2話 魔獣
「…痛い」
えっ?もしかしてこの魔獣が喋った?
人語を発する魔獣は上位魔獣だ
…とってもヤバイ
ボン!と煙が立つとクリスは地面に落ちてしまった
「いたっ」
腰を打ってしまったクリスは「いたた」と言いながら腰を擦っている
ザッと草を踏む音が目の前でしたので顔を上げると、超絶イケメンの少年が立っていた
プラチナブロンドに金色の瞳
呆けてしまう程のイケメンだ
「人間に追われていたのか?」
少年は自分の足元に視線を落とすと、そこにはさっきまで追跡していたイタチの魔獣がいる
「人間なんかに追われるなんて…」
そう言いながらクリスへと視線を移した
「ん?」
少年はクリスをマジマジと眺めた
「お前、ひょっとして魔法使いか?」
「そ、そうだけど?」
クリスの返事を聞くと少年は「ははっ」と笑った
少年は後ろに視線を送ると
「ベス!こいつ魔法使いだ」
思いっきり指をさされてしまった
少年の背後に誰かいるのかと、少し身体を動かして少年越しに覗いてみると、少し離れた所にある大きな岩の上に座っている人影が見えた
ちょうど月明かりが差し、岩の上に座っている人が見え始める
長いプラチナブロンドを風になびかせ、こちらを見ているのがわかった
「あら、魔法使いなの?
久しぶりにいい餌が手に入ったわね」
声は女性だ
って餌!?
岩の上に座っていた女性は岩から飛び降りるとこちらに歩み寄り、少年のすぐ横まで来ると女性はマジマジとクリスを眺めた
少年と同様、金色の瞳だ
少年より少し年上といった感じか?
「随分、弱いわね
魔法使いっていってもまだ未熟そうよ」
「でも久しぶりの魔法使いだぜ
喰っちまおう」
「えっ?喰う?」
クリスの問いに少年はクリスに視線を移した
「そうさ、俺達にとって魔法使いはご馳走だ
昔、喰い過ぎたのか最近はめっきり魔法使いが減ってしまったからなぁ」
クリスは胸の前で杖を両手で握った
ダメだ
私じゃこの魔獣には敵わない
人語を発するだけでなく、人型にまでなっている
かなり上位…最上位の魔獣に違いない
少年はクリスの襟首を掴むとヒョイと持ち上げた
「たっ食べるの!?」
「もちろん」
「やだやだやだ!」
クリスは必死にジタバタ暴れたがびくともしない
「活きが良いな」
ヤバイ!
本当に餌扱いだ
「はっ、離して〜!」
更にジタバタ暴れると、少年の頭にコンと杖が当たってしまった
やっヤバイ!
怒らせたかも
そう考えた瞬間、ボン!と煙が立ち、クリスは再び地面に落ちてしまった
「いたっ!」
「ばっ…ヴァル!
何やってるの!?」
女性が叫んだ
クリスの目の前には大きなネコ科の魔獣がいた
顔だけでクリスより全然大きい
プラチナブロンドの毛並みに金色の瞳
先程まで人型だった少年に間違いない
「貴様…喰ってやる!!」
ネコ科の魔獣は大きな口を開くとクリスにむかった
「ぎゃあぁぁぁ」
大きな魔獣が私を丸呑み出来るくらいに口を開けている
ああ、あの鋭い牙、痛そう
最後に思った事がこれとは…
♪♫♬ ♬♫♪
「なんであなたまで天国にいるの?」
「はぁ?何言ってる
ここは天国じゃないぞ」
少年はツカツカと側に寄って来た
クリスはびっくりして一歩下がるが、少年に頭をガシッと掴まれてしまった
「だって食べるって…」
「ああ、止めたんだ」
「え?」
少年はふうっとため息をついた
「ベスと半分ずつ食べようとしたけど、お前小さいしな
もう少し大きくしてから喰う事にしたんだ
その間、俺達がお前を鍛えるから魔力も育てろよ」
「…はい?」
少年はニヤリと笑った
「身体も魔力も大きくしてから喰うんだ
頑張れよ」
少年はクリスの頭をポンポン叩いた
「はぁ?!」
♪♫♬ ♬♫♪
闇夜の空を駆け抜ける獣がいた
大きなネコ科の魔獣は2匹連なって夜空を駆けている
まるで地上を走っているようだ
後ろを走る魔獣の背中にはクリスが乗っていた
このネコ科の魔獣姉弟と出会ってから3年が過ぎていた
クリスは15歳になり、すっかり少女らしくなった
魔獣の姉はエリザベスといい、弟はヴァレンタインという
名前負けしない、プラチナブロンドの毛並みと金色の瞳
人型になっても美男美女だ
「ヴァル」
「………」
「ヴァール」
「………」
「ヴァレンタイン」
「あ〜、うるさい!何だよ」
後方を走る魔獣・ヴァレンタインの背中に乗っているクリスは少し言いにくそうだが、思いきって話した
「目立たないように移動したいからこんな真夜中に移動してるんでしょ?」
「そうだよ?」
「…貴方達の毛色だと、昼間の方が目だたないと思うんだけど…」
「「………」」
エリザベスとヴァレンタインは黙ってしまった
「俺は昼間の方が良かったけど、ベスが夜中の移動を決めたんだ」
ヴァレンタインは責任を姉のエリザベスに押し付けた
「私達は夜の方が動きやすいの!」
前を走るエリザベスがバツが悪そうに叫んだ
「うーん、私少し寝ていい?」
「落ちるぞ」
「落ちないようにヴァルが上手くバランス取ってよ」
「無茶言うなよ」
「目的地まではもう少しよ
着いたら寝ていいわ」
クリスは仕方なく起きている事にした
真っ暗な夜空を駆けていると星がとても近くに感じる
「星が綺麗ね」
「星は星だ
今も昔もずっと変わらない
それを綺麗っていう人間の感覚が不思議だ」
こういう所が人間と魔獣の考え方の違いなのか
クリスはヴァレンタインの毛皮に顔を埋めた
ヴァレンタインは日頃、美しい自分や姉のエリザベスを見ているから美的感覚がおかしいのかもしれない
かくいう自分も最初の頃はエリザベスとヴァレンタインを見るとあまりの美しさにクラクラしたものだが、最近は見慣れたのか以前程クラクラしなくなった
と言うかこの2人の修行は容赦ない
自分達は魔獣でしかも最上位の魔獣なので、溢れんばかりの魔力を自由自在に操っている
基準が自分達の2人には私がどんくさいらしい
何度、貴方達を基準にするなと訴えてもわかってくれなかった
ネコ科はマイペースすぎて困ってしまう
あ、ダメだ
眠い…
「…クリス?」
「………」
「おい、クリスティーナ!」
「………」
「ベス、こいつ寝てしまったみたいだ」
先をいくエリザベスはチラリと後ろを見ると、確かにクリスはヴァレンタインの背中で寝ているようだ
「ヴァル、落とさないように気を付けてね」
「マジか…」
2匹の魔獣は音もなく夜空を駆け抜けた
ご精読、ありがとうございます
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次話もよろしくお願いします!
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