18話 父親
ベルトレ侯爵家での夜会から2日後の事だった
オルドリッジ侯爵は国王から呼び出され、今まさに対峙している所だ
国王はベルナルド皇太子やヒラヌル王女と同じ黒髪に茶色の瞳をしている
ただ年齢がいっているので、その黒髪には白い物が随分と増えていた
国王は人払いをすると話し始めた
「ヒラヌルがお前の娘から侮辱を受けたと言っている
ベイル国のレイメント伯爵と想い合っていたが、お前の娘が身籠ったと嘘を言い伯爵を横取りしたとな」
オルドリッジ侯爵は絶句した
よくもまぁこれだけ嘘をずらずらとついたものだ
「国王陛下はヒラヌル王女のその話しを信じられたのですか?」
国王は顎に生えている短い髭を触っていたが、その手がピタリと止まった
「…やはりヒラヌルの戯言か?」
「戯言などと、可愛らしいものではないな」
オルドリッジ侯爵はため息を付いた
「まずそのレイメント伯爵だが、魔法使いだぞ
知っているのか?」
「魔法使い!?」
国王の驚き具合いで、ヒラヌルはヴァレンタインが魔法使いである事を隠していた事が窺えた
隠したところですぐにバレるのにな
オルドリッジ侯爵は呆れた
「それとレイメント伯爵とヒラヌル王女が想い合っていたと言うが、レイメント伯爵がルガード国に来たのはクリスティーナのデビュタントの前日だ
そして初めて宮廷に登城したのはクリスティーナのデビュタントでのパートナーとしてだ
ヒラヌル王女はこの数日の間に伯爵と想いあったのか?」
「う…」
国王は冷や汗を流し始めた
「クリスティーナは3年前から魔法使いの修行でレイメント伯爵の元にいた
2人は3年の間に心を通わせ、デビュタント後に正式に婚約したんだ」
「そ、そうか」
「お前の娘はバカか?」
「リチャード、一国の王女をそこまで言うか?」
国王とリチャードは幼い頃からの付き合いだ
共に学び共に競い合い成長したので、二人きりの時は砕けた喋り方になってしまう
「ヒラヌルは甘やかされたのか、どうにも我儘でな
王妃が可愛がりすぎるのだ
儂も父親だからな
ヒラヌルが言う事はまず信じてしまうのだ」
「だがここまで虚偽癖があると問題だぞ?」
「う…む」
王妃はとても気が強い
国王は人が良く温和な性格なので、王妃にはそんな国王を叱咤できるような令嬢が選ばれたのだ
だが分別はしっかりしている王妃だ
いくら娘が可愛くても、これはさすがに苦言を呈するだろう
リチャードはどうしようか考えた
ヴァレンタイン達が魔獣である事を伝えた方が、国王は確実にヒラヌル王女の想いは反対されるだろう
そしてもうひとつの問題、ベルナルド皇太子の愛妾・ジュリアが人間ではない事も伝えるべきか迷った
人間ではないと伝えたら、皇太子に害を及ぼす前に討伐しろと言い出すだろう
だが相手は怨念だ
どのように討伐するのか皆目見当がついていない
頼みの綱のエリザベスは「そうねぇ」と話しをはぐらかす
まだ何かあるのかもしれない
とりあえず魔獣の話しだけしておこうか
リチャードはそう決めると話し始めた
「国王陛下、レイメントという名に心当たりはありませんか?」
国王はリチャードの問いにすぐに食らいついた
「そうなのだ
どこかで聞き覚えがある名だとは思っていたんだ
宰相は聞き覚えがないと言うが、お前は知っているのか?」
「5代前の国王陛下と私の先祖がなされた事はご存じでしょう?」
国王はひげを触りながら何もない空間を見つめて少し考えた
「あれか?上位の魔獣を首都に住まわせた?」
「そうです」
再び国王は考えたが、すぐにハッと気が付いた
「レイメント伯爵だ!」
「そうです」
どうりで聞き覚えがあったはずだ
魔獣に爵位を与え首都に住まわせた事は、国王とオルドリッジ家の者しか知らない
宰相が知らなくて当然だ
この事は公式な扱いではなく、あくまでも国王とオルドリッジ家だけの秘密なのだ
国王は先代国王とリチャードから話しを聞き、そしてそれを次の国王へも伝えるのだ
「その時の魔獣の子孫なのか?」
「いや、その時の魔獣本人だ」
「なに?」
「魔獣は寿命が長い
更に彼らは最上位の魔獣だ
彼らの寿命がどれくらいなのか、それこそ神のみぞ知るだ」
国王は絶句した
まさか数百年前の魔獣がまたこの首都に現れたとは
「リチャード、大丈夫なのか?その魔獣は人を襲ったりしないのか?」
「5代前の国王の時もしばらく首都に住まわせたが、何も起こらなかっただろ?
今もそうだよ
彼らはちょっとやっかいな魔獣を追って、今首都にいるんだ」
「やっかいな魔獣?」
「首都に潜んでいる
その魔獣を討伐する為に彼らの力が必要なんだ」
「なるほど…」
国王は髭を触りながら一息ついた
「するとその魔獣のレイメント伯爵とクリスティーナが想い合っているというのは嘘なんだな?」
「いや」
「何!?本当に想い合っているのか?」
「そうなんだよ」
「お前!『そうなんだよ』でいいのか?相手は魔獣だぞ!?父親としてそれでいいのか!?」
リチャードはニッコリ微笑んだ
「今まで魔獣と人間が交わる事がなかった訳ではない
ただ種が違うから子は成せないがね」
国王は呆れた
リチャードがクリスティーナを可愛がっているのは知っていたが、まさか魔獣のと付き合いを認めるとは
リチャードが認めている以上この話しはこれ以上国王が介入する問題ではないので国王はやっかいな魔獣の方に話題を変えた
「そのやっかいな魔獣とは?人を喰っているのか?」
「一昨日の晩、エイブラハム達が接触したよ
人を喰った後だったそうだ」
「そうなのか
なぜ討伐しない?
簡単に言うな、とリチャードは思ってしまった
「普通の魔獣と違うんだ
討伐の仕方がわからないんだよ
今、調べている」
「そんな魔獣がいるのか?」
「僕も初めて出会ったんだよ
レイメント伯爵達の知恵も借りているが、まだ討伐出来ない
判明したら討伐するよ」
「うむ…頼むぞ」
「じょあヒラヌル王女の件はそっちでちゃんと処理してよ?」
「わかった
レイメント伯爵となればヒラヌルには諦めてもらう」
これでヒラヌル王女の方は大丈夫かな?
あとはやはりジュリアの問題か
リチャードはやれやれとため息をつくのだった
ご精読、ありがとうございます
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