来る
あげくの果てには宮殿に滞在するようにとまで言って来た
「お父さまの話しだと、国王陛下からご忠告を受けているはずなんだけど」
クリスはお茶を一口飲んだ
ここはルガード国の首都の街で最近人気のカフェだ
2階では飲食できるようになっているので、クリスとヴァレンタインは窓際の席に座っていた
この場所は以前、情報通の魔獣・ルーベンが来た時に教えてくれた場所だ
魔獣なのに人間の人気のお店まで把握しているってどれだけ情報通なのよ、とクリスは思ってしまったが確かに美味しい
お茶だけでなく、お菓子やケーキも上品な甘さで何個でも食べれる
「こっちはジュリアに気をつけなきゃいけないんだ
あんな王女に振り回されるのはごめんだ」
ヴァレンタインは相当ご立腹だ
クリスはヴァレンタインの機嫌を直してあげなければ、と考えた
「ヴァル、ほらこのケーキ美味しいわよ」
「ケーキなんかいらない」
「ほら、あーん」
クリスは一口分のケーキをフォークに刺し、ヴァレンタインに勧めた
クリスがケーキを差し出しているが、ヴァレンタインはぶすっとして反応しなかった
だがクリスが手を引っ込めないので、仕方なくぱくっとケーキを食べた
するとクリスはニッコリ笑った
「ほら、美味しいでしょ?」
「ああ、美味い」
だがヴァレンタインはフォークを持っていたクリスの手を掴むと、そっとその手にキスをした
「だがこっちの方がいい」
クリスはぼんっ!と真っ赤になってしまった
「ヴァ、ヴァッ、ヴァル!」
「うん?」
ヴァレンタインは余裕の笑みだ
自分達の周りにいる客の中から「きゃー」っと悲鳴が聞こえてくる
ヴァレンタインはとにかくイケメンなので、どこに行っても女性からの注目の的なのだ
クリスは真っ赤になりながら手を戻そうとするが、ヴァレンタインが離してくれない
「ヴァル?」
「機嫌を直して欲しいんだろ?
じゃあしばらくこのままで」
ヴァレンタインはそう言うとクリスの手の甲を自分の頬に当てた
クリスはもはや言葉も出ない
奥では「いやー」などと叫び声もしている
その後お茶やケーキの味がどうだったか、全く記憶に残らなかったのは言うまでもない
♪♫♬ ♬♫♪
ヒラヌルは私室でイライラして動き回っていた
「あの女が側に居るからヴァレンタイン様はあの女を立てなくてはいけなくて、なんてお気の毒なのでしょう!」
「そうなのですか?」
「当たり前でしょう!?」
ヒラヌルの剣幕に侍女達は驚いた
「私とヴァレンタイン様は愛し合っています」
「王女殿下とですか!?」
「ええ、そうですわよ!
どう見てもあの女が私のヴァレンタイン様に無理強いさせているでしょう!?
なんて女でしょう!
あんな性悪な女、見たことがありません!
私達の愛を邪魔して!
ただ魔法使いというだけで好き勝手をして、国王陛下もお困りです!」
侍女達はヒソヒソと話しをした
「クリスティーナ様とレイメント伯爵はとても仲が良く見えましたよね?」
「どちらかと言うとヒラヌル王女様が横恋慕なされているように見えましたわ」
「ええ」
だがそんな話し声もヒラヌルには届かない
「酷いですわ
私達、愛し合っていますのにあの女のせいで…
なんてお可哀そうなヴァレンタイン様」
早くあの女を殺してヴァレンタイン様をお助けしなくては
あの水色の髪と目の男は何をしているのかしら?
あんな女くらいすぐに始末できるでしょうに!?
ヒラヌルはがりがりと爪を噛んで怒りをあらわにしていた
「王女様、爪が傷つきます
おやめ下さい」
侍女はヒラヌルの爪を噛む癖をやめさせたいが、ヒラヌルはそんな事は気にしない
「爪なんて貴女達がちゃんとすればいいだけでしょう!?」
ヒラヌルに叱られて侍女達はビクッとした
全く我儘な王女だ
オルドリッジ家のクリスティーナ様もヒラヌル王女に婚約者を気に入られてしまい可愛そうに
侍女達は自分達同様、クリスも心配になるのだった
♪♫♬ ♬♫♪
夜になり、後宮の一室にいるジュリアは微笑んでいた
「ふふ、なんて良い感情なのかしら」
ジュリアはテラスでワインを片手に酔いしれている
すんなり思い通りに事が進まずに、負の感情を膨らませている王女
そろそろ食べてもよさそうだが、ヴァレンタイン達を引っ掻き回すのにもちょうど良い
「そうね…もう少し利用しようかしら」
それに王女を喰らうと大騒ぎとなるだろう
ジュリアは月を見上げた
「金色の魔力は素敵だわ
側に置いてずっと見ていたい」
気に入った物がすんなり手に入っては面白くない
こうやって遠回りしながらゆっくりと楽しまなくては
同じ金色の魔力を持っている女の魔獣は気に入らない
私の腕を切り落とした
あの女はすぐにでも喰らってやろう
それとあのオルドリッジの小娘…
魔法使いとしてはなかなか変わった感じがする
きっとヴァレンタイン達と共に過ごしているので、普通の魔法使いとは違うのだろう
「あの小娘も頂きましょう」
しばらくは退屈せずに済みそうだ
最後はこの国の王族を全て喰ってお終いにすればいいかしら?
人間は不思議なもので、こうやって王族を根絶やしにしても何故かまた王族が出てくる
高貴だと言うが他の人間と味は変わらない
それならばヒラヌルのように負の感情を含ませて喰らった方が美味しいだろう
とりあえず今日は街に住む、負の感情を持つ人間でも食べて来よう
ジュリアはそう考えるとテラスの縁にワインを置き右手をかざした
すると何もない空間にパリッと閃光が光り、空間が開いた
ジュリアはその空間に吸い込まれるように、その場から消えてしまうのだった
ご精読、ありがとうございます
m(_ _)m
次話もよろしくお願いします!
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