22話 花束
クリスとヴァレンタインはルガード国の首都の街に来ていた
久しぶりに街にやって来たヴァレンタインは随分街並みが変わったのか、物珍しそうに見ている
「以前、暮らしていた時より人が増えたな
店も多くなってる」
「街並みは?」
クリスに聞かれてヴァレンタインは辺りをキョロキョロ見渡した
「ん~なんとなく覚えがあるような、ないような…」
「何年くらい前に住んでいたの?」
「さあな、人間の時間の感覚とは違うからわからないな」
それはそうかとクリスは考えた
人間はどんなに長くても100年くらいしか生きられない
だが魔獣であるヴァレンタインはもっともっと長生きだ
魔獣によって寿命が違うのでヴァレンタイン達はどれくらい生きるのか、本人ですらわからないのだ
「あ、あの店だな」
ヴァレンタインは一軒の花屋を指さした
なぜかヒラヌル王女からの頼みで青いバラを探しているのだ
昨日、突然ヒラヌルからクリスに手紙が届いた
青いバラを探しているのだが、魔法の力で探せないかとの問い合わせだった
青いバラは本来のバラの突然変異だ
世の中には魔力はいたる所に存在しているが、青いバラはその魔力に反応して青くなる突然変異なのだ
花屋に入るといろいろな花がある
「いらっしゃいませ、花束のご注文ですか?」
中年の男性が声を掛けてきた
「いえ、バラを探しているんです」
「バラですか
今、切り花はございませんが裏にバラの花壇がございますよ
よろしければ切ってきます」
クリスは「うーん」と考えた
青いバラは今は赤いはずだ
クリスやヴァレンタインが見ればどの花が青くなるかわかるので
「一緒に見に行って決めてもいいですか?」
と聞いた
「構いませんよ、どうぞこちらです」
中年の男性はそう言うと、机の上に置いてある花鋏を手に取ると店の奥へと案内してくれた
男性の後に付いて行きながら、クリスはヴァレンタインにだけ聞こえるような小さな声で聞いた
「ヴァル、本当にこのお店にあるの?」
「ああ、間違いない」
クリスも花を見ればどのバラが青くなるかはわかるが、ヴァレンタインのように青くなるバラがどこにあるという事はわからない
魔力を感知する力はヴァレンタインの方が鋭かったのだ
さすが最上位の魔獣だ
いとも簡単に見つけ出してしまった
店の裏側に出ると、店よりもはるかに広い敷地に色々な花の花壇があった
フジやハギ、デンファレ、スターチス、ひまわりにかすみ草…色々な花が咲いている
「わあ!」
一面の花畑にクリスは思わず声を出してしまった
「花が好きなのか?」
「嫌いな人はいないと思うわよ」
「そういうものか?」
2人の会話に男性は笑いながら入って来た
「女性は花が好きなものですよ
女性に花をプレゼントすれば、それはそれは喜ばれますからね」
「へえ」
ヴァレンタインにはいまいち理解できないようだ
花畑を進むと奥にバラが咲き誇っているのが目に入った
先程までの花壇より、かなり大きな花壇で育てている
「どうしてバラだけこんなに大きな花壇なんですか?」
クリスがそう聞くと、男性は傷んだバラの葉をつまみながら答えた
「女性にはバラが人気がありますからね
バラだけの花束を注文される方もいらっしゃるので、バラは多めに作っているんです
さぁお嬢様、お好きなバラを切りますよ」
クリスはキョロキョロ見渡した
真っ赤なバラや黄色のバラ、薄いピンクのバラなど色々ある
すると1輪のバラに目が止まった
真っ赤なバラだが魔力を帯びている
「あれにします」
「はいはい」
男性はそう言うとバラを切ってくれた
クリスはそのバラを受け取るとマジマジと見た
うん、もう少し魔力を注げば青くなりそうね
「お嬢様、何本でも切りますよ?」
「じゃあ、バラの花束を作ってくれ」
突然ヴァレンタインが注文した
クリスは驚いてヴァレンタインを見た
「ヴァル、バラの花束を作ってどうするの?」
「ん?女性は花束を貰うと喜ぶんだろ?
ならクリスにやるよ」
なんてムードのない渡し方…
でもヴァルが私に花束をくれるなんて
クリスは顔が赤くなった
男はニコニコしながら
「仲が良いですね
かすみ草もつけると映えますよ」
「じゃあそれも頼むよ」
「はい、畏まりました
お嬢様、そのバラも一緒にまぜますか?」
一人で照れているクリスは声を掛けられ、ハッ我に返った
「あ、いえ!これは混ぜないで下さい
これは1輪だけでお願いします」
「はい、畏まりました
花束はお屋敷にお届しますよ
どちらのお屋敷でしょうか?」
「いや、持って帰るよ」
「それじゃ花束を作りますので、少々お待ち下さい
店の者にお茶の準備をさせますので、そちらでお掛けになってお待ちになっていて下さい」
男がそう言い手を向けた先には、小さな丸いテーブルと椅子が2脚だけある
周りは花壇の花に囲まれているので、クリスは「わあ」と喜んだ
椅子に座るとそよそよと風が流れ気持がいい
「昼寝日和だな」
ヴァレンタインは目を細めている
こういった所がネコっぽい
ぽかぽかとした日だまりに来ると昼寝をしたがるのだ
「花束をもらったらすぐに帰りましょ
お昼寝したいんでしょ?」
「ああ」
ヴァレンタインの屋敷にいる時はよくエリザベスと3人で昼寝をしていた
魔獣の姿になり、大きなネコがお互いを枕にして寝ている
クリスはその真ん中で寝るのだ
ヴァレンタインとエリザベスの金色の毛はとても気持ちがいい
「久しぶりに私もヴァル達とお昼寝したいわ」
クリスがニッコリ微笑みながら言った
「そうだな、ベスも誘って午後から昼寝だな」
ちょうど店の店員がお茶とクッキーを持ってやって来た
店員は「どうぞ」と言うとヴァレンタインとクリスの前にお茶を置いた
のどかな花畑でまったりお茶をして…
帰ったらみんなでお昼寝だ
なんて幸せな午後なのかしら
クリスはこののんびりした時間を堪能しながら、クッキーをつまむのだった
ご精読、ありがとうございます
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