21話 依頼
エリザベスの部屋にはヴァレンタインとクリス、そしてカラスの魔獣・ルーベンが来ていた
「怨念の塊か」
ルーベンは人間が顎を触るように、器用に羽で嘴を触っている
「亜空間まで操っていたわ
あれだけの力を手に入れたなら相当な数の魔獣を食べているはずよ」
「なるほど、それでそいつの事を知っている奴がいないか探すのか」
エリザベスはソファに座って優雅に足を組み替えた
ルーベンはエリザベスの正面に座るヴァレンタインの肩に留まっている
そしてヴァレンタインの横には少々ギクシャクしたクリスが座っていた
「そう
どうやってそいつが発生したのか
どのくらい魔獣を食べたのか
どのような魔獣を食べたのか
とにかくわかる事は全て調べて」
「わかった」
「でもさ、それだけ魔獣を喰ってたなら俺達の耳に入ってただろ?」
ヴァレンタインが不思議そうな顔をして聞いた
エリザベスは顎に手を当てると困惑した表情になった
「そうなのよ
私達だけじゃなくルーベンも知らないなんて」
「発生の原因がわかれば何とかなるの?」
クリスが聞いた
「相手は怨念だから
何が原因でそうなったのかわかれば、浄化する方法がわかるかもしれないから」
なるほど
ようするに未練を断ち切ってしまえば良いという事か
「でもさー俺達があいつを浄化するって事は、あいつを未練から救ってやるって事だろ?
何か助けるみたいで嫌だな」
ヴァレンタインの意見にエリザベスはやれやれといった顔をした
「ヴァルは力尽くでどうにかしたいだけでしょ
それは最後の手段ね
こちらのカードを増やす為に、今は情報が必要だわ」
「ちぇー」
拗ねてしまったヴァレンタインを見て、クリスはぷっと笑ってしまった
何だかんだ言ってもヴァレンタインはエリザベスには逆らわない
ただ子供のように拗ねるだけなのだ
「…なんだよ」
ヴァレンタインは隣に座るクリスをジト目で睨みつけた
「別に」
そう答えたクリスだが笑いが止まらない
「何だよ、喰っちまうぞ!?」
「やだよー」
ヴァレンタインが襲うような素振りを見せると、クリスは両手でヴァレンタインを制した
ルーベンはヴァレンタインの肩に留まっていられなくなり、エリザベスの肩に移動した
「…仲いいな」
ルーベンがぽつりと呟くとエリザベスは意地悪な笑みを浮かべた
「羨ましいの?」
「ま、まさか!」
ルーベンは羽で腕を組むような仕草をすると、ふんっとそっぽを向いてしまった
♪♫♬ ♬♫♪
ヒラヌルは後宮にある庭園を散歩していた
まさか国王と王妃がそろってヴァレンタインとの婚約に反対するとは思ってもみなかった
しかも公けに国王はヴァレンタインとクリスティーナに祝いの品を贈っている
この2人の婚約は国王も認めた婚約となってしまっているので、もやはどうしようもない
あの女さえいなければ…
ヒラヌルは親指の爪をがりがりと噛んだ
そんなヒラヌルを遠くから見つめている女性がいた
ベルナルド皇太子と腕を組み、庭園を散歩しているジュリアだった
あら、なんて良い感情かしら
ジュリアは禍々しい笑みをこぼした
「皇太子殿下、ヒラヌル王女様ですわ」
ジュリアの言葉にベルナルド皇太子もヒラヌルに気が付いた
だがヒラヌルの様子を見ると、ベルナルドは困った顔になってしまった
「今、ヒラヌルに声を掛けては泣きつかれてしまう
ここはそっとしておこう」
「何かありましたの?」
ジュリアの問いにベルナルドは少し考えてから、少し先にあるベンチまで行くとジュリアに座るよう促した
ジュリアが座るとベルナルドも隣に座り、護衛の騎士達に少し離れるように命令した
「ヒラヌルはオルドリッジ家のクリスティーナ嬢の婚約者に横恋慕してしまってね
国王陛下にその者との婚約をお願いしたんだが、反対されたんだ」
「まあ、そうなのですか
ヒラヌル王女殿下がそこまで想われるとは、とても素敵な方なのでしょうね」
「外国の伯爵だよ
とても美しい顔立ちをしているので、ヒラヌルは一目惚れしてしまったのだろう」
ヴァレンタインがいつも側で庇っていたのが確かオルドリッジの小娘だ
そうなると婚約者とはヴァレンタインの事か
暇つぶしの余興が楽しめるかしらね
ジュリアはそう考えるとニヤリと笑うのだった
♪♫♬ ♬♫♪
ヒラヌルは数日間、何も出来ずにイライラしていた
会う貴族達はクリスティーナの婚約の話しで持ち切りなので、不愉快極まりなかった
あの女がいなくなればヴァレンタイン様は自由になれる
そうすれば私との間に障害はなくなる
王族と魔法使いが結婚出来ないと言っているけど、自分は臣籍降下するのだから関係ない
…そうあの女がいなければ
ヒラヌルがそう考えた時だった
「ヒラヌル内親王殿下」
突然声を掛けられ驚いて振り返ると、見知らぬ男性が立っていた
側にいたはずの護衛騎士達がいないけど、ここは後宮の中だ
危険な者が自由に出入り出来る訳がないので、ヒラヌルは警戒すらしなかった
男は水色の髪と瞳をしている
変わった色なのでどこかで会っていれば覚えているだろう
きっとこの男とは初対面のはずだとヒラヌルは考えた
男はヒラヌルに近づくと、恭しく礼をした
「突然、声を掛けた無礼をお許し下さい」
「どこかで会いましたか?」
「直接はございません
ですが私はこの後宮に出入りが許される者です」
後宮に出入りが許さているならば安全な人間ね
「何か用でも?」
「はい、ヒラヌル王女殿下にご進言差し上げたくお呼び止めしました」
「進言?」
男は一歩、ヒラヌルに近づくと小さな声で囁いた
「私は金で雇える人間を知っています
強盗から略奪、そして人殺しも請け負ってくれる人間です」
ヒラヌルは驚いた
…人殺し!
そうだ!あの女がいなくなれば全て丸く収まる
男は話しを続けた
「その者達を雇う時は私も直接ではなく間に数人入れて依頼をしますので、雇い主が誰かもわかりません
安全に雇えます」
もともと思慮の浅いヒラヌルは見知らぬ男が突然こんな話しをしてもそれに対して疑問に思う事もなく、ただクリスを亡き者に出来るとう事だけに考えが集中してしまった
「相手は魔法使いでも殺せますか?」
「はい」
男はニッコリと微笑んだ
ご精読、ありがとうございます
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