25話 献上
ヒラヌルは席から立ち上がると、ヴァレンタインの元へと走り寄って来た
いや、普通は私達が許可を得て近づくでしょ
王女が駆け寄ってどうするのよ
クリスは心の中でつっこんだ
「ヴァレンタインさま!お久しぶりです」
ヒラヌルは嬉しさを隠す事なく、満面の笑みでヴァレンタインを迎えた
このままではヴァレンタインに抱き付いてしまいそうなので、クリスは先手を打った
「ヒラヌル内親王殿下にご挨拶を申し上げます」
クリスの挨拶でクリスとヴァレンタインはお辞儀をしたので、ヒラヌルはヴァレンタインに近づくタイミングを失ってしまいピタリと足を止めた
ヒラヌルはお辞儀をしているクリスを険しい目で見るが、クリスは気づいていない
「わざわざお越しいただき、ありがとう
あちらにお茶を準備させますわ、どうぞ」
ヒラヌルがそう声を掛けると、ようやくクリスとヴァレンタインは頭を上げた
噴水のそばのテーブルへ向かうと既に椅子が2脚追加されている
さすが宮廷の使用人だ
仕事が早い
「さ、どうぞお座り下さい」
ヒラヌルは丸いテーブルの自分が座っていた場所の向かい側に座るようクリスを促し、そして自分の左側にヴァレンタインが座るように勧めた
クリスは勧められた場所に座るが、ヴァレンタインはガタンと椅子を動かしクリスと並ぶように置き直し座った
「ヴァレンタイン様?」
ヒラヌルはヴァレンタインが自分から離れてクリスの横に座りなおしたので、不思議になった
「内親王殿下の隣は恐れ多いので」
ヴァレンタインはしれっと答えた
「そんな事、お気になさらずともよろしいのに」
「いえ、当然です」
ヒラヌルははヴァレンタインを隣に座らせる事は諦めるしかなかった
侍女はそんなやり取りの間にテキパキとクリスとヴァレンタインのお茶の準備をして、お菓子も新しい物に出し直しをした
「ヒラヌル王女様、ご依頼の青いバラをお届けに参りました」
クリスがそう言うと、はるか後方で控えていたオルドリッジ家の使用人が立派な箱を持って近づいて来る
使用人はクリスに箱を渡すと、再びもといた場所へ戻って行った
クリスが箱の蓋を開けると、中には青いバラが収められていた
枯れないように切り口には水を浸み込ませた綿を当て、その綿が見えないように他の花で隠している
ヒラヌルの後ろにいた女官たちは「まぁ」と驚きの声を上げている
それはそうだろう
青いバラなんて、めったにお目に掛れない
「早かったですね」
「はい、ヴァレンタインの魔力で探してもらいましたので」
クリスはヴァレンタインが魔法使いである事を強調した
だがヒラヌルはそんな事より、自分のためにヴァレンタインがバラを探してくれた事の方が嬉しかった
「まあ!ヴァレンタイン様がわざわざ私のためにバラを探してくださったのですか!?」
ヒラヌルは自分とヴァレンタインが相思相愛である事を周りの者達にわからせようと、わざと自分の為と強調した
「愛するクリスティーナの手伝いをしただけです」
ヴァレンタインの一言で、ヒラヌルの策略は思いっきり空振りとなった
更にそんなヴァレンタインの熱愛ぶりを、周りの侍女たちは「きゃ」などと言っている
ヒラヌルはぎりりと唇を噛んだ
青いバラはクリスを屋敷の外へ誘い出す言い訳に過ぎない
水色の髪と瞳の男は殺し屋にクリスを襲わせるために、クリスを屋敷の外へと誘い出すよう言って来たのだ
失敗したのだろうか?
それともチャンスがなかったのだろうか?
いや、失敗したのならもっと大騒ぎになっているはずだ
それにヴァレンタイン様が一緒だったようだからチャンスがなかったのだろう
私のヴァレンタイン様をこれ見よがしに連れまわして…
なんて女なのかしら
ヒラヌルはこの場でクリスを罰せない事に不機嫌になってしまった
「ヒラヌル王女様?」
ヒラヌルのそんな気持ちを思いもしないクリスはどうしたのかと不思議になった
ヒラヌルは扇で顔を隠し、側にいる侍女に手で合図をした
「ありがとうございます
青いバラは確かに受け取りましたわ」
「はい、それでは私達はこれで失礼致します」
クリスとヴァレンタインが退出しようとしたので、ヒラヌルは慌てて呼び止めた
「まあ、そんなにお急ぎにならなくても…
ゆっくりお茶でもお飲みになって」
ヒラヌルにそう勧められ、クリスは仕方なく席に着いた
クリスとしてはいつどこでジュリアと出会すかわからないので、早々に宮殿から帰りたい
何とか早く帰れないだろうかと困ってしまった
「この温室には珍しい植物もありますのよ
よろしければご案内しますわ」
「ありがとうございます」
ますます帰れなくなってきた
クリスはヴァレンタインと顔を見合わせ、困ったなと心の中で呟いていた
クリスとヴァレンタインがお茶を飲み終えると、ヒラヌルは立上り
「それでは参りましょう」
と温室の中を案内しようとした
ヒラヌルは手を差し出し
「ヴァレンタイン様、エスコートして頂けません?」
とニコリと微笑んだ
クリスとヴァレンタインはチラリとお互いを見たが、仕方なくヴァレンタインはヒラヌルの手を取った
ヒラヌルはヴァレンタインにエスコートされながら歩き始め、クリスはその後を付いていった
「ヴァレンタイン様、ご遠慮なさらずにいつでも宮殿においで下さいませ」
「はい」
「ヴァレンタイン様はオルドリッジ家にご滞在なさっているのでしょう?
ご不便でしょうから宮殿でご滞在下さい
部屋を準備させますわ」
なぜヴァレンタインが宮殿に滞在しなければならない?
クリスの疑問と同じように、クリスの後ろを歩く女官達も不思議に思ったらしい
ヒソヒソと何やら話している
「いえ、僕はオルドリッジ家で結構です
愛するクリスティーナと一緒に居られますからね」
「そ…うですか」
ヴァレンタインの返事にヒラヌルは怒りをあらわにした
普通の貴族ならば王族の機嫌を損ねるような事はしない
ヒラヌルが怒っていると気付けば、ヴァレンタインはご機嫌を取る為にヒラヌルの提案を受けるはずだ
だがヒラヌルの思いとは違いヴァレンタインは一気に畳み掛けた
「この後クリスティーナと街で有名なカフェに行く予定です
なので早目にお暇させて頂きます」
「ま…あ、そうですの
仕方ないですわね」
ヒラヌルはわなわなと怒りで震えていた
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